((PART3))


美しい〜@@@


 もし、今日の"Jeopardy!"(注:クイズ番組)で<ブルース・ウィリスの初期の作品>についての問題が出て、ブレンダンと私とで『どちらが相手を出し抜くか?』の賭けをしたら、きっと私が勝ったに違いないと思う。
去年の春、NYの5番街をメトロポリタン博物館に向かって彼と歩いているときには、出題範囲が、ハリウッド版似非知識問題・・・<演劇>について・・・に変わっていた。
「昨夜、“コペンハーゲン”を観たんだ。」
とMichael Frayn作の劇の名前を言ったことで、私は勝利を確信していたのだが・・・。
「君はもう観たのかな?」

「いや、まだだよ。でも、"True West"は観るべきだ。」とブレンダンは答えて、こともなげに私をへこませてしまった。・・・私が観たくて仕方がなかったのに、どうしてもダメだったたった一つの作品の名前を挙げただけで。

失望の涙にくれる前に、すべてを賭けてみようと決心した私は、フィリップ・シーモア=ホフマンの演技を賞賛しているブレンダンの話を遮った。
「・・・ああ、そうだね。ところで、“グラディエイター”は観たかい?」これは、最後の切り札だ。この映画はたった2日前に封切られたばかりだし、この2晩ブレンダンに予定が入っていたのを私は知っていたのである。

「今夜、妻と観に行くつもりだ。」
奥さんと剣闘士の映画を観に行くって〜??
ちょっと待って。ゲームオーバーだ。私の負けだ!

ブレンダンのことは調べてあったので、私にはわかっていたが、アフトンは彼の秘密兵器なのだ。彼女は、<放浪者ブレンダン>に子供の頃から抱えて廻っていたカバンをおろす場所を与えた。彼女と居ると、落ち着いて暮らせて、家庭を感じることができるのだ。
二人が出会ったのは、1994年の夏、ちょうどブレンダンの<内なるSpacey>が彼のキャリアをほとんどドブの中に沈めようとしていた時だった。彼は、“クイズ・ショウ”でレイフ・ファインズが演じたCharles Van Doren役よりも、“ハードロック・ハイジャック”への出演を選ぶという、まことに奇妙な決断をくだした。

「僕は“青春の輝き”に出演し、ハーヴァードで本からの知識ではないことを学んだ男の話“きっと忘れない”の撮影を終えたばかりだったし、それ以前に、寄宿学校を題材にしたTVドラマのパイロット版にも出たことがある。だから、ニュー・イングランド地方関係のことから離れたかった。大学生や高校生を演じ続けたくなかったんだよ。」と、メトロポリタン博物館の洞窟のような入り口のホールを進みながら、ブレンダンは言った。
もっと突っ込んで訊いてみると、彼ははっきりと言ってくれた。“クイズ・ショウ”の役は、『どうぞやってください』というふうに差し出されたものではなく、彼の方から監督のレッドフォードに会いに行かなければならなかったのだと・・・。
「実際、ロバート・レッドフォードには一目置いていたんだ。"A River Runs Through It"について読んだことがあったから。でも、役はもらえなかった。・・・“ハードロック・ハイジャク”みたいなあけっぴろげなコメディ映画よりも効く<解毒剤>ってあるかい?」

その通り。アダム・サンドラーや、彼のSNL(TV「サタディ・ナイト・ライヴ」)仲間のクリス・ファーレー達とつるんでる方が、ブレンダンが生まれる前にアカデミー主演男優賞を獲ったポール・スコフィールドと<父と子>のシーンを演じるよりも、きっと楽しいだろう。・・・だが、後で考えてみると、ベストな決断とは言えないかもしれない。

