<力強く、静かな人。>

(telegraph.co.uk '02年 11月29日付けインタビューから)

ブレンダン・フレイザーは漫画のキャラクター達や野生動物、
そしてミイラの大群と戦ってきたが、
彼の新作は、
グレアム・グリーン原作を脚色した<反アメリカ的>な反戦映画だ。
きっと、彼にとって、
今までで最も大きく勇敢な<飛躍>となるに違いない。
Jane Bussmannが彼に逢った。

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ブレンダン・フレイザーは、
大聖堂ほどの高さもある門を通るとき、
私を親切に導いてくれた。
「これは<ゾウのドア>って呼ばれてるんだよ。」とささやく彼。
「この前、僕は実際にゾウに乗ってここを通った。
Thaiっていう名のとても有名な<映画俳優>のゾウだよ。」


「彼女(=Thai)とは、以前『ジャングル・ジョージ』で共演してる。
僕のことを覚えてくれてると思いたい。
だって、前にやったように、鼻から水を出して、
僕の全身にかけてくれたからね。」

「Thaiが口をあけると、舌を撫でてあげられる。
まるで<セーム皮>みたいな感触の、
僕の腕の二倍の長さはある舌なんだ。
腰蓑一枚の格好で乗ったこともあるよ。
どんなだったかっていうと・・・バーベキューブラシの上に
またがってるみたいだったね。
(注:こそばゆい?痛い?)。」

フレイザーは、現在、歴史あるワーナーブラザースの撮影所で、
ハリウッドのべテラン・スター、ダフィ・ダックやバッグス・バニー
(スティーヴ・マーティン、ジョン・クリースも一緒に)と
"Looney Tunes: The Movie"という、有名な漫画の実写版映画の
撮影をしてる。

<ゾウのドア>を抜けると、深いジャングルに入った。
周りを人工的にアレンジされた蔓が囲んでいる。
上を見ると、背景の木々が無限の彼方に消えていって、
前には、サルの神殿の遺跡
---複雑な彫刻が施されたポリスチレンでできている---
が30フィートもの高さにそびえている。
これは、低予算の映画ではない。

ダフィ・ダックがいなければならないシーンだったが、
今は俳優のBruce Lanoilの声だけの存在だ。
バッグス・バニーの実物大フィギュアが、森の空き地に立っている。
「バッグスは中身が濃いね。」と、フレイザーは説明してくれる。

「僕らは、ああいう模型を使って、目線を決める。
撮影のときは取っ払って、
後で、スタッフがコンピューターを使って画面に戻すんだ。」

第一助監督がどなる。
「そのウサギをどけてくれ!ブレンダン。
君はずっと竹馬に乗ってるんだからね!」


目に見えないダフィがフレイザーに向かって跳んで来ると、
彼は、やはり目に見えない竹馬に乗って、
勇敢にも、よろよろと歩いてみせる。
「そして、こう思うんだ・・・」と、後で彼は言ってくれた。
「みんな、居もしない友達と話ができるようにって、
よく僕を教室から送り出してくれたっけなあ・・・ってね。」

昔ハリウッドには、お決まりのタイプの俳優達がいた。
たとえば、手に剣を持ったままシャンデリアにぶら下がって、
天井から飛び降りてくるような、マッチョな主演男優・・・。
また、とても繊細な性格俳優・・・フランス人を探すために
第二幕では居なくなってしまうような・・・もいた。
だが、彼らよりもっと成功したのはさらに複雑なタイプ
・・・<皮肉屋のアクションヒーロー>だった。

かっこいいけど、ちょっと変わってるコメディアン達は、
ものにぶつかってみせては、可笑しさを表現している。
だが、あくまでも冗談の上でやっているので、
セクシーだと思われるのだ。
豹を追い抜いて行くケーリー・グラントから、
ポリスチレン製の大玉をひょいっと避けてみせるハリソン・フォード、
そして、
カジノの中で、実際にはありそうもないレーザー光線の間を、
懸垂しながら降りていくジョージ・クルーニー
・・・などといった、
おもしろい一面を見せてくれる二枚目俳優というのは、
興行収入を稼ぎ出してくれる貴重な存在なのだ。
これこそ、ブレンダン・フレイザーが成功した秘訣である。

