believe〜告白〜


いつの日にかまた会えたら、君に告げたい事がある。


どんな時も、僅かな時でさえも思い続けていたと。
警察庁や本庁の廊下を一人早足で歩きながら、
自分を待つ明かりの一つさえ無い官舎の暗く冷えた玄関に立ち尽くしながら、
君が思い起こさせてくれた[感情]を・・・君との[約束]を忘れずにいた事を。
そうして何より君を・・・君の事を・・・忘れずにいたという事を。


いつの日にかまた会えたら、君に告げたい事がある。


君は気付かなかっただろう?


待ちに待った再会の時。
2年ぶりに会えた私達の会話ときたらどうだろう。
私の最初の一言は「メシ喰う時くらい、タバコを吸うのを控えられないのか」だったし、
君ときたらカップ麺の空いた容器をゴミ箱に投げつけるように捨て、その後は嫌味の連発だ。
そして留めの一言。
「まだ、管理官なんですね。相変わらず!!」
まぁ、言われても仕様が無い現状なのだからと、私は腹さえ立たなかった。
むしろ、君の言うとおりだと、君への恥ずかしさと自身の不甲斐なさに、身体が微かに震えた程だった。


君は、気付かなかっただろう?


君は覚えてるか?


或る時は、一向に埒の明かない捜査に苛立ちながら、
薄明かりのガラス窓に、いつの間にか降り始めた雨の一筋が、
ゆっくりとガラスを伝い落ちてゆくのを、二人して見詰めた。
そして或る時は、事件解決直後の何処か気だるささえも含んだ余韻の中、
夜も明け遣らぬ早朝、誰も居ない風だけが通り抜けてゆく道のその先を
日の出を待ちながら二人して見詰めた。


君は覚えてるか?


私達は、出会った。


君に出会う前の私は、これまでも様々な身の毛のよだつ様なおぞましい事件の数々や
大の男達でさえ余りの惨たらしさに目を逸らしたくなる様な現場を経験してきていた。
日々、次々と息付く暇も無く起こる事件とその報告書の山を前に、
キャリアに反感を持つ部下の捜査員達との軋轢は深まるばかりだったが、
私にはどうする事もできず、ただ一人、悶々と毎日を過ごしていたのだった。
兎に角、事件の早期解決が第一の生活。
自分の[感情]など二の次だった。
むしろ、そんなものは邪魔以外の何物でもなく、
哀しみを忘れ、怒りからは顔を背け、淡々と生きていた私。
プライドだけで目指していた大理石の階段の頂上。
過ぎた日々、過ぎた事件に、何時までも心を残してはいられない。
そんな事をしていては、大理石の階段の途中で足を取られ、踏み外しかねない。
私が居たのは、気を許せるものの一人として居ない、孤独な戦場だったのだから。


私達はまた出会えた。


君は過ぎた日々に残してきた悲しみの数々を、
私と共に数えようと言ってくれた。
「貴方は一人じゃない。
 俺が居ます。
 一人きりじゃありませんから」
立ち止まり、今まで目を瞑り、目を背けていた[感情]の数々を。
共に数えてゆきましょうと、言ってくれた君。


私を信じて欲しい。


君はまだ、私を信じてくれるだろうか?
逢う度毎に、悉く君や君の大切な人達の信頼を裏切り続ける私の事を。
それでも君は、私を信じていると言ってくれるだろうか?
今や二人を取り巻く全てのものは、時間の経過と共に相応に移り、変わってしまった。
それでももう一度、私を信じて欲しい。
きっとまた、手酷く君を、君の大切な仲間達を裏切る事だろう。
それでも私を信じて欲しい。
せめて、君だけでも私を信じて欲しい。
都合のいい話だと、わかってはいるが言わずにはいられない。
それだけ、今の私には君が必要なんだ。
だから、私を信じて欲しい。


思い出にはしたくない
君と出会った日々を
思い出にするには・・・・・
思い出にしてしまうには・・・・・
思い出だけで生きてゆくには・・・・・
まだ足りない
この後、思い出だけで生きてゆくには、
私と君の思い出は少なすぎて・・・・・
いつかは遠くなる記憶でさえ、奪い去れないほどの[想い出]が欲しい


その為に、君に言おう。


どんな時も、僅かな時でさえも思い続けていたと。
君が思い起こさせてくれた[感情]を・・・君との[約束]を忘れずにいた事を。
そうして何より君を・・・君の事を・・・忘れずにいたという事を。


いつの日にかまた会えたら、君に告げたい事がある。


だから私を信じて欲しい。

20050109UP