ここでは、ウェルシュ菌による食中毒について説明しています。知りたい項目をクリックして、答えの部分にJump!

はじめに

給食病の異名もあるウェルシュ菌は最近、注目されています。加熱=安心は成り立たないのです。

ウェルシュ菌に対する一般的知識

 菌の分布状況と特徴について

 原因食品について

 症状について

 予防のポイント

最近の事例

 ケース1:クリームスパゲティー(刑務所)

 ケース2:おせち料理(ホテル)


ウェルシュ菌に対する一般的知識

 菌の分布状況と特徴について

 人や動物の腸管、土壌、海水など自然界に広く分布しています。この菌は元来「ガス壊疽菌」として恐れられていました。この菌は嫌気性(酸素を好まない) の芽胞菌で、なかには芽胞が100℃4時間以上の加熱でも死滅しない菌もいます。
 食品を大釜などで大量に加熱調理すると、 食品の中心部は無酸素状態となり嫌気度が高くなります。加熱によって他の細菌が死滅してもウェルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残り、食品の温度が50℃-55℃以下になると発芽して急速に増殖を始めます。
 ウェルシュ菌が多量に増えた食品を食べると、腸管内で芽胞になるときに毒素ができ、これにより発病します。「加熱済みの食品は絶対安心」という誤った常識がウェルシュ菌による食中毒の発生原因となっています。原因食品は前日またはそれ以前に加熱調理されていることが多く、大量調理された食品が原因食となる特徴があるため、この食中毒は「給食病」の異名もあります。

 原因食品について

給食などで大量に加熱調理された食品。カレー、シチュー、スープ、麺つゆなどです。

 症状について

潜伏時間は約4時間から12時間。腹痛、下痢が主で、特に下腹部がはることが多く、一般に症状は軽微です。

 予防のポイント

  1. 前日調理は避け、加熱調理したものはなるべく早く食べること。
  2. 一度に大量の食品を加熱調理したときは、本菌の発育しやすい45℃前後の温度を長く保たないように注意すること。
  3. やむをえず保管するときは、小分けしてから急激に冷却(15℃以下)すること。
  4. 再加熱するときは、中心温度が75℃、1分以上を徹底すること。

最近の事例

 ケース1:クリームスパゲティー(刑務所)

<発生状況>
 平成@年8月,ある刑務所の昼食で提供された冷製のクリームスパゲティーを食べた収容者および職員683人中412人が下痢,腹痛などの症状を訴えた。

<原因食品>
 昼食で提供されたクリームスパゲティーからウェルシュ菌が検出されたことから,原因食品はクリームスパゲティー,原因物質はウェルシュ菌と断定された。

<汚染経路>
 ウェルシュ菌は,酸素のない環境で増殖する食中毒菌(偏性嫌気性菌)で,シチューなど加熱調理された食品が徐々に冷却される時,生き残った芽胞が発芽して食中毒を引き起こすことが多い。
 今回の食中毒は,その典型的な例で,クリームスパゲティーのクリームは前日に調理され,32℃の室温で2時間,18℃で15時間放冷されたもので,この間にウェルシュ菌が増殖したものと推測される。加熱されたクリームの内部は,嫌気状態であり,また共存する他の細菌が死滅した状態であることから,ウェルシュ菌にとっては増殖に最適の条件であった。

<対策>
 このような食中毒を防ぐには,食品の保存は10℃で行う,加熱調理は十分に行うなど食中毒菌を完全に死滅させ,増殖させない工夫が必要である。

 ケース2:おせち料理(ホテル)

<発生状況>
 平成@年1月3日軽い下痢症の人が数家族、20名通院してきたとの通報があった。共通食はAホテルのおせち料理で、細菌性食中毒が疑われた。

<原因食品>
 複数の患者便と、おせちのがめ煮からウエルシュ菌(エンテロトキシン産生株:PCR法により確認)が検出された。

<汚染経路>
 おせち料理は31日の午後から配達で、29日から下準備を始め、30日は徹夜で仕込みを行った。がめ煮は30日夕方から大鍋で煮込みそのままガスを止めて放置していた。
 Aホテルでは、スープ釜を始めガス台が並び、徹夜で仕込みを行ったためもあり、冬場にも関わらず調理場は温度が高く、がめ煮を入れたままの鍋の中は、ウェルシュ菌が増殖するのに適した温度なってしまった。