このページは、「伝染性紅斑(りんご病)」について説明しています。以下の質問項目から、見てみたいものをクリックしてください。このページの答えの部分にジャンプします。尚、「最近のトピックス」は一般向けとすれば、少し難しい(専門的)内容かもしれません。気になることがあるようでしたら、メールでお尋ねください。

どんな病気ですか?

どんな症状ですか?

治療とホームケアは?

最近のトピックス


●どんな病気ですか?● パルボウイルスB19によって起こります。

Q:いつ頃が多いですか?

A:幼児期〜学童に多く、春から初夏にかけて流行することが多いようです。

Q:感染経路や潜伏期間は?

A:ヒトパルボウイルスB19(HPV B19)というウイルス感染によって起こります。感染経路は唾液などが飛び散って、飛沫感染が主です。感染してから発疹が出現するまで10日前後かかるといわれています。

● どんな症状ですか?●ほっぺがりんごのように赤くなるので、りんご病。

Q:子供がかかるとどんな症状ですか?

A:ウイルス感染時、つまり発疹が出る1週間〜10日位前に、発熱・筋肉痛・倦怠感がみられることがあります。両側のほっぺが赤くなり、1〜2日後には肩から腕、大腿に赤い発疹が出現し、数日後にはまだらなレース編み模様になります。発疹は痒みを伴うことが多く、通常5〜7日で消えていきますが、いったん消失した発疹が日光や運動などによって再燃することがあります。

Q:成人がかかると、子供と症状が違いますか?

A:基本的には同じですが、発疹があまり目立たず、腰や膝の関節痛がみられることが多いです。

Q:再度、受診させるタイミングは?

A:かゆみが強くなったとき、高い熱が出たときは、念のため再受診して下さい。

Q:とくに気をつけた方がいい人はいますか?

A: この病気(りんご病)は、通常それほど重症化することはありません。ただこのウイルス(PVB19)は、赤血球の親の細胞に感染し、破壊するという特徴があります。赤血球には寿命があり(約120日)、したがって一時的に親細胞がやられても、貧血になることはありません。ところが、先天性溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症)の子供さんは、もともと赤血球の形態異常から、赤血球の寿命が短いため、PVB19の感染により貧血が急激に進行します。また、先天性免疫不全の子供さんも、PVB19感染が持続するため、貧血が現れます。私も過去に、白血病患者さんの治療中に、PVB19感染による遷延性の貧血を経験したことがあります。白血病患者の治療中は、極度の免疫不全状態と考えられ、さらにこの感染源は今にして思えば、輸血だったのではと思います。平成8年に輸血によるPVB19感染の可能性が示されました(最近のトピックス参照
 さらに重要なのは、胎児への感染です。妊婦の感染により胎児の貧血とそれに伴う子宮内発育遅滞や胎児水腫が認められることがあります。感染したのに症状が出ない場合(不顕性感染)もありますので,妊娠中に上の子が感染した場合は、必ず産婦人科で相談するようにして下さい。(最近のトピックス参照

● 治療とホームケアは?●

Q:りんご病の治療は?

A:基本的には自然に治りますが、かゆみが強いときは抗ヒスタミン薬を処方します。関節痛に対して鎮痛剤が使われることがあります。

Q:家で気をつけることは?

A:熱いお風呂に長く入ったり、激しい運動などは控えましょう。赤みが長引きます。

Q:予防することはできますか?

A:今のところ予防接種はありません。現在、ワクチンの開発中で、将来は未感染の妊婦が接種の対象になる可能性はあります。発疹が出たときにはすでに流行が広まったあとなので、特別な対策も必要ありません。

Q:登園・登校はいつから可能ですか?

A:頬が赤くなったときは、すでにうつる時期をすぎているので、休む必要はありません。しかし、あまりまっ赤な頬なら2〜3日休ませたほうが無難でしょう。

●最近のトピックス●

Q:血液製剤とヒトパルボウイルスB19感染

A:平成8年11月、厚生省より血液製剤によるPVB19感染の危険性について紹介します。

パルボウイルスB19は1984年に伝染性紅斑(リンゴ病)の病原ウイルスとして認知、命名されたウイルスで、一般的に飛沫感染により一過性の感染を起こすが予後は良好であることが知られている。
今般、各種血漿分画製剤中にパルボウイルスB19のDNAがPCR法(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション法)で検出されたとする文献が企業より報告された。パルボウイルスB19は他のウイルスに比べて加熱や膜(フィルター)などによる不活化・除去が容易でないため製剤中への混入の可能性を否定し得ないこと、また本ウイルス感染症が一般的には予後良好であるものの、一部患者において感染した場合には重篤な症状を招くことがあるとされているため、血漿分画製剤の使用上の注意事項を変更し、これら患者への使用に際し注意を喚起することが適当と考え、関係企業に指導した(平成8年11月11日)。