21歳のとき、フレイザーはテキサスの大学に向かう途中、
ほんの短い間ハリウッドを訪れた。
結局、彼は、テキサスには行かなかったのだが、
その代わりに、
リバー・フェニックス主演の『恋のドッグファイト』
に小さな役で出演することができた。
そして、
これまでで概算して12億ドルもの興収を上げてきたという
映画出演のキャリアを築くに至っている。

彼は身長6フィート3インチ(約190cm)、とてつもなく画面映りが良い。
実際に、演技もできる。
もっと大事なことは、何に追いかけられていても、
・・・それが<腐りかけのファラオ>だろうが
<CGのバッグスバニー>だろうが
あるいはサー・イアン・マッケランだろうが・・・
いつも、純真なユーモアのセンスを保ち続けていることだ。

「カメラマンより速く動いたらダメだよ。」
どういう演技テクニックを持ってるのか簡単に説明してくれるよう
尋ねられたとき、彼はそう答えた。
「速すぎず、遅すぎず、必要なときに動く・・・
そうすれば、別テイク(=撮り直し)をしなくて済むからね。」


作り物の神殿の中を冒険するような楽しい『ハムナプトラ1』('99)
とその続編『ハムナプトラ2』('01)、
ターザンを風刺した『ジャングル・ジョージ』('97)
と奇妙なファンタジー『モンキーボーン』('01)。
これらの作品の合間合間に、フレイザーは、
定期的に、<もっと危険な仕事>に自分の首を懸けている。

'00年作の『悪いことしましョ!』
---悪魔のようなエリザベス・ハーレーと共演し、
不発に終わったコメディ---があれば、
'92年作の『青春の輝き』のような、
繊細な演技をした作品もある。

オスカーにノミネイトされた『ゴッド and モンスター』では、
好色なマッケランに対して自分を守り通した。
そして、新作の"The Quiet American"
この作品でフレイザーは、辛らつなマイケル・ケインの相手をする。

彼は、実際に会う前に、すでにケインから演技について学んでいた。
「演劇学校にいたときの僕は(演技が)下手だったから、
マイケルが書いた<映画での演技>についての本を買ったんだ。」

と語る。
ケインは自分が教えていることを実際にやってみせたのだろうか?

「ちょっと聞いてくれるかい?
彼は、本の中で言及してる演技のテクニックの
どれも使ってなかったんだよ。
たとえば、<生き生きしてる目とそうでない目>とか。」

と、目を素早く動かして、
その微妙な違いを説明してくれるフレイザー。
「何かあるのか、何も無いのか。
・・・で、彼に会ってみたら、
常に<何かを感じさせる特別な人>だったよ。」


オフのときも映画の中と同じように、
素朴で笑顔いっぱいのフレイザーだが、
彼は、数少ない<実生活でより大きく見える俳優>なのだ。
ロスアンジェルスの猛烈な日差しの中、
<スターワゴン(=俳優のためのゴルフ用バギー)>に寄りかかり、
まっさらな白いベストを着て、
実際には使っていない道具入れのベルトをしめ、
今日、彼は、<Looney Tunes 版・便利屋>の扮装をしている。

「僕は、俳優ブレンダン・フレイザーの代役の、
スタントマンを演じるんだ。」
と彼はトボける。
「彼はブレンダンそっくりなんだ。
ブレンダンが最近働いてないっていうのは、

『ハムナプトラ2』のとき、何かあったんだよね。
・・・人が観ててあまりいい気持ちになれなかったことが。
・・・ブレンダン・フレイザーはちょっとうぬぼれてるんだ。
僕(=DJというキャラクター)はブレンダンの
口に一発喰らわせてやることになると思うよ。」


フレイザーはとてもソフトな話し方をするので、
聞いている方は、「自分は耳が聞こえなくなるんじゃないか?」
悩み出すくらいだ。
彼のマナーは<古き良きハリウッド>流そのものだ。
彼なら、ドアをずっと開けていてくれて、
階段では、私の手をとってくれる
・・・そういう動作を自動的にやってくれるだろう。
「もし、第10ステージから
400人ものナチスの連中が大声を出しながら出てきたら、
フレイザーは、私をさらってラクダに乗せ、
そこから連れ出してくれるはず」
という暗黙の了解が、
私と彼との間にはあるかのように思える。

