(2002 PHASE9 ENTERTAINMENTのインタビューより)
Q:「オルデン・パイルのような人物を演じて、
どういう点に惹かれたか?」
A:「彼は複雑な人物だね。
彼には、口で言っているのとは別の目的がある。
この役のそういう入り組んだ部分に魅かれた。
今まで僕に要求されたことがなかった要素だ。」
Q:「グレアム・グリーンの小説のファンだったの?」
A:「自分で本を買いに行かなきゃならなかった。
実を言うと、フィリップ・ノイスが持ってきてくれた
『tQA』の脚本を読むまでは
彼の作品を知らなかったんだ。
その時代の歴史的なことについても
よく知らなかったから、
自分なりにリサーチした。
それでわかったんだけど、おもしろいことに、
インターネットで<ヴェトナムと戦争>で検索すると、
得られる情報というのが
ほとんど1962年あたりから始まっているものなんだ。
なぜ僕が、<おもしろい>って言ってるかというと、
そもそも何故戦争が起こったのかという理由を
導き出している時代全体を、見落としてるからだ。
しかも、それは『tQA』の舞台となっている時代だ。
だから、もっと深く掘り下げて調べてみて、
よくわかったよ
・・・百年にもわたる植民地支配のこと、
フランスによる占有、
どうして戦争になったのかについても。」
Q:「フィリップ・ノイスはこの小説について
『変に造り上げられていない、
ベトナム戦争についての素晴らしい物語』と見ているようだが、君も同意見か?」
A:「そう、今までベトナム戦争
・・・ベトナムの人に言わせると
<アメリカ戦争>だそうだが・・・
の結果についての映画は、たくさん観てきた。
ジャングルでの過酷な戦いが
どういうものなのかということも。
でも、その戦争がどうやって、なぜ起きたのかを
教えてくれる映画というのは、
僕は、『tQA』以外に一本も知らないよ。」
Q:「ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督による
1957年の映画化作品についてはどう思ったか?」
A:「シドニー・ポラック(注:プロデューサーの一人)には
『盲目的な愛国主義に溢れていて、
間違った解釈をされている』から
観てはいけないと言われてた。
マッカーシー時代(=極端な反共運動があった時代)
に作られた映画だからね。
ハリウッドの脚本家達はブラックリストに載せられていたから、
ストーリーを<耳障り>のいいものに変えたんだ。
彼らが原作に対してしたことは、
目も当てられないほどひどいことだったね。
熱狂的な対外強硬主義に偏った作品にしてしまった。
原作では、そんなことは一切語られてないのに。
グリーンが小説で著していた予知的な特性も思想も、
全体的にトーンダウンされているし。
彼は、
<ベトナム戦争>として知られる戦争が起こる以前に、
この小説を書いたんだ。
なぜ、この映画がそれ以来観られなくなったのか?
