先日、患者さんが献血のあとこのような知らせが届いたと、書類を持って来られました。私も勉強不足で、今まで報告されていなかったとは知りませんでした。以下に赤十字血液センターからの「お知らせ」を掲載します。もちろん相談窓口は地域によって違います。

先日は、献血にご協力いただきまして誠にありがとうございました。
さて、赤十字血液センターでは献血していただきました血液について各種の検査を行っていますが、その結果、通知を希望されましたHTLV-T(ヒトの白血球に感染するウイルス)抗体検査で陽性であることがわかりました。HTLV-T抗体検査が陽性の場合、HTLV-Tウイルスに感染している可能性があると思われ、ごくまれに、リンパ腫、脊髄炎、関節炎、ブドウ膜炎等のHTLV-T関連疾患を引き起こすことがあります。しかしながら、ほとんどの人は生涯、関連疾患を発症することなく過ごされています。詳細につきましては同封いたしました資料をご覧ください。この件につきましては下記に血液センターの相談窓口が開設されていますので、ご利用ください。また不明な点につきましても相談窓口にお問い合わせください。なお、今回献血いただきましたあなたの血液は輸血を受けられる患者さんへのウイルス感染を防ぐ意味で輸血に用いることはできませんでした。何卒、趣旨をご理解の上、今後の献血はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。併せて、あなたの献血へのご理解に心から感謝申し、重ねて相談窓口に遠慮なくご連絡くださるようお願い申し上げます。

姫路赤十字血液センター相談窓口羅受付 月〜金曜日(祭日を除く)午後1時〜4
住所 姫路市龍野町5丁目301
電話 0792945117

いきなりこのようなものが届くと、さぞ驚かれたことでしょう。
以下には、同封されていた資料を御紹介します。丁寧に説明されていますが、病気に関しては自分で判断するのはまず無理ですので、ご心配なら質問コーナーへどうぞ。知りたい項目をクリックしていただければ、このページの答えの部分にジャンプします。

HTLV‐Tとは何ですか?
HTLV‐Tの検査法
HTLV‐Tの感染力
HTLV‐Tの感染経路
母子(母乳)感染について
夫婦間感染
HTLV‐T関連疾患
関連疾患の発生頻度
ATLの症状
HAMの症状
今まで何回も輸血したのにどうして??


HTLV‐Tとは何ですか?

このウイルスは、古くから人類と共存してきたもので、主にヒトの白血球(リンパ球)に感染するウイルスの一つです。Human T-Lymphotropic Virus type I:ヒトTリンパ球向性ウイルス−T型の略称です。日本では九州を中心とする西日本に多いことがわかっています。エイズウイルス(HIV)とは全く関係ありません。

HTLV‐Tの検査法

HTLV‐T感染によって作られる抗体を検査することでウイルスの存在を知ることができます。検査法にはいくつかの種類があり、それぞれの長所と短所があるため、陽性の判定は2〜3種類の方法を組み合わせる必要があります。日本赤十字社では献血された血液についてPA法(ゼラチン粒子凝集法)でスクリーニングを行い、陽性になった場合に、検査結果通知のためにEIA法(酵素免疫測定法)とIF法(間接蛍光抗体法)で確認検査を行っています。HTLV‐T抗体陽性となった場合は、HTLV‐Tに感染し、ウイルスを保有している可能性があると思われ、そのような人をキャリアといいます。日本ではおよそ120万人の方がウイルスを保有していると推計されています。

HTLV‐Tの感染力

HTLV‐Tの感染力は極めて弱く、大量の生きたウイルス感染細胞(リンパ球)の移入がないと感染しません。しかもこのウイルス感染細胞は乾燥・熱・洗剤で簡単に死滅するため、水・衣類・食器・寝具・器具などを通して感染することはなく、蚊、銭湯でも感染しません。インフルエンザのようなくしゃみ、咳などによる飛沫感染もありません。したがって、授乳・性交渉を除く普通の生活での家族内感染や職場での感染、さらに歯の治療・はり治療・理髪などによる感染もありません。特別の配慮は必要ありません。

