こ ど う |
ドキリ・・・・・ 胸が音をたてる。 居間の買い換えたばかりの大型のテレビの画面には笑顔のアイツ。 最近、ドラマにCMにとやたらと露出度が増えたアイツのせいで 俺の心臓は煩くて仕方がない。 なんせ相手は神出鬼没だ。 俺が嫁さんや娘、友人達と一緒の時でもお構い無しに現れる。 その度毎に胸が鳴る。 せっかく家族団欒水入らず、気の会う仲間達とゆっくり寛いでいる時でも 俺は皆に気付かれない様にと祈りながら、心の中でみっともない程オロオロしてしまう。 そんな俺の無様な様子なんぞ、アイツは想像もしていないだろう。 画面越しのアイツは、いつも白い歯をみせて爽やかに笑ってやがる。 少しは俺の身にもなってみろってんだ。 画面のアイツを見ていたら、また大きく一つ、胸が音をたてた。 頭にきたんで俺は、アイツに文句の一つも言わなけりゃ気が済まなくなって 嫁さん達が留守なのをいい事に、使い慣れたアイツの携帯のナンバーを押した。 アイツは、すぐに出るだろうか? 果たして、アイツはツーコールで携帯に出た。 「もしもし?」 しかも・・・これ以上ないって程の上機嫌な声で、だ。 「柳葉さん?」 相手があんまり機嫌が良いんで、自分一人カッカして、 後先考えずに電話したのが馬鹿みたいに思えてきて口篭ってしまう。 「・・・・・」 アイツの声が急に心配そうになる 「どうしたの?何かあった?」 「別に・・・」 「そう、なら安心した。 貴方の方から電話くれるなんて、 滅多にないから何かあったかと思って心配しちゃった」 確か俺より7つ年下のはずなのに、コイツはいつもこうやって俺を甘やかす。 早くに父親と別れたせいか、俺はどうもこうゆうのに弱い。 「・・・ん、だよ・・・・・」 「え?ナニ?」 「・・・別に、用がなけりゃ掛けちゃいけねぇのかよ」 だから時々俺はコイツの優しさに、つい甘えてみたりしてしまうんだ。 「ううん、俺は嬉しい。 たいして用もないのに電話掛け合うなんて、 何だか[世間一般]の恋人同士みたいでいいよね?」 「何、小ッ恥ずかしい事言ってんだよ、お前は〜」 携帯を握り締めたまま、俺は思わず赤面してしまう。 「いいじゃない。 俺ホントに嬉しいんだから」 「もう、言うなよ〜!」 「ははは、柳葉さんってばカワイイなぁ♪」 「よりによって40過ぎたオヤジに、カワイイって言うな!!」 完全に俺はコイツに遊ばれてるんじゃないか? 俺がそう思い始めた時に、不意に電話の声のトーンが変わった。 「・・・きっと、家族や友達と一緒に居るだろうと思ってたから 三が日から松の内くらいまでは無理だろうと思ってたんで、 俺の方から電話掛けるの控えてたんだけど・・・・・」 「何?どうしたんだよ、お前急に・・・」 「今日、一人なの?」 「え?・・・ああ、嫁さんと娘はちょっと出てる。 一緒に出掛けようとしたんだけどよ、なんか俺は邪魔なんだと。 だもんで今は俺一人で寂しく留守番中。 それが?」 「・・・あ、そっか。 ふ〜ん、そゆ事ね」 「何だよ。何自分だけ分かったような口利いてんだ??」 「意地悪しちゃおっかな、俺」 「だから、何だってんだよ!」 除け者扱いされているようで、俺は苛々してきた。 「奥さんと娘さんには悪いけど・・・」 「だーかーらー!!」 遂に痺れを切らして荒げかけた俺の声に、携帯越しのアイツの声が包み込む様に重なってきた。 「柳葉さんってば、本当に気付いてないんだね。 今日は、貴方が此の世に生を受けた日だよ」 「あ・・・ッ?!」 「誕生日・・・おめでとう」 同時に、付けっ放しだったテレビの音声が耳に入る。 《いよいよお正月も三日目。 三が日も今日で終わりですね。 明日、4日からは仕事始めの皆さんも多い事と思いますが、 この年末年始のお休み、みなさんどんな風にお過ごしでしたでしょうか?》 「あ〜あ、言っちゃったよ。 二人とも、忘れん坊のパパを驚かせようと思って、 ワクワクしながら特別な日のお買い物でもしに出かけたんだろうに」 テレビでは、また爽やかに笑うアイツのCMが始まった。 なのに耳元の携帯から聞こえてくるのは自嘲気味に響くアイツの声。 (言って後悔するくらいなら、言わなけりゃいいんだ) 思いはしたが、それは一瞬の事で あいつの気持ちは、やはり何より俺の心の深い所に届いた。 「憶えててくれたんだな・・・。 気ぃ遣ってくれてたんだ」 「でも、結局・・・」 「嬉しい」 言い掛けたアイツに、俺は最後まで言わせなかった。 「え?」 「忘れずにいてくれて」 「・・・当たり前じゃないですか」 何処か拗ねた口調だ。 こんな所に、コイツが年下だったって再認識する。 言ったら気を悪くするだろうから言わないけど・・・・・。 「一番に[おめでとう]の言葉をくれたのが、お前で良かった」 心からの言葉。 「だって・・・他の誰でもない。 貴方が生まれてきた日なんですから。 忘れっこないじゃないですか」 「・・・うん」 コイツに貰った暖かいものが、じんわりと身体の隅々にまで染み渡ってゆく。 「大切な貴方の事なんだから」 「・・・うん」 胸がコトリと音をたてる。 「今年も一年。 ううん。 この先ずっと、ずっとずっと・・・・・幸せでいて下さいね」 もう一つ、胸がコトリと音をたてる。 「近いうちに、逢いましょう。 逢って、色んな話しましょう。 ここんとこずっと逢えなかったから。 声聞いたら、逢いたくなっちゃった。 ね?逢って話しましょうね?」 そうしてもう一つ、コトリ。 電話を切った後も、俺の胸は長いこと鳴り続けた。 コトリ コトリ コトリ・・・・・ お前が大切 コトリ コトリ コトリ・・・・・ お前が大事 コトリ コトリ コトリ・・・・・ お前が大好き コトリ コトリ コトリ・・・・・ お前を愛してる コトリ コトリ コトリ・・・・・ [愛の言葉]を詠う代わりに。 2005.01.08UP |
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