めまい



まずは体のバランスをとる仕組みからお話します。
 バランスをとるためには、視覚と筋肉や関節にある深部受容器と内耳からの3ケ所の情報が中枢へ伝えられます。中枢では情報が過去の記憶と照合され自分の姿勢や体の位置がどうなっているかを知ります。そして手足の運動神経に指令が出て、体のバランスが自然に保たれるわけです。この働きは無意識に行なわれています。めまいは今述べた回路のどこかが障害されるとおこります。この回路の中では内耳が一番大切です。
 耳は外の方から外耳、中耳、内耳に分かれます。外耳と中耳の間には鼓膜があります。内耳は側頭骨の中にあり、聴覚の働きをする部分と体のバランスに関する部分があります。このバランスに関する部分の一部に、有名な三半器官があります。内耳にはリンパ液が入っていて体が動くとリンパ液も動き、リンパ液の中に浮んでいる細胞がその動きを感じとり、めまいの中枢に刺激を送ります。こうして体のバランスをとっています。この内耳の障害によっておこるめまいを内耳性めまいといいます。



 めまいの頻度は100人中1〜2人です。めまい患者のうち60%は内耳性めまいで、中枢性めまいは10%、その他が30%くらいと言われています。耳鼻科領域の原因が最も多いのですが、めまいの検査で陽性でないと耳鼻科の先生は耳ではないと言われるようで、中枢性めまいを心配して脳神経外科に来られます。

 さて、めまいの種類ですが、3つに分けられます。1つは真性めまいです。これは回転性と非回転性があります。回転性のめまいは内耳性と中枢の急激な障害でおこります。内耳性の場合70〜80%が回転性めまいとして出ます。

 非回転性のめまいはふらついたりふわふわし中枢障害で多く出ます。内耳性の場合は症状が軽くなった時に出ます。2つ目は仮性めまいです。一瞬意識がうすれたり、立ちくらみやふわっとします。これはだらだら続くことが多く、高血圧、低血圧、自律神経失調症、心因性のめまいなどで生じます。

 3番目は平衡失調です。歩行障害、つまづき転倒をおこします。これは薬物が原因の場合や中枢障害で生じます。

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内耳性めまい
   
内耳性めまいはめまい患者の60%を示めます。
 初めにメニエル病です。1861年にフランス人のメニエルという内科医が発表しました。症状は激しい回転性めまいと耳鳴りと難聴を同時に伴います。このめまいは30分〜24時間つづきます。発作は1回から何回もくり返します。原因は内耳のリンパ液がたまり、内耳の圧が高くなるためにおこると言われています。ストレスが原因と思われます。ベートーベンもメニエル病だったとのことです。よくめまいをメニエルと言いますが、正確にはメニエル病ではありません。内耳性めまいで原因の明らかでない場合をメニエル症候群と言いますが、この事です。
 次に良性発作性頭位眩暈症です。比較的良くみられます。頭の位置によって回転性めまいが出現します。3分ぐらい持続します。耳鳴り、難聴はありません。予後の良いめまいで、積極的にめまい頭位をとって、めまいを起こし、慣れる訓練をすると効果的です。当院に来られる患者さんでは一番多いような気がします。
 次に内耳炎です。中耳炎が原因です。耳だれがあり、つづいてめまいがあらわれたら専門医にみてもらって下さい。
 次に前庭神経炎です。風邪によるウイルス感染につづいて激しい回転性めまい、悪心、嘔吐がおこり、その後フラフラ感のめまいが出現します。数週間〜数ケ月つづきます。
 次に聴神経腫瘍です。内耳と脳を結ぶ聴神経にできる良性腫瘍です。回転性めまいは少なく浮動性めまいです。難聴・耳鳴り(高音性)が進行することがあります。MRIで診断が容易になります。
 次に突発性難聴です。ある日突然に難聴が出現します。40%にめまいを伴います。この病気はメニエール病と区別することが難しいことがあります。
 その他に頭部外傷薬の副作用でも生じます。
内耳性めまいは意識障害や麻頼などの神経症状はおこりません。


