低髄液圧症候群


 低髄液圧症候群という言葉は聞き慣れない言葉ですので、ここで少し説明しましょう。

 まず髄液からお話しします。正式には脳脊髄液と言います。脳と脊髄はくも膜と硬膜で被われています。くも膜の内側にはこの脳脊髄液があり、その中に脳と脊髄が浮かんでいる訳です。脳脊髄液は大人で約150mlくらいあり、毎日500ml位できるので、1日に3回くらい入れ替わります。すなわち出来る所から吸収されるところまでゆっくり流れているのです。脳の手術の時にはこの脳脊髄液が流れてきます。

 脳脊髄液の検査をする時には腰椎穿刺と言い、腰の背骨の間に針を刺して液を抜きますが、その時にピュッと出てきます。すなわち圧がある訳です。この圧を脳脊髄液圧と言います。測る部位でも違いますし、姿勢でもこの圧は変わります。この圧が正常より低い場合が低髄液圧です。そしてそれにより症状が出た場合、低髄液圧症候群圧と言います。

 腰椎穿刺は、脳脊髄液を調べるために行いますが、検査の初めと終わりで髄液圧を必ず測ります。圧の高さでも脳の病気の情報が得られるからです。脳脊髄液を調べることでよく分かる病気は髄膜炎とくも膜下出血です。他にも重要な情報をもたらすことがあり、脳や脊髄の病気の時にはよく行われる検査です。局所麻酔はしますが、やはり痛い検査です。今回は頭痛が激しくてくも膜下出血や髄膜炎が疑われるので行われたのでしょう。

 その症状は、慢性的な頭痛、頚部痛、めまい、嘔気、視力障害、倦怠、集中力・思考力・記憶力低下など様々です。原因としては脳脊髄液の産生が低下する場合、吸収が亢進する場合、どこかに漏れる場合を考えれば良いのです。上記の患者さんの場合は腰椎穿刺が原因と考えられます。穿刺部のくも膜や硬膜に穴があき、そこから脳脊髄液が漏れ出ている可能性があります。腰椎穿刺後には10〜15%くらいに起こり、特に若い女性に起こりやすいです。診断は腰椎穿刺で髄液圧を測れば良いのですが、この検査自体で症状を増悪させる事があり、慎重にしなければなりません。

 腰椎穿刺の時に放射線同位元素をくっつけた薬を注入し、レントゲン検査で漏れている所を見つける検査が以前はされていましたが、今はMRIでかなりの情報が得られます。特に腰椎穿刺後に起こった場合、穿刺部から漏れている疑いが濃い訳で、その部分を調べると判ります。

 治療は安静臥床で点滴をすれば治ることが多いのですが、どうしても治らないときは硬膜外自家血注入法(ブラッドパッチ)と言って自分の血液を硬膜外に注入し漏れている所をふさぐ方法もあります。どうしても治らないときは手術と言う方法もあります。  腰椎穿刺などの後で、起きると頭痛がするが寝るとなおる、点滴をすると一時的に良くなる頭痛がすれば、低髄液圧症候群を疑います。


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