・・・僕にはわからないけど。
多分、アメリカ寄りの描写を期待せずに、
<アメリカ人の語彙にあるベトナム>についての
映画を作ることはできないからだろうね。
あの頃、ベトナム戦争について
真剣に取り組み始めたばかりだったんだ。
あの戦争には、全世代が影響を受けたんだから。
そういう理由においては、大切な映画だ。
だが、58,000人のアメリカ兵が死んだ一方で、
三百万ものベトナム人が亡くなったということを、
忘れてはいけない。
最初から最後まで、あの戦争は<敗走>だった。
とても多くの人命が奪われた。
僕達が『tQA』を作ったとき、
この映画を観て、みんなが<救い>を感じてくれたら
いいと願った。
でも、9/11の同時多発テロや
他の事件が起こって、
『tQA』は訓話になってしまったね。」
Q:「公開になる以前から、『tQA』は反アメリカ的な
内容を含んでいると言われてきたが、
それについては、どう思っているか?」
A:「タイトルがすべてを語ってる。
彼(=パイル)は<静かなアメリカ人>だ。
だって、死んでいるんだから。
グレアムはとても正当な理由で彼を殺したね。
グレアム・グリーンは、僕の理解する限りでは、
アメリカ政府の対外政策について
極めて率直な批判をした。
小説の中のパイルは、
空想的な改革主義者の<ボーイスカウト>で、
世間知らずの、事実上殺人者であるテロリスト
として描かれていた。
一方、彼(=パイル)自身は、
自分はアメリカの英雄で、自由のために
闘っているのだと信じていた。
そこに劇的な葛藤があるし、
それで多くの論争が起こる・・・
と、僕はこれまでそう思ってきた。」
Q:「(そういう批判的な目で見られて)驚いたか?」
A:「いやいや、そんなことはない。
僕は嬉しかったし、全然驚いたりしてないよ。
それが映画の役割だから。
戦いの太鼓が鳴っているのが聞こえる時に、
政治や社会と関連性のある映画を観ても、
誰も新聞の見出しを見ないのだとしたら、
僕達は、大事な点を見逃してることになる。
この映画には大きな力がある。
世の中を変えるつもりは無くても、
俳優達は、人々の考え方に影響力を
持っているんだ。
僕達は、きっと意識的な会話を引き出すことができる。
・・・そして、それは健康的なことなんだ。」
Q:「それが、俳優という仕事の大事な部分だと考えるのか?」
A:「うん、そう思う。
かと言って、『ジャングル・ジョージ』で
多くの論争を引き起こした・・・なんてことはなかったけど。
せいぜい、“あの木はホンモノか偽物か?”くらいの
ものだったと思う。
でも、今回は重みが違う。
重要で意味深いものなんだ。
だから、もし、この映画を観た人が
その重要性を認める勇気を持てたとしたら、
僕達は立派に仕事をやり遂げたということになるね。」
Q:「マイケル・ケインは、映画の公開を推し進めることに
かなり積極的だったが、
君は少しでもそれに関わったのか?」
A:「あの時点では、マイケルの要望を受けていた(立場だ)。
僕はワインスタイン氏(注:配給会社ミラマックスのボス)
とのつながりが無かったし。
マイケルはミラマックス・ファミリーの一員だから、
電話でこう言えるんだ・・・
“おい、ハーヴェイ(=ワインスタインの名前)、
早いとこ公開しろよ!この映画は重要な作品だぞ。”
・・・ってね。
それに、彼が今年70歳になるっていうことも、
動機になってる。
もうそんなに多くのチャンスがあるというわけではない。
この映画はいい作品だ・・・
たとえ現代の政治的な事件を反映しているとしても。
これから十年、二十年先になっても、
みんなに観ていてもらいたい、
素晴らしい作品であり続けるだろう。
つまり、僕のキャリアにおいて、
個人的な<基準>になるものなんだ。
それはきっと、マイケルにとっても同じことだと思う。
まだ明らかにされてはいないけど、
僕は、ほんとうに重要な作品だと思ってる。」
Q:「君は以前、『ゴッド and モンスター』に出演してる。
あの作品も『tQA』と同じように重要だと
考えているか?」
A:「それがね、可笑しいんだ。
これまでのキャリアにおいて
僕が似ていると思ってるのは、
両作品とも、(いつもよりは)フクザツで、
下心と不思議な威厳のある役柄を演じさせてくれた
・・・という点なんだよ。
この二作品に出たことで、
僕が今まで計画的に幅広く役柄を選んできて生じた
<ツケ>を払うことができた。
いつも、次の作品には前作とは正反対のものを
やりたくて必死だったよ。
そうすると、仕事に、
より興味を持ち続けることができるんだ。
個人的にはこう思ってる
・・・俳優が演技の幅を広げて変化を持たせて、
成長し、違う役柄を演じるためには、
観客に負うところが大きい・・・ってね。
だから、誰かが思い切ってやったことを
みんなが観てくれるとしたら、
ほんとうに有り難いと思う。
僕は、そういう役がやって来るのを受け入れるよりも
むしろ、もっと自分から探しに行っているよ。」
Q:「君は自分の制作会社を持っているのか?」
A:「いつか持てるといいね。
でも、今は手一杯でね・・・父親になったばかりだし。」
Q:「父親であるって、どういうことだと思う?」
A:「愛して大切にしているものすべての極致が、
一人の小さな人間として現れた。
ほんとに嬉しかったよ。
できる限り良い人間でありたいと
本当に思わせてくれるんだ。」
Q:「映画の話に戻るけど、
マイケルは、君が関わる以前から、
このプロジェクトと繋がりがあったのか?
