行かなくちゃ!!

行かなくちゃ!!

行かなくちゃ!!

あの人の所に!!





だって!!

だって!!

だって!!

だってあの人、いなくなっちゃう!!





当直続き。
その挙句の大捕り物に、俺は精も根も尽き果ててた。
とっ捕まえた犯人達の一人を、手近の署員に預け、
後ろから来ていた森下君に手を合わせ、拝むようにして言った。
「マジでゴメン。俺、もう限界。30分でいいから休まして」
ジットリと森下君が俺を見るのも最もで、確か森下君も・・・・・。
でも「仕方ないですね」と一言。
森下君は自分の捕まえている犯人から片手を離すと、
サッサと行けばかりに手を振った。
ぱぁと思わず笑顔の俺。
もう一度、その後ろ姿に手を合わせると、
俺は自販機の傍のソファーへと足を向けた。
とにかく今は、とにかく休みたい。





ソファーに転がる前に、一服だけ。
そう思って愛用の煙草に火を付ける。
一服。ホンの一服。
二口目を吸い掛けた時、小さな旋風が遣って来た。
「青島君!!」
「もぅ〜頼むよぉ。俺、疲れてんだよね。
ね、すみれさん。 後生だから休まして。
後でゆっくりお喋りでも食事でも付き合うから、ね?」
一気に言って、俺は自分の左腕にしがみ付いている同僚の女刑事を見下ろした。
俺の位置からでは、彼女の旋毛しか見えない。
けれど、俺の腕に伝わる彼女の身体の震えから、尋常でない[何か]を感じた。
「・・・すみれ・・・さん?」
意を決した様に、ようやっと面を上げたすみれさんの整った相貌は、不自然な程白かった。
なまじ整っている分、凄みさえ感じる程で、俺の感じた[何か]がどれ程のものなのか、
最早、徹夜続きで労働過多の草臥れた頭では、想像も出来ない。
「・・・・・む、室井さんが・・・・・」





−室井さんが、逮捕された−





真下を通じて、一旦は俺に届くはずだった知らせ。
けれどその時、俺は外で大捕り物の真っ最中。
旧知のすみれさんが代わりに聞いた。





うそだ!!

うそだ!!

うそだ!!

あの人が!!





選りにも選ってあの人が!!





行かなくちゃ!!

行かなくちゃ!!

行かなくちゃ!!

あの人の所に!!





だって!!

だって!!

だって!!

あの人きっと、いなくなっちゃう!!





待ってて!!

待ってて!!

待ってて!!

俺が行くまで!!





いなくならないでいて!!

俺が行くまで!!




〜平成17年5月4日の朝、寝床から飛び起きて考えたお話〜