一方、この年、良い出来事もあった。
ブレンダンは、ウィノナ・ライダーの家で開かれた7月4日(独立記念日)のパーティで、未来の妻と出会ったのだ。
数年後、彼は、1940年代製のポラロイドカメラを使って、彼女に<びっくりプロポーズ>をしようと考えた。計画はこうだ・・・
パリのArts橋を彼女と歩いている時に、このヴィンテージ物のカメラをタイマーにセットして、二人一緒の写真を撮ることにする。二人がカメラに向かってポーズをとってる間に、ブレンダンは彼女にわからないようにコートの前を開き、『結婚してくれる?』と書いた紙が写るように見せる。彼の希望としては、アフトンができあがって出てくる写真を見ている時に、指輪を渡したかったのだが・・・。
邪魔が入ってしまい、露出が悪くなってしまったので、ブレンダンはカメラをどけて、ひざまづいたというわけだ。
私にその話をしてくれてる彼に尋ねてみた。
「君にとって、カメラというのはシールドのようなものなのかな?世間とか親密なものに対する緩衝物なのだろうか?」
すると彼は、「僕は永遠に自分の心に残るものを捕らえようとしてるんだ。」と言って、私の考えを退けた。

アフトンと初めてのデートをしている頃のブレンダンのキャリアは、<将来性がある>ということからはほど遠いものだった。“ベストフレンズ・ウェディング”でダーモット・マルロニーが演じた役を獲得できなかったし、まして、“ゴッド and モンスター”のクレイトン・ブーン役を得るというのは、かなり難しかったのだ。恐怖映画の監督ジェームズ・ホエィルの心を虜にする庭師の役には、最初、ロバート・ダウニー・Jr.が選ばれていた。
「あの時点では、ブレンダンへの評価はかなり低かったからね。」と、脚本・監督のビル・コンドンは思い起こす。「クレイ役には、フランケンシュタイン映画でボリス・カーロフが表現したことをできる人が求められていたんだ。凶暴性がありながら、魂には詩的なものを持っている・・・そういう演技ができる豊かな才能が必要だった。」

だが、彼の<凍った時間>にもついに終わりが来た。1997年7月22日朝、ロス郊外イーグル・ロックにある古い邸宅で“ゴッド and モンスター”撮影中のことである。エージェントが電話で知らせてきたのだ。“ジャングル・ジョージ”が東海岸での公開で上々の成績を上げ、興収一億ドルに達する勢いだと・・・。
ブレンダンは携帯電話を切ると、地面に倒れ込んだ。どうにも抑えきれなくて、草の中を転がりながら彼は笑い続けた。ギャンブルに勝ったのだ!・・・ブレンダンは子供じみた興奮に包まれていた。

“ジャングル・ジョージ”の興行的な成果は、やがて“ゴッド and モンスター”への芸術的な称賛に繋がることになる。“ゴッド・・”の試写が始まり、早いうちから脚光を浴びるようになった時、シェイクスピア俳優で“X-Men”に主演したサー・イアン・マッケランは、ブレンダンについてこう語った。「私はあの子から大いに学ぶところがある。」<学んだ>とはどういう意味なのか?「カメラの前でのブレンダンは、ほとんど演技していないように見えるんだ。感心したね。彼の演技を思い出す度に、私も、大げさな演技は控えるようにしようと思うんだ。」と、後に私に話してくれた。
映画の公開後は、コンドン監督がブレンダンへの称賛のことばを募った。「あるパーティで、シャーリー・マクレーンに会ったんだ。彼女が言うには、“くちづけはタンゴの後で”のブレンダンは、“アパートの鍵貸します”で共演したジャック・レモンを思い起こさせたそうだ。」と、コンドンは言う。「これはおもしろい比較だと思ったね。ブレンダンは、未だに、ほとんどコメディ俳優だと思われてるようだが、レモンの方は、もっと後になるまで、シリアスな作品はやらなかったからね。」

将来、ブレンダンが“酒とバラの日々”(注:ジャック・レモン主演のシリアス映画)を持てるかどうかは、時が経てばわかることだ。
彼と二人、メトロポリタン博物館のギャラリーで、Walker EvansとJames Ageeによる"Let Us Now Praise Famous Men"というモノクロ写真を見つめていて、私は思った・・・<Fraser2000>自身は、昔へ逆戻りしたものではなく、スタイルがレトロなだけで、現代的な型なのではないかと。
彼は、影響を受けた人としてバスター・キートンを引き合いに出す。また、結婚して(彼の)映画ファンでもある妻のアフトンは、彼が映画の中で演じる役は、そういう<昔ながらの人物>なのだと述べる。