HTLV‐Tの感染経路

HTLV‐Tの感染はウイルス保有者(キャリア)からの生きたウイルス感染細胞(リンパ球)が体内に入ることでおこります。感染経路としては、次の3つがあります。
1. 母子感染、2.性交渉感染、3.輸血による感染
輸血による感染は、HTLV‐T抗体検査によりほぼ100%阻止されておりますので、主な感染経路は母子感染と性交渉感染(主に夫→妻)です。

母子(母乳)感染について

母子感染は経胎盤感染もありますが、母乳のリンパ球による感染が大部分で、最近のデータでは長期授乳による母子感染は約20%程度といわれています。しかし断乳により大部分は感染の防止が可能です。また、母乳も凍結融解処理すれば感染力は低下します。断乳も報告者によって差がありますが、初乳からの断乳・短期授乳後の断乳があります。詳しい断乳の方法については、妊娠時に産科医にご相談ください。母子感染での予防が続けば、若年者のHTLV‐Tキャリアは今後も減少すると思われます。

夫婦間感染

性行為の場合は、精液中のリンパ球がウイルスを運びますので、おもに夫から妻に感染します。夫婦間の性交渉での感染は、10年間でHTLV‐T抗体陽性の妻から夫へは極めて稀で(0.4%)あり、同じくHTLV‐T抗体陽性の夫から妻へは60%でした。妻に感染しても子どもへの感染は上述のように防止可能です。また、性交渉感染はコンドームを使用することで感染防止が可能です。しかも、成人してからの感染の場合、ATL(関連疾患の一つ、次項目参照)の発症についての報告はありません。いずれにしても、ウイルスが入ったからといって必ずしも感染するものではありません。

HTLV‐T関連疾患

HTLV‐T関連疾患(HTLV‐T感染にともなって起こることのある疾患)は以下の通りです。
1. 成人T細胞性白血病(ATL:リンパ球の1種であるT細胞が腫瘍化する疾患)
2. HAM(ハム:歩行障害や排尿障害を引き起こす脊髄疾患9
3. ブドウ膜炎(眼球内のブドウ膜の炎症)
4. その他(関節炎、気管支炎)

関連疾患の発生頻度

40歳以上の抗体陽性者で年間1000人に1人割合で成人T細胞性白血病(ATL)を発症するといわれています。これは、1日に20本のタバコを20歳から吸い続け、生涯に肺がんで死亡する確率の5分の1以下と推定されています。またHAMと呼ばれる脊髄疾患の発症率はATLより低く、抗体陽性者で年間3万人に1人と推定されています。またHAMは治療法が次第に確立されつつあります。いずれにしても発症するのはキャリアの方のごく一部であり、また感染しても直ちに発症するわけではありません。ほとんどのキャリアの方は生涯、関連疾患を発症することなく過ごしておられます。

ATLの症状

ATLでは主に以下のような症状がでます。
1. 持続的な痛みを伴わないリンパ節の腫大
2. 難治性の多発する皮膚病変または皮下腫瘤
40歳以上の方でこのような症状がでたら最寄りの医療機関(血液内科のある病院)の受診が必要です。

HAMの症状

HAMでは主に以下のような症状がでます。
1. 歩行障害
2. 排尿・排便障害
3. 下肢の脱力感
このような症状がでたらでたら最寄りの医療機関(神経内科のある病院)の受診が必要です。

今まで何回も輸血したのにどうして??

今までは、国(厚生省)の方針で通知されていませんでした。しかし、
1. HTLV‐T抗体陽性の血液の有効利用について検討が重ねられ、血漿を保管しておりましたが、HTLV‐T抗体陽性血漿の分画製剤への利用は、安全性の点から行わないとされ、献血者の方の善意をいかせなくなったこと。
2. 陽性通知を受けた方の精神的負担が懸念され、結果をお知らせすることの是非が検討されてきましたが、学問の進歩でHTLV‐Tや関連疾患などの解明が進み、HTLV‐Tが病気を引き起こすことはあまりないことがわかったこと。
3. 情報公開の時期にあること。
などから、希望する人には通知するという方針が厚生省の中央薬事審議会(H10.7.21)で出されたからです。