第3回お話会 「脳卒中とは」



 平成16年8月28日(土曜日)午後1時半から第3回のお話会を開きました。数日前から台風16号の影響を心配しました。当日台風が来るようであれば、申し込んでおられる方には中止の連絡をしようと考えていました。結局台風が遅れたので、当日は風が少し吹くくらいで、皆さんの足にはほとんど影響がありませんでした。32名の出席でした。

 今回のテーマは「脳卒中とは」でしたが、まず第一回目のおさらいをしました。ポイントは「なぜ高血圧が悪いか?」です。高血圧があると動脈硬化が進みます。そして血圧がますます高くなると言う悪循環を繰り返すだけでなく、動脈硬化性病変(脳卒中、心筋梗塞、狭心症、腎不全など)を起こします。だから高血圧は悪いのです。第二回は痴呆の話でした。痴呆になると感動しなくなります。それでいろんな写真を今回スライドの間に出しました。そして皆さんがどのように感動するかを見てみました。

 いよいよ本題に入りました。私が喋るだけでは皆さんが眠くなりますので、なるべく質問形式で進めました。以下の説明は分かりやすいように箇条書きにしました。話の間に織り交ぜて紹介したトピックスは後に書きました。

(1)中風、脳梗塞、脳卒中、脳溢血、どう違いますか?
 まず脳卒中の定義を説明しました。脳卒中は急に起こる脳の血管の病気の総称です。中風とも言いますし、脳血管障害とも言います。大きく出血(脳出血やくも膜下出血)と梗塞(脳血栓症や脳塞栓症)に分けられます(上を参照)。これらは病態は違いますが症状は似ています。

(2)脳の病気の症状をあげて下さい?
 頭痛と言う答えがすぐに出ましたが、頭痛は風邪などの頭以外のいろんな病気で起こりますので、一番ではありません。答えは、意識障害、手足の麻痺や感覚障害、言語障害、嚥下障害、めまい、視野障害、頭痛などです。
 脳卒中は範囲が広いので、今回は脳梗塞について話しました。(続きは次のページ)

(3)脳梗塞と脳血栓症はどのように違うのですか?
 脳梗塞は大きく二つに分かれます。一つは脳血栓症でもう一つは脳塞栓症です。脳血栓症は動脈硬化が原因で脳の動脈が狭くなりつまるもので、年齢とともに多くなります。脳塞栓症は主に不整脈や弁膜症で血栓が心臓の中にできて、それが頭に流れて行ってつまるもので、若くても起こります。区別がつきにくい事もあります。脳梗塞と言えばつまる病気の全体ですから間違いはありません。

(4)脳梗塞には前ぶれはあると思いますか?
 半数の方が手を挙げられました。一般的には「ある」とお答えしましょう。(前のページのFMのBを参照)

(5)どういう人が脳梗塞になりやすいか?
 答えがスライド通りでないのでちょっと苦労しました。動脈硬化の観点からは、年齢の高い人、高血圧の人、高脂血症(コレステロールや中性脂肪が高い)の人、糖尿病の人、肥満の人、タバコを吸う人、ストレスの多い人などです。ほかには心房細動や弁膜症のある人、脱水の人などです。だから脳梗塞にならないためには、これらに注意する、なっていれば治す努力が必要です。

(6)診断について
 CTスキャンでは脳出血はすぐ診断できますが、早期の脳梗塞と小さい脳梗塞は診断できません。MRIは撮影に時間がかかりますが、脳梗塞の早期診断と小さい脳梗塞の診断に役立ちます。また脳血管撮影が出来ますので、血管の異常を見つける事も出来ます。とにかく出来る限り早く診断しなければなりません。
(MRIは残念ながら当院にはありませんので、ほかの病院で撮って貰います。)

(7)ほかの検査は?
 血液検査や尿検査で脳梗塞になりやすい体質をチェックします。心電図で心臓の病気を調べます。心房細動と言う不整脈があれば脳塞栓症が疑われ、経食道心エコー(食道から心エコーをします)をして、心臓内に血栓がないかをチェックします。

(8)治療はどうするか。
 急性期は出来るだけ安静にし、血液が固まらないような薬を点滴します。脳保護剤や、脳浮腫をおさえる薬を使う事もあります。血圧はやや高めにし、脱水に注意します(食事が少ない時は点滴をします)。酸素が不足していると判断される場合は酸素吸入をします。そして麻痺があれば早めにリハビリをします。
 慢性期は麻痺などの症状があればリハビリを続けますし、再発を防止する為に血液をサラサラにする薬や脳梗塞を起こしやすい体質の治療をします。また脳梗塞を起こしやすい生活習慣の改善をはかります。例えば、禁煙、節酒、運動、ダイエットなどです。

【トピックス】

(1)たまたま受けたCTで脳梗塞があると言われました。どうしたらいいでしょうか。
 「無症候性脳梗塞」と言います。偶然撮ったCTなどで脳梗塞が見つかった場合です。症状がほとんどないので気が付かなかっただけで、脳梗塞は脳梗塞ですから脳梗塞としての精査と治療が必要です。