ハロルド・レイミス監督も、ブレンダンを現代俳優の中で位置づけようとして、自然と、古き良きハリウッドへと思いが及んだという。
「マイク・マイヤーズがまじめくさって演技しても、どうも説得力が感じられない。ジム・キャリーがシリアスになると、ロビン・ウィリアムズがシリアスな時とちょっと同じ感じになる。あまりにシリアス過ぎるんだよね。」と、レイミス。「“悪いことしましョ!”はすごくおバカな映画だ。でも、ブレンダンはその<おバカ>加減をうまい具合に引き締めることができるので、観客の気持ちを自分の方に向けさせることができるんだ。彼自身の誠実さが一役買ってるんだよね。ちょうど、ヘンリー・フォンダやジミー・スチュワートが人柄の良さを発散させていたように、ブレンダンも確かに同じものを持っている。それは、持ってる<振り>をして現れるものではなくて、彼の行動すべてを通して光り輝いてくるものなんだよね。そういうところに、ハリウッドのヒーロー達は誕生するんだ。」

さて、ここにいるハリウッドのヒーローはというと、今日の午後いっぱい、メトロポリタン博物館のエジプト・コーナーを私と二人で観て廻って、今は私の背中を眺めている。彼がインディアナ・ジョーンズばりのヒーローを再び演じる“ハムナプトラ2/黄金のピラミッド”にふさわしい門出の場所である。
芸術を楽しむということ以外でも、ブレンダンはよく博物館に通うという。「人からまる見えでも、<隠れる>のにうってつけのところだからね。だって、みんな、壁に掛かってるものの方を観てるだろう?」と彼は言う。
とはいえ、彼が一般的なハリウッド・スターの変装---野球帽に黒のTシャツ---をしていても、何人かは、目の前の<石棺鑑定人>が誰なのかということに気付いて、その場に固まってしまうのだ。ある男などは、自分の妻を守るように彼女の体に腕を廻し、この地下室から彼女を導き出していた。あたかも、ブレンダンがそこに居るだけでNefertiti(注:エジプト王朝の女王)を目覚めさせ、火の柱が立って、五番街のホットドッグ売り達をなめ尽くしてしまうのではないかと言わんばかりに・・・。

「無名でなくなって初めて、無名だった頃が恋しくなるよ。」と、人を早足にさせてるのはここに自分が居るせいだと認めるつもりで、ブレンダンは言った。
だが、彼は、成功というものが、必ずしも、プライバシーを強引に奪っていく者達の侵略を意味するとは限らない・・・と信じている。レオナルド(・ディカプリオ)の恋愛沙汰などは、すべてが世間の知るところとなるのかもしれないが、ブレンダンはむしろ、ハリソン・フォードのように、どちらかというと<隔離>された生活を好むようだ。
「一人の俳優について全てを知りたいと思ったら、その人の出演作から学ぶことができる。逃げ腰でいたいわけではないんだけど、自分のための何かを守るって大事なことだと思うよ。」と、プライバシーを守るために策を講じることがだんだん増えてきているのが自分でもわかると言う。今まさに増え続けている多勢のファンが、スクリーン上での脳天気な男と、博物館に足繁く通う写真好きの静かな語り口の男とを混同しているからだ。

多分、<要求に応じての不可解さ>という機能は、偉大な(技術)革新なのだろう。これによって、<主演俳優プロジェクト>に携わる白い研究着の男達は持ちこたえて来たのだ。そして、彼らが正しい計算の結果を得られた時、初めて、<Fraser 2000>は成功(とプライバシー)を楽しむことができるようになるのだろう。「胸をたたいて、手近なツタにつかまって飛んで見せて!」と要求するような人達、かかとを噛む(=スカラベのような)人達と立ち止まっておしゃべりするのを、ブレンダン自身が厭わない限りは・・・。

(John BrodieはGQのsenior writerです)


<<一部、省略しました>>





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