頭部外傷


(Q1)頭を打って血が出たので安心したとか、頭を打って血が出なかったので心配したとか時々聞きますが、本当でしょうか?


(Q2)子供が頭を打った後、吐いてしまったのですが、すぐに病院に行った方が良いのでしょうか?



(Q3)頭を打った場合、昔から血が出た方が良いと言われていますが、血が出ない時より軽傷でしょうか?

(Q4)慢性硬膜下血腫ってどんな病気ですか?















(Q1)頭を打って血が出たので安心したとか、頭を打って血が出なかったので心配したとか時々聞きますが、本当でしょうか?

(A1)以前から時々「頭を打って血が出たから安心した」とか「血が出なかったから心配した」とか耳にすることが確かにありました。しかし専門的に言えば全く意味のないことです。すなわち表面の出血と頭部外傷の重症度は関係の無いということです。大昔いくさなどで頭を割られた時、出血していた人の方が血の出ていなかった人より助かったことが多いと言うことで、このようないわれが出来たのではないでしょうか。出血が頭蓋内のものであれば、それが外に出た分、脳に対する圧迫は減る訳です。現在でも救命の為に手術で頭の中の出血を取り出すことはあります。しかしこのことと「頭から血が出たから安心」と言うこととは関係のないことです。頭を打った際、頭の中に異常があれば、頭痛・吐き気等の頭蓋内圧亢進症状や麻痺やしびれなどの神経脱落症状が出ますので、出血が無くてもこれらの症状が有るときは急いで病院にご連絡下さい。
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(Q2)子供が頭を打った後、吐いてしまったのですが、すぐに病院に行った方が良いのでしょうか?

(A2)頭の中に何らかの異常(出血や脳挫傷)がありますと、頭痛・吐き気等の症状が現れますので、頭を打った後吐いた場合は一応頭蓋内の異常を疑います。しかし、実際に検査してみると問題の無い場合が圧倒的に多いのです。それは子供は大人に比べて嘔吐中枢が未熟で、吐きやすいからです。風邪などでも吐きやすいわけです。ですから、吐いた後でもいつもと同じくらい元気であれば、慌てて病院に行く必要はありません。しかしいつもと違うと思ったらすぐに脳神経外科の病院に連絡された方がよいでしょう。
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(Q3)頭を打った場合、昔から血が出た方が良いと言われていますが、血が出ない時より軽傷でしょうか?


(A3)答えは出血の有無と重傷度は関係ないと言う事です。以前にまだ戦(いくさ)と言われる事が行われていた頃の話ですが、頭を打たれて意識がない人々をたくさん見て、頭から血を流している人の方に命が助かる事が多いと言うことが知られ、意識のないひどい人には頭に穴を開けてみたという記録があります。恐らく急性硬膜外血腫や急性硬膜下血腫でなかったかと思います。これらの外傷は今でも緊急手術で血腫除去術をする事があります。このようなことで、頭を打った時に血が出た方が良いという言い習わしが出来たのだろうと考えられます。しかし、頭部外傷の重傷度は表面の(外に見える)出血とは無関係です。先ほど述べた出血は表面に血が出ていないことがほとんどなのです。重傷度は脳の損傷がどれくらいあるかということで、意識の程度と相関が有ります。意識障害強い時は脳の障害も強いと言う事です。表面の出血は頭皮の傷から出ることがほとんどなので、頭の中の状態をあらわしているとは言えません。軽いのは意識もはっきりしていて傷もなく血も出ていない状態です。頭痛も吐き気もない時は一層軽い(心配ない)と言って良いでしょう。
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(Q4)慢性硬膜下血腫ってどんな病気ですか?


 頭を打ってしばらくしてから、どうもおかしいと周りが気付いて病院に連れてくる、そしてCTスキャンで診断され手術になる、殆どの方はすぐに元気になって退院される、と言うのがこの病気です。頭を打った事を忘れている方もいるぐらい、軽度の頭部打撲でも起こります。何故か男性に多く、酒を飲む方に多いのです。お酒の多い方は頭を打つ機会が多いとか、脳萎縮が進んで血腫の出来やすい素質があるとか、いろいろ推測されますが、正確にはわかりません。女性にもないわけではありません。高齢の方には見られます。女性ホルモンの関与を疑う研究者もいるくらいです。  さて、ここで硬膜の勉強をして貰いましょう。右図の様に頭蓋骨の内側にあるのが硬膜です。脳と脊髄を包んでいます。硬膜の下にはくも膜があります。硬膜とくも膜の間を硬膜下腔と言います。ここに出血するのが硬膜下血腫で一般的には急性と慢性に分かれます(亜急性硬膜下血腫と言う概念もありますが、一般的ではありません)。急性と慢性との違いは時間的なことだけでなく、出来方が全く違うものです。急性硬膜下血腫は激しい頭部外傷で脳表面から硬膜に入る静脈が切れたり、脳挫傷による脳自体からの出血がくも膜を破って流れ込んだもので、頭部外傷でも重症のことが多いです。一方慢性硬膜下血腫は最初に書きましたように自分では症状に気付かないこともあるくらい軽いものなのです。

 慢性硬膜下血腫はどのようにして出来るのでしょうか。軽微な外傷でくも膜に穴があき、そこから脳脊髄液が硬膜下腔に出て来て貯まります。この時点で検査をした場合は硬膜下水腫と呼びます。この状態はしばらくすると消える事もあります。一方水腫が大きくなり、水腫を包み込む皮膜が出来て、そこから水腫自体に出血する事があります。これが慢性硬膜下血腫です。この時点で症状が出るのです。 軽い頭痛や麻痺、言語障害が見られますが、僅かなことが多いです。高齢の方では痴呆症状が出ることがあります。ここまでには頭部外傷から1〜3ヶ月時間がかかります。

 治療についてお話しします。今述べました症状が出るまでは自然に治る場合もありますので、定期的にCTを撮り経過をみていきます。小さくなった時はそれで終わりですが、大きくなって症状が出た時は手術になります。全身麻酔が普通ですが、局所麻酔でも出来ます(少し痛いですが)。麻酔の後充分に消毒して4センチくらいの縦切開を血腫側の側頭部に入れます。骨に1センチくらいの穴を開けると、そこには硬膜が見えます。これに十字切開を入れると。血腫の外側の膜が見えます。これを切るとコーヒー色の水様の血腫が勢いよく吹き出します。新鮮な出血の時はドロドロした部分もあります。血液は血管から出ると固まりますが、慢性硬膜下血腫だけは水様です。だから小さい穴で吸引できるのです。血腫が出なくなったらチューブを慎重に血腫の中に入れて生理食塩水で洗います。そのチューブは翌日までそのままにしておき、術後に貯まった血液も取り除けるようにします。手術は皮膚を縫って終わりです。30分くらいで終わる手術です。  手術をすると術前にあった症状が速やかに良くなるのが普通です。痴呆症状で見つかった場合、痴呆症状が良くなりますので、周りの方がビックリされる事もあります。自覚的にも動きにくかった手足がすぐに動き出すなどの改善が見られ喜ばれます。手術で悪くなる場合もわずかありますが
一般的には脳外科の手術で表面の簡単な手術の一つです。
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