Gorgeous Rick!


『悪魔とブレンダン・フレイザー』

・・・"Biography"誌、2,000 August issue より。

 みんなの憧れのヒーローが、超ロン毛で肌にはタトゥを入れ、パープルのマニキュアまでして、ぐるぐると廻りながらヘヴィ・メタのロックを歌う・・・こんなものを観たら、ちょっとショックだ。そのうえ、「ジャングル・ジョージ」のスター、ブレンダン・フレイザーともあろう者が、いやらしい目つきをして誓いを立て、卑猥な仕草をしたり、イケナイ煙草まで喫う。
 かといって、優しさと知性とハンサムな容貌で知られたブレンダンの性格が急に変わってしまったわけではない。これは、秋に公開される新作「Bedazzled」の中の一シーンに過ぎず、この作品でブレンダンはスーパースターの座に一段と近づいた。
 “堕落したロックスター”は、ブレンダンが映画の中で演じる7つの役のうちの一つだ。監督のハロルド・レイミスは、“7つの小さな物語”と呼んでいるが、ブレンダンは他に麻薬王、天才、そして身長7.9フィートのバスケ選手などに扮している。レイミスは、彼を「才能ある上手い役者だと評する。「ブレンダンの今までの出演作を観てわかっていたんだ。彼は威勢の良いヒロイックな役柄から、緻密でシリアスなものまで、演技の幅がとても広い。色々な役柄をかっこよく演じることに長けているし、完璧な〔おマヌケ〕にだってなれる。魅力的な男でいるため、威厳を保つために妥協する・・・なんてことはしないのさ。」
 こういう彼の資質は、ハリソン・フォードの後を継ぐのにふさわしいのではないかと思われている。「ジャングル・ジョージ」の予期せぬ成功に続く、昨年夏の「ハムナプトラ」の大ヒットによって、彼は1250万ドルのギャラを「tMR」の出演でもらうことになる。ブレンダンは日毎に、インディアナ・ジョーンズ=ハリソン・フォードに似てくるようだ。
 父親の仕事の関係で世界中のあちこちに住み、ブレンダンは転校を繰り返した。「僕が育ったところにはあまりテレビ番組がなかったんだ。もしあったとしても、バスター・キートンが出演したような古いモノクロのサイレント映画が多かった。」と、彼は思い起こす。幼い頃から、ブレンダンは、こういったサイレント映画のコメディアン達や、学校の課外授業でよく連れて行かれたサーカスの道化を観て育った。「たくさんのフィジカル・コメディを観たよ。どういう風に観たらいいのかも学んだ。何が可笑しいのかは、英語で(話されて)なくても僕にはわかったね。」
 ロンドンで舞台を観て、演技への強い興味を持ち始めたブレンダンは、18歳になると、シアトルのCornish College Of the Artsに入学し、シェイクスピアを始めとするさまざまな古典演劇の舞台を経験した。当時、彼に影響を与えた人の中に、俳優でパントマイムをやる道化でもあるBill Irwinがいた。【注:InStyleの記事参照ください】「Billがシアトルで公演するときは、よく観に行ったものだ。彼はすべての物を体現するんだけど、それは才能と創造力の豊かさから来るものだと僕は思う。彼のパフォーマンスや彼の正体について『こういうものだ』と断定することはできないだろうね。」
 テキサスのSouthern Methodist University大学院課程へ奨学生として招かれながら、結局ブレンダンは行かなかった。母親の車で、ハリウッドへ向かったのだ。いくつかの小さな役を演じ、TVムービーへの出演を経て、彼のキャリアは急激に飛躍する事になる。一年のうちに、二本の全く違うスタイルの映画に主演したのである。まず「青春の輝き」・・・ブレンダンは、マット・デイモン、ベン・アフレック、クリス・オドネルらと共にアンサンブルを組み、作品的にも批評家に絶賛された。私立のプレップ・スクールで起こった反ユダヤの問題を扱ったドラマで、それは同時に、ブレンダン自身の経験を思い起こさせるものでもあった。トロントの寄宿学校で、13歳の時に、ベッドから引きずり出されて、車のトランクに投げ込まれたという恐ろしい出来事もそのうちの一つである。
 デイモンやアフレックなど未来のスター達と共演することは、ブレンダンにとってとても大きな経験となった。「当時から彼らの才能には驚かされた。僕にはできないんじゃないかって思ったよ。」と、彼は昨年語っている。「彼らは“映画のための演技”をしていた。僕はというと、舞台から映画の世界に入ったばかりで、知ってることといったら、マイケル・ケインが書いた『映画に波長を合わせる』ための本からの知識だけだったね。だが、ブレンダンは彼らと十二分に渡り合ったのである。