彼と仕事をするということが、
君にとって大きな魅力のひとつだったのか?」
A:「その通りだよ。
フィリップ(=ノイス監督)が約13年間、
シドニー・ポラックのパートナーとして
取り組んでいた。
それから、二人がマイケルを仲間にして、
最後に決めたのが、
“誰をオルデン・パイルにキャスティングするか?”
だった。
マイケルは人にとても良い影響を与えるんだ。
まるで、俳優達の周りに置かれた<音叉>みたいで、
普段通りの彼がいて、良い具合に<調音>されていれば、
みんなもそれに調子を合わせられる。」
Q:「よく言われているように、
彼はほんとうに話上手なのか?」
A:「うん、十分にね。
マイケルがAFI(=American Film Institute)から
功労賞をもらって、
僕らが、ステージで放映された
彼の作品からのクリップを観てるときなど、
彼は、7〜8百人もの観客をうっとりさせていたんだからね。
全てにおいて、彼は、
その根底に“私は一人の俳優に過ぎない”という
自己非難の認識を持ってる。
彼には仕事があり、とてもうまくやり遂げる。
どんなに彼が素晴らしいかというのを認めるのは、
皆の、そして、僕の仕事だ!
僕はあの人が大好きだよ!
“そう、これが私の仕事だ”と言える勇気のある人だ。
彼の'70年代におけるキャリアに限って言えば、
誰もが簡単に批評できる。それはいいんだ。
だけど、その頃、他の俳優達は何をしていた?
彼とジーン・ハックマンの二人だけだよ、
ちゃんと仕事をしてたのは。
下らない作品にも出演してたかもしれないけど、
そういう時でも、彼らはベストを尽くしてたね。」
Q:「サイゴンでの撮影はどうだった?」
A:「素晴らしいね。チャレンジだったし、感動的だった。
あそこはせわしなく動いている街だ。
サイゴンとハノイを比べると、ちょうど
夜と昼のようだ。
サイゴンはニュー・オーリンズで、
ハノイはワシントンDC.みたいなんだ。
サイゴンは熱く、活気と商業的な雰囲気に
満ちている。
どこに行っても、皆、親切なんだ。
子供も大人も、僕達の経験が及ばないところを
突っ走ってるように生きている。
歩道に居る彼らを見ると、威厳を持って
自分の仕事をしっかりやっているのがわかる。
西洋人としての僕の目に、驚くほど素晴らしく写ったね。
はっきりと目が覚めたよ。
だって、僕には
“ベトナムに行くというのはこういうことだろう”
くらいの認識しか無かったから。
ある日変わってしまうかもしれない<純粋さ>が
感じられるんだ。
とにかく、ホテルも食べ物も良かったよ!。」
Q:「『LOONEY TUNES: THE MOVIE』の撮影が終わったばかりだよね。
君は何の役をやってるの?」
A:「ブレンダン・フレイザーのスタントマンを演じてる。
彼は、ここしばらくブレンダンのスタントはやってないんだ。
その理由が何なのかほんとのところはわからないんだけど、
きっとひどい扱いを受けたからなんだろう。
彼が居ることで、ブレンダンの<男らしさ>が
脅かされたんだ!・・・って僕は思う。
だから、彼は今、ワーナーブラザースの撮影所で
警備員をやってる。
ダフィ・ダックが撮影所を追い出されて、
スタントマンの父(=ティモシー・ダルトン)が誘拐され、
救出するために、いやいやながら
彼らはパートナーを組んで旅をすることになる。
ティモシーは、とっても有名なスパイ映画で
スパイ役をやったことのある俳優だ!
