「釧路湿原」の舞台を訪ねる

(宮島岬から望む釧路湿原)

 

釧路湿原はその広さ22,000haのわが国最大の湿原である。また水鳥の保護を目的とした

ラムサール条約の指定湿地としても知られている。ちなみにラムサール条約に指定された湿地

の面積は約5,000haである。釧路湿原の魅力はなんといってもそこに生息する動物、鳥、魚、

植物たちの豊かさであろう。湿原があまりにも広大なため観光に訪れた人の大部分はいくつかある

展望台から湿原全体を眺めただけでここを通りすぎてしまう。しかしこれは大変もったいない。ここは

四季折々の楽しみ方の出来る場所であり、懐が深い場所なのだ。私は昭和60年の冬にはじめて

釧路湿原を訪れた。そのとき宿泊していた公営の釧路YHのペアレントに釧路湿原を体感するのに

もっともいい場所は?と尋ねたところ「釧路弟子屈線の旧道歩きがお勧めだよ」と教えられた。

これは鳥取橋のたもとを釧路川沿いに歩いて湿原の中を縦断して温根内まで歩くのコースなのだが

距離にして約16km程度で約4時間かかる。後年今は亡きたくぎんの釧路支店に勤めていた友人に

その話をしたところ「そんなとこ地元のやつでも歩かねえよ」と馬鹿にされた。しかしこの旧道歩きは

素晴らしかった。道は悪路だったが湿原の雄大さを体感できた。遠くの木々のむこうにはエゾシカ達

が群れをなしてこちらをうかがっていた。私の忘れられないたびの一ページである。

 (釧路川  塘路〜細岡の湿原にて カヌーより撮影)

 

釧路湿原で歩くほかに湿原を体感する方法といえばカヌーによる川下りが最高だろう。私は

釧路湿原とうろYHのツアーで2回釧路川の川下りを体験した。塘路湖からスタートして釧路川に

入り、細岡を経由して岩保木水門に至るコースである。カヌーの最大の醍醐味は生き物との出会い

だろう。湿原最大のスターといえばやはり丹頂だ。なかなかうまいこと会えるものではないのだが、

私は運の良いことに2回とも丹頂にお目にかかることが出来た。丹頂はなにもカヌーでなければ

見られないということはない。いろいろな展望台で長時間双眼鏡で湿原を観察していればかならず

丹頂と出会えるはずだ。普通の観光客のように記念撮影だけして帰ってしまってはだめだ。時間を

かけて湿原と付き合わなければ湿原も我々に心を開いてはくれないのだ。

(釧路川をカヌーで下る)

 

以前NHKで釧路湿原の特集をやっていたときに歌人の俵万智が「川が蛇行しているのも、それなりの

意味があるんだよ」という意味の歌を詠んだ。非常に含蓄のある歌で私は大いに感銘を受けたものだ。

釧路市という大都市と隣り合わせになっていることでこの大湿原と人間との関わりはかなり微妙で難しい

ものとなっている。たしかに人間の文明化の過程は蛇行する川をまっすぐにする過程と言い替えても良い

感じがする。それなりに理由のあったものを現代的な切り口のみで判断して処理していく。釧路湿原の

周辺も同じようなことが起きているのだ。本多勝一編の「釧路湿原」ではその辺りのことが詳細に指摘

されている。ちなみに冒頭の写真は宮島岬というところから撮ったものだが、ここは本多勝一の著書でも

指摘されているとおりコクド(旧国土計画)の所有地である。ただ、本で有名になったからかどうかは知らない

が「コクド」の看板は見当たらなかった。多分取り外されていたのだろう。釧路湿原を訪れるたびに一旅行者

ながら、湿原と地域経済との共生というトレードオフな問題を考えてしまうわたしである。だが、今後はまっすぐ

な川を逆に蛇行させるような文化もこの日本に育って欲しいものである。

 

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