こういった騎士のような振る舞いをする他に、
彼には、<弟のような存在>としてアピールする魅力がある。
(フレイザーは四人兄弟の末っ子だ)
そういう魅力が、
今回の役柄・・・二面性のある悪役・・・を、
本当に邪悪なものにしている。
とにかく、普段の彼は良い男の方を演じる。

「僕が悪いヤツだなんて、信じられる?(信じられないだろ?)」
と彼は訊く。
「だから、おそらく、フィリップ・ノイス監督は
僕のことをこう呼んだんだろうね・・・

『オルデン・パイルのしたような残虐なことを
するなんて、
決して誰も予想しない男だ』
って。」

パイルは、1950年代のフランス領ベトナムにいる
<おとなしいアメリカ人>である。
彼は、遠く本国を離れたイギリス人レポーターの
ファウラー(=マイケル・ケイン)を
苦悶に満ちた三角関係に引きずり込む。
それによって、やがて、一連の驚くべき事実が暴かれ、
果ては、殺人にまで至ることになる。

また、パイルが自分の見解を盲信する援助隊員である一方、
ファウラーの世界は、アヘン中毒のせいで
霧がかかったように朦朧としている。
ヴィジョンを持っているかいないか
・・・ということを核にした物語である。

「ファウラーは厭世的なヨーロッパそのものだ。
 何も新しいことが起こらず、何も変わろうとしない。
 ただ、死ぬまで酒を呑んで、
 この若い女(=フーオン)と一緒にいるために
 ベトナムに居るんだ。」
とフレイザーは言う。

「そこに、理想主義者で、非の打ち所のない若い男が、
 ツィードの上着姿で、頭から汗を流しながら現れる。
 彼はアメリカ人の関心事---最高の善意を見せること
 ---を代表して実行に移す。
 が、その行為の根底には、
 誰も的確に言い当てられない、危険なものがある。
 この映画は<訓話>なんだ。」


事実、グリーンの原作は、
ヨーロッパ諸国に対し、
『目を覚まして、アメリカが他国を戦争へと陥れるのを
止めるのだ!』
と叫んでいる。
アメリカが『フレイザーは良い男なのだ』と思わせている
まさにその時、
彼は自分自身を(攻撃や非難の)第一線に置くという
興味深い機会を選んでいたのだ。

「僕は、国籍について問題を抱えてる。」と彼は言う。
「僕は外国生まれのカナダ人・・・アメリカで生まれたんだ。
 だが、僕の両親はカナダ人だった。」


「僕はカナダ人として育てられた。
 ・・・と言うと、多分、猿に育てられたターザンみたいに
 聞こえるけど・・・。
 そして、カナダ流の自由な精神性を持ち、無干渉主義でもある。

 『ねえ、話し合おうよ。』っていう態度で物事に当たるんだ。
 アメリカだと、お互いにズドンっと撃ち合って
 倒れるだけだよね。」


9-11(注:同時テロのこと)のバッヂを付けた
Carharttのジャケットを羽織り、
フレイザーは私をワーナーブラザース撮影所の構内にある
食堂へ連れて行ってくれる。
高級な感じのする、レストラン兼バーで、
映画のセットのちょうど真ん中にある。
かのアクションスターのこぶしからは、
すでに血が流れている。
「ペンキの中にかけらが入ってた。」
と、彼はしかめっ面をしながら笑う。

芸術のために苦しむかもしれないが、
フレイザーは芸術とは何かということについて
思い違いはしていない。
それは、娯楽であるから。
彼が誇りに思っている仕事なのだから。

「今していることがとても馬鹿馬鹿しく見える
・・・という思いを乗り越えて、
結果として本当にみんなを幸せにしているんだ
・・・と、信じるだけだ。
子供向けの映画というのは、
そんな善意を創り出してくれるね。」


