先客万来 1 〜うさうささまへ〜 |
ちりりりり・・・・・ ウチの玄関の引き戸を引くと、最近のチャイムの代わりに昔ながらの戸にぶら下がった小さなベルが鳴る。
「はいはーい!!」
非番でウチにいた俺は、元気良くウチの奥にある脱衣場から返事をした。
戸の所からヒョイと顔だけを覗かせて、誰が来たのかと玄関を伺った。
玄関に立っていたのは近所に住んでいる小学生の女の子。
「こんにちわ」
いつもみたいにハキハキと元気良く、俺の顔を見た途端大きな声で挨拶してきた。
「オッ♪今日も元気いいネ〜うさちゃん」
この子ってば、いつも長い髪を可愛らしく2つに分けて、頭の両側に結っている。
時にはお団子にしてみたり、時には三つ編みにしていたり、時にはそのまま結んだだけだったり・・・
(勿論そんな時もとってもキュートなリボンやお花の付いた髪飾りなんゾを付けてる)
今日も名前の通り頭の両側に、お母さんにやって貰ったんだろう、うさぎみたいにちょこんと可愛いお団子を乗っけている。
「どしたの?」
相変わらず、俺は戸ぐちから顔だけ覗かせて聞いてみる。
うさちゃんは胸元に抱えていた一抱えもある荷物をチラッと見て言った。
「パパのノートパソコン、壊しちゃった」
そう言うと、今までの元気はイキナリ何処かへ行ってしまった。
見る間に笑顔が消えて、一瞬のうちに大粒の涙が零れ落ちる。
俺は大慌てで、脱衣場から駆けだした。
実は、俺が今まで脱衣場を出て玄関に行かなかったのは、調度洗濯の真っ最中だったから。
不規則な生活をしている俺と同居人は、どちらかが非番の日は大忙しなんだ。
堪った洗濯物との格闘とかね。
どちらも一人暮らしが長かったから、非番の日の過ごし方ってのには慣れてるっていうか・・・。
言うともなく、互いに同居人のモノも洗っちゃうって感じになっちゃってる。
で今日も朝からバタバタとやってたんだけど、洗濯。
その真っ最中だったから両手が泡だらけで、どうしようも無かったんだよね。
うさちゃんに大慌てで駆け寄ったまではよかったんだけど、気付けばこの泡だらけの手ではどうしようもない。
オロオロする俺の前で、うさちゃんは大粒の涙を零し続けている。
「うさちゃん、そのノートパソコン。チョット下に置いちゃいな」
真っ赤な、それこそうさぎみたいな目で俺を見上げてくる。
「いいから。直ぐにお兄ちゃんが見てあげる。だから、重いだろ?チョットそれ、下ろしな」
うさちゃんはしゃくり上げながら、ノートパソコンを上がり口に下ろした。
「う゛〜〜」
が、今度は空いた両手を目元に持っていくと、一層泣き出した。
後から後から涙が溢れ出てくる。
俺は泡だらけの自分の両手とうさちゃんを交互に見比べて、思案に暮れた。
「しょうがない」
俺はタメ息を付いた。
たった今、着替えたばかりのシャツを諦めることにしたのだ。
「うさちゃん。あんまり泣いちゃうと、おメメが無くなっちゃうよ。ほら、お兄ちゃんのシャツで、顔拭きな」
俺からそう言われたうさちゃんは、うさちゃんの為に上がり口に腰を下ろした俺に、顔も上げずに抱き付いてきた。
両手の泡がうさちゃんに付かないように『お手上げ』状態で暫く泣きたいだけ泣かせておいた。
数分後、小さく一つ鼻をスンと鳴らして、うさちゃんはやっと顔を上げた。
見下ろした俺のシャツの鳩尾の辺りに大きな染みが・・・・・。
パチッとあったうさちゃんと俺の視線。
「プーッ!!」
殆ど同時に吹き出した。
「泣いたカラスが、もう笑った」
「何ソレ?」
どうも最近の子に『ことわざ』ってのは外しちゃったらしい。
だけど、いつものうさちゃんが戻ってきた。
俺はニッコリ笑い掛けると(この笑顔には、チョットばかし自信があるんだ、特に女子供に)、うさちゃんもニッコリ笑う。
「じゃ、手洗ってくるから先にお座敷に行って、待ってなね」
「うん」
元気に返事をするとうさちゃんは、大事なパパのノートパソコンを持ってウチに上がった。
勝手知ったるって感じで(よく遊びに来るんだ)、パタパタと歩いていく。
その後を、俺も「ヨイセ」と濡れた両手を差し上げたまま立ち上がり、付いていく。
「うさちゃん、ジュース飲む?それともアイスかな??」
座敷の入り口でうさちゃんに聞いてみた。
「う〜ん・・・両方!!」
瞬間思案して、現代っ子のうさちゃんは元気にそう返してきた。
「ははは・・・両方ね・・・。了解!!」
力無く笑って、俺はそのまま脱衣場兼洗面所へと歩いていった。
「なんなんだ・・・一体・・・・・(タメ息)」
脱衣場の姿見には、着替えたばかりだったシャツの鳩尾に大きな染みを作った、情けない顔の俺が映っている。
「また、着替えなくっちゃ」
呟く俺に座敷の方から元気な声が聞こえてきた。
「おにーちゃん!!おやつ、まーだーッ?」
俺の額に、思わず同居人「室井さん」のような縦皺がクーーーッキリと刻まれた。
「ヘイヘイ、只今!!」 2000.06.20up 大好きなうさうささんへ、エールの意味を込めて・・・・・お粗末・・・・・(^▽^;))” |
INDEXへ |