いよいよ、今日はリンツブルックナー管弦楽団演奏会の日である。
リンツからザンクトフローリアンへ行くのは、バスでほんの2,30分だが、本数が少ないので事前に確認が必要だ。バスの時間はリンツ初日に確認していたが、今日改めてバス乗り場を探索していると、夫があるものを見つけた。
「このバス、日曜日だけリンツ〜ザンクトフローリアン〜アンスフェルデン〜リンツの道順らしいぞ。」
アンスフェルデンはブルックナーが生まれたところで、そこに行くとブルックナーの生まれた家が見られるのだ。普通、アンスフェルデンに行くにはタクシーやレンタカーなどを使わないと行けないのだ。演奏会が日曜日だったらアンスフェルデンまで足を伸ばせたのにな。
高速バスのような大きなバスに数人乗り込んだ。リンツを離れるに従い、畑が多くなってきた。もう畑以外なにも見えない、というところに目的の停留所があった。遠くの方に教会らしきものが見える。10分歩き、ザンクトフローリアン修道院についた。修道院のすぐ近くにはカフェがある。
さっそく修道院の門をくぐり、お土産屋のおばちゃんのところでガイドツアーの券とパイプオルガン鑑賞券を買う。おばちゃんに中庭で待っているように言われ、他の団体と一緒に噴水の前で待っていた。ガイドツアーは一日に何回かあり、これに参加すれば修道院の中が見られるし、ブルックナーのお墓まで行けるのだ。
時間が来ると、ハイジもどきの服を着たガイドのおばちゃん(おばおねいさん??)が現れた。おばちゃんは鍵をじゃらじゃらさせて、修道院の各部屋を開け、説明をしてくれる。ドイツ語がわからず、おばちゃんがジョークを言ってもみんなと一緒に笑えなくて、ちょっとさみしかった。今度来るときにはドイツ語を!!と決心する一瞬である。
修道院の中は、説明はわからなくても興味をそそるものが多かった。四隅の壁には、あたかもまだ廊下が続いているようなだまし絵が描いてあっておもしろい。ブルックナーが死ぬ間際に使ったベッドもあった。
ツアーはいよいよ地下室へ。薄暗く、すずしい。いろんな偉い人の棺桶がたくさん並ぶ。突き当たったところの広い空間に、ブルックナーのお墓(棺桶)が静かにおいてあった。後ろにはしゃれこうべが敷き詰めてあり、とてもコワイ。でも、ここにブルックナーが眠っているんだなと思うとなんだか泣けてきた。写真を撮ってはいけない気がして、拝むだけにした。
ガイドツアーが終わってから、修道院のレストランで食事をした。二人分のメューがあったのでそれを頼んだが、かなりの量だった。ポテトはてんこもり、ポークソテーが6枚、野菜が肉の下に敷き詰めてある。パンは5つもあって、もう夕食はいらないだろうという感じだった。パンはプレッツェルのようなものや、黒パンのようなものなど、見ているだけで楽しい。
食べ終わってから、パイプオルガンの演奏を聴くために教会へ向かった。このパイプオルガンは、ブルックナーが若い頃、ここでオルガニストを務めたときに使ったものだ。パイプオルガンの真下にあたる、教会の入り口すぐの床に、ブルックナーのお墓がこの地下にあることを示すプレートがはめ込まれていた。
オルガン演奏の時間が来ると、普段着の青年がオルガンの前に座った。観客は私たちと、もう一組、それに団体客だ。ちゃんとした教会で、初めてパイプオルガンの音を聞いた。教会全体に音が響いた。教会の彫刻や壁画に吸い込まれそうな、不思議な気分になってきた。ブルックナーもこんなふうに弾いたのかな。
後ろ髪を引かれつつ、教会を出て、少し町を探索することにする。ここにある建物は、パステルカラーばかりだ。窓にはかわいい花が飾ってある。カフェに入って少し休んだが、時間はたっぷりあるので、もうすこし歩いてみた。だんだん畑が見えてくる。ここを一歩でも出てしまうと戻って来られなさそうだ。観光客は修道院を見て帰ってしまうのだろうか、地元の人しか見あたらない。私たちは夜に演奏会があるので、ここを離れることはできないが、町自体が小さいので、一日いるところでもなさそうだ。気ままに歩いていると、「グリュスゴッド!!」と挨拶がくる。フレンドリーで、なんだかうれしい。
演奏会の時間まで、修道院前のカフェに入り直そうかと思ったが、すでに閉まっていた。うろうろしていると「ブルックナー通り」の看板が!行ってみたがなにもなかった。あきらめて修道院の中庭に戻りベンチに座っていた。どこからかリハーサルの音が聞こえてきた。
開演30分前になったので、教会の前に向かった。まだあまり人がいない。タキシードを着た出演者が、外に出て話をしている。開演間際に人が増えてきた。出演者はまだ外にいる。いいのか??
パンフレットを買って、中に入った。昼間教会に入ったときより椅子が増えていて、番号がふられている。私たちは事前に日本でチケットを買っていたので、前の方のいい席だった。
演奏は、現代曲とミサ曲3番だ。あこがれのリンツブルックナー管弦楽団が舞台に上がった。彼らは一回しか来日していない。
合唱団もそろい、教会全体に演奏が響き渡った。演奏者の姿が教会の壁画と重なって見えた。頭の上から音がふって来て、神様の声を聞いているようだった。いつもだったら、ミサ曲は眠くなってしまう曲なのに、身動きできず、見入ってしまった。教会での演奏って、こういうことなんだ。ミサ曲って本当はこんな感じなんだ・・・。
ここに来て、ほんとうによかったと思った。だが、その余韻に浸っているわけにはいかなかった。リンツに帰る足がないのだ。タクシーはあるだろうか??急いで修道院のを出ると、迎えの車がいくつもいるのが見えた。タクシーも一台。乗ろうかと思ったが、夫がバスを見つけた。走っていくと臨時のバスだということがわかった。しかも無料。急いで乗り込んだ。
あわただしくザンクトフローリアンを出て、ホテルに帰ってから余韻を楽しんだ。今日の体験は、とても貴重な体験だった。一生忘れないだろう。