(注:007シリーズのこと)
・・・で、実際、彼は(この映画でも)スパイ役なんだよ。
彼を救うために、スタントマンとダフィは
<ブルー・モンキー>と呼ばれるもの
・・・それがどんなものであっても・・・を
見つけなければならない。
それで、二人は世界中を巡る旅に出るんだ。
そこにはエリア52という場所も含まれている。
(エリア)51は実在しないんだよ。
・・・あれは陰謀のために創作された場所なんだ!」
Q:「君が過去に出演した作品には、
『モンキー・ボーン』や『ダドリーの大冒険』のような、
アニメっぽいものへの好みが表れてるが、
ああいうタイプのユーモアに惹かれるのか?」
A:「そう、信じているんだ。
作品で使われるテクノロジーのほとんどを
受け入れている。
ああいうタイプのユーモアというのは、
自分の思うようになる。
結局は、すべて想像力にかかってるんだよね。
自分が<部屋の中に、実際に何かがある>と信じなければ、
観客だって、信じないだろう。
僕は『スターウォーズ』を観て、
リーアム・ニーソンが、他に誰も居ない
<別の部屋>にいるように見えたんだ!
・・・って、話が横道にそれちゃったね。」
Q:「監督のジョー・ダンテと一緒に仕事してどうだった?」
A:「面白い人だね。第一に、彼はとてもイイ人だ。
そのパイオニアであるこのジャンル
(=アニメとライヴアクション合体映画)が
大好きだ。
彼の好きなことわざのひとつにこういうのがある・・・
“ほら、あれが大文字のKで始まるコメディだ!”」
Q:「二本の『ハムナプトラ・シリーズ』を振り返ってみて
どう思う?
あんなにうまくいって(=大ヒットして)驚いたか?」
A:「もちろんさ〜。からかってるの?
とっても驚いたよ。でも、それは嬉しい驚きだったね。
良い興行成績を上げた映画に出た俳優は、
誰もが突然、優れた脚本を送ってもらえるように
なるんだ。
すべての良い脚本の内容が、
急にその人に明かされるんだよ。
僕が『ハムナプトラ2』の撮影を終えようとしてるとき、
フィリップが『tQA』を持って、
僕に接触してきた。
僕が彼に接触しなかったら、彼の方から
やってきたかどうかは、わからない。
でも、要するに、
<(俳優としての)格>が上がったら、
それまでよりも他のことができるようになる
ということだ。
それでキャリアも良くなる。
まあ、僕は、あの二本を撮影してて、
本当に楽しい時間を過ごした。
たくさん笑ったし。
思い返してみて、
みんながあのシリーズを観たんだって
考えると、僕は嬉しいね。」
Q:「君は世界中のあちこちで育てられてきたんだよね。
そうすることで得たものは何か?」
A:「寛容かな。
どこに居ようと、
<ありのままの裸の自分>でいるのが心地よいと
感じられる能力だね。
そのおかげで、きっと、
ものごとを皮肉な目で見るのでなく、
<片方の眉を吊り上げる>くらいの感じで
見られたのだと思う。
精神的にもイイよ。」
Q:「子供の頃は恥しがり屋だった?」
A:「イエスでありノーだ。
火曜日はイエス、でも水曜日はノー!
前にも言ったように、
僕には確かに想像力があるんだ。
架空の友達だっていたんだから。
・・・僕は未だに、
彼らに向かって話しかけてるんだと思う。」