 「青春の輝き」の後、程なくして、彼は「原始のマン」に出演する。他愛もなく楽しい作品で、ブレンダンは凍ったまま現代に蘇った原始人を演じた。舞台出身のブレンダンがこの作品を選んだというのは、ちょっと理解しにくいことかもしれないが、彼の演技力の幅広さを証明することになった。
 「僕はその時23歳で、『青春の輝き』をやり終えたばかり。『原始のマン』を演じることに必死だったよ。・・・でも、演じていて楽しかったし、実は、家賃を払うことの方に、より気持ちが行ってたんだけどね。と同時に、自分が敬意を払えるキャリアというのは、様々な役柄を演じた上でのものなんだということがわかったよ。『こんなこともあんなこともできます--高尚なものからバカバカしいものまで--』最初はこんな風に書いてある名刺が必要になるね。」
 仕事に対するこういう姿勢は、'97の「ジャングル・ジョージ」の時にも役立った。'60年代のJay Ward作のマンガを実写で映画化したものだ。主に幼い子供達を対象にした作品だったのだが、脚本とブレンダンが演じたターザンのようなキャラクターによって、大人にも充分楽しめるものとなった。「ジョージ」の成功で、マンガの実写版映画の制作に拍車がかかる。が、それでも、ディズニーのアニメ映画「ターザン」の人気が傷つけられたわけではない。「ディズニーは僕の(ジョージの時の)ルックスを盗んで使ったんだと思うよ。」と、ブレンダンは冗談めかして言う。
 「ジョージ」に続いて、彼は再びJay Ward作品の実写版に出演した。カナダの騎馬警官、「Dudley Do-Right」役である。これを選んだのには、かなり個人的な理由があった。彼の曾祖父が実際にカナダの騎馬警官だったのだ。「騎馬警官を扱った映画に出演できるチャンスをみすみす逃したりしたら、歳をとってからきっと後悔すると思ったんだ。」という彼のコメントには、仕事に対する熱い想いだけでなく、映画を越えた世界への関心が反映されている。彼の、より広い視野に立った世界観というのが、彼自身の聡明さに支えられているのは明らかである。そして、それは、彼が、文学について、自分のポラロイドカメラのコレクションについて、あるいは『モノクロ映像の主観的特性』についてなどということを論じる時に、よく表れる。人を当惑させるというよりも、むしろ魅力的な特質だ。ある部分でとても控えめに表現されているからであり、またある部分で、彼の普遍的な寛大さを補足しているからである。
 ブレンダンは、結婚して2年になる妻のAfton Smith Fraserについて語る時、感情を隠そうとはしない。ロバート・バーンズの詩「Afton Water」から名付けられた彼女は、元女優で、彼とはあるパーティで自分の愛犬を介して出会った。彼女がマスメディアで「元女優」と言われることについて訊かれると、ブレンダンは微笑んだ。「もう、彼女はそういう世界にはいないよ。演技に関しての深い知識があるし、本もたくさん読んでいる。多分、将来はプロデュースを手がけるんじゃないかな。」そして、こう続ける。「僕達は、お互いの芸術的な試みに干渉し合うのでなく、助け合う関係にある。まだほんとうに若い夫婦だし、これからの生活の中で、お互いのことを理解しようとしているところなんだ。ここ何年かのうちに、きっと、彼女は僕を驚かせ、喜ばせてくれると思うよ。彼女の選択はとてもプロフェッショナルなものになるだろうからね。」
 ブレンダン自身は、これまでの自分の選択が正しかったことを疑ってないようだ。たとえ、それが、ハリウッドで成功する人が辿る昔ながらの道のりからはずれたものであったとしても、である。「僕は、いつも、小さな発見をして、何かを学んだり、何かに挑戦したりする気持ちを持ち続けようと思ってる。そうして得たものを、次に演じる役柄に生かす方法を見つけるんだ。僕の場合、いろいろと違った役柄を選べなくなったら、きっと仕事に対する興味が保てなくなるんじゃないかな。いったん興味を無くしてしまったら、もう、それ以上仕事をしていく理由がないと思う。」
 仕事に対する方策を持ち、映画の中でも私生活でも魅力的な人格を伴っている限り、ブレンダンの仕事への興味が近い将来に無くなってしまうということはなさそうだ。これは、あらゆる年代の映画ファンにとって、良いニュースである。


《一部省略しました》






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