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豊錐の夢に戻る

きのこ

作者  yugawara

編集  wahnen wahn(ヴァーネン ヴァーン)

今私は一人誰もいない工場にいる。
誰もいないといっても今は夜中の2時で勤務時間をとうに過ぎている。
私がここの工場長であるため夜間の出入りは容易である。
もともと私は仕事しか生き甲斐のなかった。
多分今工場の誰かがここに来ても仕事熱心な工場長だなとしか誰も見ないだろう。
ただ私は1年ほど前から仕事とは別の楽しみを見つけた・・・。

あの日は同僚の付き合いで池袋に飲みに行っていた。
付き合いで飲みにいくのは別に珍しいことではなかった。
ただ今日はいつもとは違う裏道の小さな店へ行った。
池袋駅北口からそれほど遠くないその店で飲んだ。
宴会騒ぎも終わり解散となったがちょっとした用事でパソコン館にいく必要があったので同僚と離れ北口から西口へとつながる地下通路を通っていた。
少しヤニくさく人通りも多くギターを弾いているお兄さん方もいる、通りなれた道を私はのんびりと歩いていた。
その通路はあいかわらずヤニくさかったが今日はストリートライブをしているお兄さんの変わりにちょっと妖しめの露店が開いていた。
私は物珍しさからちらっとのぞいた。
どうやらキノコを売っていた。
物珍しそうにそのきのこを見ていたらレゲー風のお兄ちゃんが話し掛けてきた。
このキノコはただのキノコと違うそうだ。
幻覚キノコだそうだ。
そのお兄ちゃんは仕事ずくめの私の生活を聞いて
「そんな生活をしていたらストレスが溜まって早死にしちまう息抜きも必要だ」
と話した。
そして
「この幻覚キノコは日常の生活を忘れて自分ひとりだけの世界が見える」
と説明してくれた。
私はついそのキノコを買ってしまった。
あのお兄ちゃんが言うには
「麻薬のような薬は法律に触れるが、キノコみたいな天然の物だったら大丈夫だ」
と言っていた。
あの日以来私はよく池袋に通うようになった。
転々と場所を変えるあの兄さんの店を追いかけた。
あのときから私は幻覚をいうものにはまってしまった。
ある日あの兄さんは私に頼みごとをしてきた。
「今自分の手元に樹脂大麻が大量に入ってきた。
だけど置く場所がないのでお前さんの工場で置けないか」と。
工場長の権限で新製品の試作品だと偽って置けなくもなかったので
彼の頼みを快く引き受けた。
彼は翌日警察に捕まった。
そして 私は・・・ 。
 

 数日後
 「はい、現場の佐藤です。ただいま日本コークス コーラ社船橋工場前に来ています。先日発覚しましたコークス コーラ社の飲料水の一部に大麻樹脂が紛れ込んでいた事件はここ船橋工場から流れ出たものと思われます。
約200リットルと言われている大量の大麻樹脂がどのようにここに運ばれいつ混入されたかはまだはっきりと解っていません。この事件の犯人と思われる小野博仁45歳はおそらく大麻樹脂入りの清涼飲料が出荷されただろう4月某日の夜、工場の足場から転落して死んでいるのが翌日出勤してきた社員によって発見されました。
犯人の死因についても事故、自殺、殺人の3つで調べられています。」
すでに関東近辺で幻覚などの症状を訴えている方が4000人にのぼると言われているこの事件・・・
もしかしたらあなたのその飲み物の中にも混ざっているかもしれませんね。