内耳以外の疾患

大きく分けると二つの原因があると思います。
1つは中枢性めまいです。めまい患者の10%です。脳の炎症、循環障害、脳梗塞や出血、腫瘍、変性症などですここの場合は意識障害や麻痺やけいれんを伴います。一般的には浮動性めまいが多く、耳鳴りや難聴はあまりみられません。
もう1つは内耳と中枢性の区別のつかないめまいです。めまい患者の30%です。この疾患としては頸椎性めまい、高血圧、低血圧、不整脈、糖尿病、自律神経失調症、心因性めまい、更年期障害、そして老化現象があげられます。


めまいの対処と治療法
 
めまい発作をただちにとってしまう技術はありません。
急性期のめまいの場合は光や音をさけ安静にします。はげしいめまいも数時間で軽快します。めまいと伴に頭痛や四肢の麻痺、意識障害など中枢障害の疑いがあれば、すぐに病院に行って専門医にみてもらって下さい。治療はめまい止め、はき気止め、安定剤の注射や薬を投与します。又急性難聴を伴う場合は血管拡張剤やビタミン剤、時にはステロイド剤を使います。
慢性期のめまいの場合はビタミン剤、血管拡張剤、めまい止めを使用します。さらには平衡訓練を中心としたリハビリテーションも必要です。
めまいが頻回にくり返したり、中枢障害が疑われたり、不眠がつづく時は神経内科や脳外科に相談して下さい。


日常生活の注意

仕事のしすぎや睡眠不足をさけ、気分転換をはかり、ストレスのたまらない生活をすることです。
又食事も栄養バランスを考え、刺激物をさけ、規則正しくとるようにすることです。
 治療中のめまいが軽くなったら、寝たり起さたりして、なるべく体を動かして下さい。ここでめまいが悪化しなくなれば、部屋で歩行などの運動をし、スムーズに歩行できれば、5分ぐらい外で歩行して下さい。さらに歩行時間を徐々に延ばし、20〜30分ぐらい早足で歩行しても気分が悪くならなければスポーツをはじめてもかまいません。
 タバコはできれば禁煙して下さい。酒は発作中はやめて下さい。回復して来ればビール1本、酒1合を週1〜2回程度が目安です。

 中枢性めまいの時はそれぞれの疾患で注意が異なります。例えば、小脳梗塞では脳梗塞の危険因子を減らすような注意が必要です。










めまいの種類
 1)真性めまい(vertigo):自分自身、あるいは周囲が運動するように感じるある種の錯覚で、[くるくるまわる][ぐるぐる回転する][傾く][ゆれる]などと表現する。しばしば、自律神経症状(悪心・嘔吐・不安感)、平衡障害、眼振を伴う。末梢あるいは中枢前庭系の急激な片側性(偏在性)の障害により起こる。急激に発症することが多い。
 2)平衡障害(dizziness):バランス感覚の障害、不安定感で、[(酔ったような)ふらふら感]などと表現する。空間見当識を司る各系統からの各種入力の不均衡状態による。前庭系、固有感覚系、小脳系、視覚系、錐体外路系の障害を示唆する。緩徐に進行することが多い。
 3)漠然としためまい感:[はっきりしない頭のふらふら感][目がくらむ感じ][倒れそうな不安]などと表現する。種々の情緒障害を持つ患者(過換気症候群・不安症候群・ヒステリー性神経症・うつ病など)でみられる。
 4)失神、前失神:[意識を失いそうになる感じ][気の遠くなるような感じ]などと表現する。通常、発汗、悪心、不安感、一過性の視力喪失などを伴う。脳潅流が低下して、脳に十分な酸素と糖が供給されないことによる。一般に、血管系あるいは心臓の機能障害を示唆する。

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