ブレンダンとアフトン夫妻には、9月に息子が誕生した。
名前はグリフィン(注:ギリシャ神話に出てくる翼を持つ怪獣)。
フレイザーによると
「まるで空飛ぶ小さなドラゴンみたいに見えたから」
だという。
フレイザーは34歳、アフトンとは'90年代初めから
付き合って来て、1998年に結婚した。

「マイケル・ケインが彼の妻シャキラについて
言ってたフレーズを借りると、

『僕は深海に潜って探検するダイバーで、
彼女は船のデッキにいて、
僕がちゃんと空気を吸えるようにしてくれてる』

・・・ってことだよね。(夫婦の関係って)」

献身的な夫であり、すべてにおいて<いいヤツ>である
フレイザー。
彼は、『悪いことしましョ!』でエリザベス・ハーレーと
共演しながらも、
彼女と仕事場でのロマンスの噂が立たなかった
数少ない主演男優の一人だ。
(デニス・レアリーやマシュー・ペリーは
彼女から簡単には逃げ出せなかった)

彼は、彼女にのけ者にされたと感じているのだろうか?
「いや、ほんとうに嬉しく思ってるんだよ・・・
僕がそんなふうに感じることがないように、
十分気を遣ってくれてるから。
彼女とは本当にとてもうまく行ってたよ。
エリザベスは編み物をするんだ。

レース編みが得意でね。
座って、お花を飾ったり・・・。」

だからと言って、彼が、
肉体美のセックスシンボルを演じるのを
恥ずかしがっていないというわけではない・・・
たとえ、それが安全で子供に好かれるキャラクターであっても。
事実、『ジャングル・ジョージ』で一番おもしろいジョークの
ひとつというのは、
上流社会のパーティ会場から女性のゲスト達が居なくなって
しまう・・・という場面だ。
屋外に居たジョージが、ボタンをはずしたシャツを着て
馬を追いかけていたからだ。

フレイザーが、
同性愛を描いた低予算映画『ゴッド and モンスター』
出演することに安心感を抱いていたのは、無理も無い。

「ハリウッドのメジャー会社のどれもが制作を断った作品だ。
撮影に28日、予算も280万ドルくらいかかっただけだよ。」
と、
『ハムナプトラ2』で、その四倍以上のギャラを貰った男は言う。

「(ちょうどいい具合に)飛行機が頭上を通っていないときに
撮影できたとしたら、

<フィルム入ってた?そりゃ良かった!どんどん行くぞ!>
ってな感じだったよ。」

「イアン・マッケランを僕のボルボに乗せてあげたよ。
だって、スタッフと来たら、
彼をピックアップトラックの中にポツンと置いておくんだもん。
ご主人様に対してあんなことしちゃダメだよ!」


マッケランは、明らかに<おチャメ>で、いたずら好きだ。
「僕のトレイラーの中で、大きな束の香料を焚いたまま
出て行っちゃうんだよ。
僕がそれを開けたら、煙がシューって出てきた。
そしたら、みんなの言うことには
<おい、非難するなよ。認めてあげろよ。>
・・・だって。」


(ここで)会話は午後の仕事のことに還る。
フレイザーの次のシーンは、ダフィと一緒だ。
突然、彼は、再びマンガの世界に夢中になる。
「ダフィがジャンプする---一本のロープがあって、
彼がアッ、ウッというような声を出す。
罠がある---それを跳び越して---ウー!---
そして、ラクダの背中に着地する。」


「恐ろしい、ほんとうに怖い
ミキサーのような刃の中に入って
・・・ダフィは羽を吐き出しながら・・・」


彼は自分の額をたたく。嬉しそうだ。
フレイザーが仕事で楽しんでいるとき、
そこには、何か無邪気なものがある。
古めかしくて、ほとんど純真な喜びが。

「(他の)約束の時間に遅れてしまってるので
(この辺で失礼しないと)・・・」
と私が残念そうに
彼に言うと、
フレイザーは、考える間もなく、席から跳び上がった。
彼は魚料理を半分食べ残したまま、
昼食代を払い、私をリムジンの中にさっと送り込んでくれる。
ポリスチレン製の神殿や、行く手にある細々したものたちを
ひらりと避けながら、
まるで、自分がアクションヒーロー代表だというように。

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<<一部省略してあります>>





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