先月号に以下の事は紙面が足りずに10月号に回すと書きました。しかしよく調べますと、お話会では喋ってはおりません。用意はしていたのですが、時間が足りなかったからです。今月号は紙面にゆとりがありますので、解説します。

(2)CTスキャンでボケがわかるかどうか。
 CTを撮った後の説明の時に「先生、ボケてませんか?」とよく聞かれます。CTスキャンは脳の断面図をみる検査で、分かるのは脳の形に異常があるかどうかと言う事だけです。ボケは脳の働きの問題です。ですからCTではボケは分からないと言う事です。萎縮の強い方がボケているとは言えないのです。ほかにCTで分からないのが心の問題です。心配事が多いとか、イライラがたまっているとか言う事はCTスキャンでは分かりません。CTスキャンで分かるのは、脳出血やくも膜下出血、脳梗塞、脳腫瘍、脳の萎縮の程度、生まれつきの奇形などです。まあ、脳萎縮があると大丈夫かなと心配はするのですが、正確に言えば、CTスキャンでボケはわかりません。

(3)脳梗塞の薬を飲むと納豆が食べられないと言うのは本当ですか?
 この質問もよく聞かれます。答えは半分本当で半分間違いですから、勘違いしやすいのです。脳梗塞の再発防止の為の薬には2種類あります。ワーファリンとアスピリンです。アスピリンの商品にはバイアスピリンとバファリン81があります。納豆を食べては行けないのは、このワーファリンと言う薬を内服している方なのです。納豆は腸の中でビタミンKを作ります。このビタミンKはワーファリンの効き目をなくしてしまいます。ですからワーファリンを内服しても納豆を食べるとワーファリンの効果が消えるのです。納豆自体はワーファリンを飲んでいない方には是非食べて頂きたい食べ物です。バファリンはワーファリンと名前が似ていますが、まったく別の薬で、納豆と関係ありません。
 最近テレビや新聞などで病気に関する内容を目にする機会が多くなっています。毎日どこかのチャンネルで健康に関する番組があっていると言っても過言ではありません。こういう番組を見て、その一部だけしか見ずに誤解を生じている人が結構多いのです。この納豆のこともそうです。番組の中ではワーファリンを飲んでいる方は納豆を食べてはいけませんと言っている筈です。でもその部分は耳に入らずに、脳梗塞と納豆だけが頭の中に残ってしまい、誤解となるのです。

(4)脳梗塞はいつ頃まで良くなりますか?
 脳梗塞は程度次第ですが、1年くらいまでは症状が改善します。しかしそのほとんどは1ヶ月までに改善します。だから1ヶ月を過ぎた時点で残っている症状はかなり後遺症として続くと思った方がいいでしょう。まれには1年ぶりにお会いしたらびっくりするくらい良くなっておられる方もおられます。身体障害者の手続きは以前は発症後半年たたないと出来ませんでしたが、今は3ヶ月で出来るようになりました。裏を返せば3ヶ月たてばもう治らないと認められたと言う事です。(身体障害者の認定は障害がもう治らないと判断された時にされます)

(5)頭痛のする人がくも膜下出血になりやすいか?
 答えは「ノー」です。くも膜下出血は脳動脈瘤(脳の動脈に出来たふくらみ)の破裂により起こります。まれにはほかの原因もありますが、脳動脈瘤が原因と言っても間違いではありません。脳動脈瘤は破裂するまで症状がありません(まれには大きくなって脳を圧迫したり、いろんな神経障害を起こす事もありますが、頻度からいえばまれです)。一方頭痛はいろんな原因でたくさんの方に起こります。ただ多くの場合、眠ったり、鎮痛剤を飲んだりすると、頭痛は取れてしまうのです。また風邪や高血圧の様に原因が分かっている場合はその治療で頭痛も治ってしまうのです。こういう慢性頭痛のする方がくも膜下出血を起こすわけではありません。繰り返し言いますが、くも膜下出血は脳動脈瘤のある方に起こるもので、脳動脈瘤のない方にはまず起こらないと言えます。

(6)脳にしわが多いですねと言われたが喜ぶべきか?
 脳にしわが多いと頭がいいと聞いた事はありませんか。CTの説明で脳にしわが多いと言われた時に、喜ぶのか、がっかりするのか、どちらでしょう。答えはがっかりしなければなりません。人間の脳のしわは皆同じです。しわが多いと言われた場合、脳のしわが目立つと言うことで、脳が萎縮していると言う事なのです。脳のしわは動物が進化とともに増えるので高等な動物ほどしわが多いという事なのですが、人間であればしわの数は同じなのです。

(7)頭が痛いときに冷やしたが良いか、暖めたほうがいいか?
 片頭痛は暖めると悪化し(血管が開くから)、冷やすと改善します。緊張型頭痛は暖めると改善(筋の血流がよくなるから)し、冷やすと悪化します。片頭痛の場合はこめかみ(頭の前)を冷やし、緊張型頭痛の場合は頭の後ろを暖める方がいいのです。よく首筋を冷やすと頭痛が楽という方がいますが、これは神経が麻痺するための見せ掛けの改善であり、治りを遅くする場合もあります。

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