交響曲第5番 嬰ハ短調

Symphonie Nr.5 cis-moll

「思い出す。父の屋敷にも砂時計があった。砂の落ちる孔がとても細くて始めのうちは砂が落ちることさえ気づかない。

砂が残り少ないことに気づくのは終わりの頃だ。それまでは誰も砂のことなど考えない。最後の瞬間まで時が過ぎ去り、

気づいたときはもうおしまいなのだ」映画「ヴェニスに死す」の中で私が一番好きなセリフだ。このセリフ、マンの原作

には出てこないのでヴィスコンティの創作だろう。大学3年のときはじめてこの映画を見たときはかなりショックだった。

友人と「こういう音楽の使い方は絶対におかしい!やめてほしい」と酒を飲みながら論じ合った覚えがある。そうしたら

当時三浪して二留のつわものの先輩が割って入ってきて「なあに言ってんだ。お前らのマーラーの理解が表面的なだけだ。

お前らみたいなやつらにとっちゃあの映画は衝撃的かもな。でもあれがマーラーの本質なんだ」などと散々絡まれた。

当時後輩と同棲していて神田川を地でいくような生活をしていたその先輩の言葉には妙に説得力があったものだ。あれ

からもう四半世紀が過ぎそろそろ砂時計の砂が気になり始める齢になってしまった。先輩はお元気だろうか。

(一番最後にシェルヘンによる短縮版を併載)

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

ベルティーニ

 

ケルン放送響

音の洪水とも言える圧倒的な演奏。アダージェットは美の極致と言っていい超名演。文句なしのベスト盤といえる。

 

 

★★★★★

小林研一郎

 

チェコフィル

全体を通して高レベル。特にアダージェットはすばらしいのひとこと。情熱的でこれぞ究極のラブレターという演奏。5楽章も美しくしかもダイナミック。堂々とした偉容を誇る演奏だ。

★★★★★

バーンスタイン

 

ニューヨークフィル

まずアダージェットがいい。特に最後のコントラバスのGからFへの移行が絶品。前半はウィーン盤よりもわかりやすい音楽作りで非常にシンプル。後半も元気がよく若々しい演奏だ。

★★★★

プレートル

 

ウィーン響

ライブ録音だが全編にわたり緊張感を持続させた見事な演奏。聴くほうも疲れました。よくここまで細部にわたり統一感を持たせたものだと感嘆しました。

★★★★

アバド

 

シカゴ響

音楽が引き締まっており、テンポもよく若々しい元気のいい演奏。音色も輝かしい。アダージェットは若干歌いすぎの感も。

★★★★

シャイー

 

ロイヤルコンセルトベウ管

冒頭から重量感溢れるど迫力の演奏。アダージェットも大変美しい。全体的に録音美人の感も否めないが、ぐいぐいと押してくる大迫力の演奏だ。

★★★★

テンシュテット

 

ロンドンフィル

かなりゆっくりめのテンポで非常に熱い演奏。ただし弦の厚みが今ひとつで金管とのバランスも今ひとつなところが残念。

★★★★

メータ

 

ロスアンジェルスフィル

前半3楽章が劇的で緊張感溢れる演奏。特に3楽章は飽きのこないテンポ感のある演奏で聞き応えがある。最後は壮大なフィナーレで感動的に締めくくられる。

★★★★

ヴィト

 

ポーランド国立放送響

妻の持っていたCDでお義理で聞いたが、これはとんでもない名演。全編にわたりバランスがよく感動的。値段からするとこれは絶対買いだ。

★★★

ブーレーズ

 

ウィーンフィル

全編にわたり高水準な演奏。1楽章の雰囲気が非常にいい。またアダージェットは清楚な佇まいとでも表現できる美しい演奏。5楽章の最後の盛り上がりも見事である。

★★★

レヴァイン

 

フィラデルフィア管

音色が全曲通じて華やかで演奏レベルも高い。

★★★

ヤンソンス

 

ロイヤルコンセルトヘボウ管

これがライブ?というぐらい高レベルな演奏。2楽章が情緒的ですばらしい。3楽章も引き締まったいい演奏だ。

★★★

ハイティンク

 

ベルリンフィル

重々しくどっしり感のある演奏。金管の音色が華やかで大変聞き応えのある演奏。

★★★

ノイマン

 

チェコフィル

全体的に高水準ではあるが安全運転といった感じで意外性、面白みには欠ける。全体的にテンポは着実。アダージェットは濃厚で味わい深い。

 