つまり、アルブミン製剤、グロブリン製剤、因子製剤などには、一定の割合でPVB19が混入している可能性があり、現段階では
1)それをスクリーニングして、混入しているものは使用しないということはできない。
2)HIVのように加熱すれば、すべて死滅させることができるというものでもない。
ということなのです。前にも述べたように、健常人にこのウイルスが感染しても、さほど重症にはならないので、それほど問題にならないのですが、免疫不全患者、遺伝性球状赤血球症の患者、妊婦に感染がおこると重篤な症状が出る可能性があります。したがって、これらの患者さんで、治療上どうしても必要な場合は、このリスクを承知していただかないといけないということなのです。

Q:妊婦とヒトパルボウイルスB19感染

A:PVB19は1980年から、ヒトの病原ウイルスであることがわかってきました。その臨床像は多彩で、1984年には胎児の死産や、胎児水腫が起こることが見いだされました。わが国のPVB19研究の第一人者でおられる、九州大学医療技術短期大学部 布上 董先生の研究結果をもとに、ご紹介します。先生は、私が研修医時代に、突然PVB19の抗体検査をお願いした際も、快く引き受けて下さり、おかげで貴重な症例を経験することができました(当時は簡単に抗体検査をすることができませんでした)。

1.胎児感染の経路

母体の血液中をウイルスが流れるにより、そのウイルスが胎児側に感染する。不顕性感染(ウイルスに感染しても症状がはっきりしない)が多く、母体の感染時期は、大部分不明である。

2.胎児感染が起こる妊娠週数

感染時期が推定できる伝染性紅斑を発病した13例の母体と、発病した長男と接触しながら不顕性であった1例の妊婦で、胎児の経過を観察した。
(1) 妊娠3週前の母体感染例から、在胎39週に感染の証拠を持たない成熟女児が生まれた。
(2) 長男が妊娠3週に伝染性紅斑を発病した母親の胎児は、妊娠23週に胎児水腫を発現、28週に死亡した。
(3) 他の12母体は4〜32週に発病しているが、うち1例が自然流産、2例が胎児水腫で死亡した。妊娠4週に発病した母体の児は36週に1,998gで出生した。生死にかかわらず、すべての児にゲノムDNAを検出した。
以上の臨床データから、妊娠3週ころの母体感染から児に感染が起こり、その後妊娠全期間にわたって、感染が成立すると考えられる。受精前の母体の感染が、胎児に移行したという証拠は得られていない

3.病態生理

まずPVB19は赤芽球前駆細胞(赤血球の親になる細胞)に感染する。感染した細胞は破壊され、貧血の原因となる。これが胎児感染のベースとなる。急激な高度の貧血では流産を起こす。持続感染で貧血が続くと、発育が遅れ、低出生体重児として生まれる。

4.感染胎児の病像、特に奇形の有無

妊娠の中期には肝臓で造血が盛んなため、肝障害のほか、レセプターを持つ心筋の障害も起こり、貧血に加えて胎児水腫の発現を助長する。欧米の胎児水腫の発生は妊娠20週までが多いが、国内では20週過ぎの方が多い。感染から胎児水腫の発現まで6〜7週から20週以上もかかる。胎児水腫が胎内で一過性に起こり、自然治癒するものから、早々に死亡するものまで、さまざまである。水腫なく胎内死亡する事もある。奇形児の報告はあるが、すべて死亡後にみつかり、奇形を持って生まれ育った例はない。

5.感染胎児の予後

前記13例の中で4例(30%)の胎児が死亡している。

6.発生頻度

1987・88年と1992年の伝染性紅斑の流行年に、胎児水腫に限れば、福岡市では出生1,000対2前後である。多くは死亡している。

7.診断法

ゲノムDNAのPCRによる検出、バキュロウイルス組換え抗原による抗体測定が、わが国では最も確実である。児の生存中、羊水のDNA検索は有用である。検査法の進歩により、PVB19の母子感染が、過去の報告ほど稀でなくなった。