 

★★★

ショルティ

 

シカゴ響

躍動感がありパワー溢れる演奏。全体的に音色が華やか。3楽章は荒々しく迫力十分。アダージェットは透明感のある室内楽的演奏だ。

★★★

バルシャイ

 

ユングドイツフィル

テンポ設定など非常に個性的な演奏。1楽章は劇的。アダージェットは早い割には違和感ゼロ。5楽章は躍動感溢れる演奏。

★★★

マゼール

 

ウィーンフィル

マゼールの演奏はテンポがのろくていらいらするが、この5番はいい。特に後半3楽章は貫禄のある骨太の演奏。弦の響きも厚みがあり素敵だ。

★★★

ワルター

 

ニューヨークフィル

他のマラ5とは趣を異にする演奏。出だしの葬送行進曲からして色合いが違う。アダージェットはハイテンポだが品を失わない不思議な演奏。5楽章もきびきびした爽快な演奏だ。

★★★

マッケラス

 

ロイヤルリバプールフィル

1楽章が独特の雰囲気。あとは普通の演奏だ。

★★★

マーツァル

 

チェコフィル

全体的に音に厚みがありテンポもめりはりが効いている。特に前半部がいい。後半は普通の演奏だが全体的にはまとまっている。

 

 

★★

ノイマン

 

チェコフィル

チェコフィルとの旧盤。冒頭からトランペットが浮いている。アダージェットはなかなかいいが5楽章は流れが悪い。全体的には好印象。

★★

シノーポリ

 

フィルハーモニア管

音色は華やかなのだが、全体的には今ひとつ。

平凡な演奏。

★★

セーゲルスタム

 

デンマーク国立放送響

全体的に非常に律儀な演奏。3楽章がきびきびしていてなかなかいい。アダージェットは非常に濃厚でたっぷりと歌った好演奏。

★★

マイケル・ティルソン・トーマス

 

サンフランシスコ響

冒頭から金管がいいのだが、テンポは重苦しくて好きになれない。アダージェットは控えめで禁欲的というか上品。全体的に安全運転といった感じ。

★★

アバド

 

ベルリンフィル

1楽章は感情過多だがそれ以降は平々凡々でつまらない演奏。ライブにしては高レベルな演奏だが面白みは全くなかった。

★★

バーンスタイン

 

ウィーンフィル

1楽章はテンポにキレがなくしまりのない演奏。3楽章以降はなかなか良い。特にアダージェットは美しい。5楽章の盛り上がりもなかなかである。

★★

ドホナーニ

 

クリーブランド管

テンポは早めで全体的にあっさりした演奏。生真面目で面白みがない。

★★

ラトル

 

ベルリンフィル

同じBPOでもハイティンク盤に比べると音色がかなり地味。全体的にスマートな演奏という感じがする。終わったあとあまり感動が残らない。

★★

 

 

小澤征爾

 

ボストン響

ライブ盤。非常にレベルは高い。アダージェットはかなりゆっくりで感情を抑制した演奏。これもあまり印象に残らない演奏だ。

★★

 

 

クーベリック

 

バイエルン放送響

前半の雰囲気が独特でなかなかいいのだが後半の金管がちょっと苦しい感じ。3楽章のトランペットはかなり変。アダージェットは弦が大変美しいが、もう少し力強さもほしいところだ。

★★

 

 

インバル

 

フランクフルト放送響

全体的に軽い感じに仕上がっている。3楽章の緩急のつけ方は成功しているが、その他は今ひとつ。

★★

 

 

シップウェイ

 

ロイヤルフィル

1楽章は流れが悪く胃にもたれる演奏。いいところを挙げるとするとアダージェットの中間部と5楽章の金管がむ華やかなところか。

★★

 

 

ルイージ

 

ライプツィヒ放送響

非常にゆっくり目のテンポをとったたっぷりと歌う演奏。どっしり感があり重量級といった面持ちだがテンポが脈絡なく遅くなり流れの悪い部分も存在して残念。

★★

 

 

ベルティーニ

 

ウィーン響

冒頭の葬送行進曲が美しい。アダージェットは中間部のアンサンブルに難あり、続く終楽章も突っ走る演奏でかなり乱暴。ライブの粗さが後半に出た感じ。

★★

 

 

佐渡裕

 

シュトゥットガルト放送響

ライブの割には白熱感がない。アダージェットもきれいだが力強さに欠ける。

★★

 

 

ジンマン

 

チューリッヒトーンハレ管

前半2楽章がとてもよく内容も濃いのだが一転して後半が平凡でつまらない演奏に。

★★

 

 

デプリースト

 

ロンドン響

全体的にゆっくりなテンポで音楽が進むが、これといった特徴が感じられない演奏。

 

 

ノット

 

バンベルク響

これも全体的にオーソドックスな演奏で、こころに引っかかるもののない演奏だった。

 

 

スウィトナー

 

シュターツカペレ・ベルリン

演奏が早く表現が雑な部分が多い。非常に足早でせっかちな印象。

 

 

 

テンシュテット

 

ロンドンフィル

アダージェットは名演だがそれ以外は音楽が重苦しく躍動感が感じられない。

 

 

ギーレン

 

南西ドイツ放送響

冒頭の葬送行進曲から重々しい足取りで始まるがその後も一貫してテンポが重苦しい。全体的にテンポ設定に一貫性がなく今ひとつ。特にアダージェットは早すぎて全く趣味に合わない。

 

 

ノイマン

 

ライプツィヒゲバントハウス管

1楽章の雰囲気はなかなかだが、全体的には普通の演奏。終楽章の弦のアンサンブルが若干気になる。

 

 

オラモ

 

バーミンガム市響

ライブ。テンポも早いが全体的に軽い演奏という印象。聴きおえた後かなりのもの足りなさを感じた。

 

 

フェドセーエフ

 

モスクワ放送響

ライブだが全体的にあっさり演奏しすぎといった感じ。特に4,5楽章は感情がなく表面的な印象を受けた。

 

 

バルビローリ

 

ウィーンフィル

テンポが重くキレもない。そのわりにアダージェットはあっさりめ。

 

 

×

 

 

ノリントン

 

シュトゥットガルト放送響

前半は普通の演奏なのだが後半から脱線してくる。古楽器を使用したがために逆にシュールな演奏になっている。特にアダージェットは最悪。というよりも全く趣味に合わない。100年経つとこういう演奏もありなのか?

×

 

 

カラヤン

 

ベルリンフィル

こういっては失礼だが弦のアンサンブルがあまりにもひどい。金管も粗暴な感じでしっくりいかない。アダージェットも美しいのだが締まりのない印象。この曲に対する愛情が全く感じられないような気がした。

 

 

<シェルヘン短縮版>

この不可解なカットを施した短縮版はシェルヘン自身によるものらしいが、まず第3楽章は173小節まで

演奏してそこから490小節目に飛び、なんと317小節分のカットが行われている。次にそこから577

小節まで演奏して764小節まで飛び最後まで演奏する。これは187小節分のカットとなる。3楽章が全部

で819小節あってカットが504小節分で実に全体の62%がカットされている計算となる。最初のカット

はなんとなく分るような気もするが後半のカットは違和感があり、わざわざカットする必要があるのかという

感じ。第5楽章も329小節から538小節へ210小節飛んでおり、最後の749小節から758小節も10

小節分カットされている。この10小節カットなどわざわざやる必要があるのかいな?という代物でシェルヘン

の真意を量りかねるところである。一説によるとラジオの放送時間に合わせたとかいう話もあるらしいがフィラ

デルフィア管との演奏もほぼ同じカットを施しているので事実はどうなのだろうか?あと疑問なのは最後にブラ

ボーとブーイングが入り乱れて凄いことになっていると言われているが、確かにブーイングらしき声も聞かれる。

しかし1965年の11月当時のフランスでマーラーの5番というのはどの程度ポピュラーだったのかということだ。

当時はまだ5番あたりだと演奏機会も少なく若干カットしても気付かない人は多かったのではないだろうか。

それとも聴衆はみなレベルの高い方々だったのだろうか。興味は尽きない。しかしフランス国立放送響の演奏

などはもしノーカットで演奏していればベストを狙える位置にきていたと思うので残念といえば残念である。

★★★★

シェルヘン

 

フランス国立放送響

2楽章が起伏が激しくて面白い。アダージェットはかなりゆっくりめ。打楽器はじめとして指揮者のテンポについていけないところが多々あるが、それはお約束ということで。これは迷演ではなくまちがいなく名演だと思います。

シェルヘン

 

フィラデルフィア管

基本は一緒だが、アダージェットはむちゃくちゃ遅い。

あとステレオといいながら音質が悪すぎる。