交響曲第9番 ニ長調

 Symphonie Nr.  D-dur

 

ちょうど昨年(平成22年)の11月から東日本大震災をはさんで7月までの9ヶ月間、9番ばかり聞いていたのだが

あの悲惨な震災の被害を見ながら感じたのは、この曲は「鎮魂の曲」にはなり得ないなということだった。なぜなら

曲の発するメッセージがあまりにもプライベートだからである。パブリックな感覚が全く感じられないのである。

大地の歌にはまだそれでも普遍的なメッセージのようなものが感じられたが、9番、10番は完全に私小説的な音楽

だ。私小説というのは言ってみれば私生活の切り売りみたいなものなので、そういう話が好きな人にはいいかもしれ

ないが逆に嫌悪感を催す人だっているだろう。下世話な言い方をするなら「お前自分の話しばっかしてんじゃないよ、

すこしは周りに気を遣えよ」みたいな。きっとマーラーって普段の生活もパブリックな感覚は持ち合わせていなくて、

かなりKYだったのではないかと…。4楽章のアダージョを例によってカラオケ演奏で弾いてみたのだが、聴いている

以上に調性の変化が激しく感じられ、これがマーラーの心の揺れ具合なのかなとすこしばかり彼の心のうちを覗いた気が

した。プライベート性が強いということと関連しているかどうかは定かではないが、非常にドラマティックに演奏する

指揮者と抑制を効かせてなるだけ客観的に演奏しようとしている指揮者とがはっきり分かれているのもこの曲の特徴では

ないかと思った。アプローチの仕方にきっと正解はなくて、最後は趣味の問題なのかなと。

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

ベルティーニ

 

ケルン放送響

 

ライブ演奏であるが抜群にオケが上手い。特に終楽章は息が詰まるほどの緊張感が漂い、しかもスリリングな演奏となっている。

★★★★★

アバド

 

ベルリンフィル

 

渾身のライブ演奏。アバドBPOのコンビのライブ演奏はどちらかというとはずれが多かったがこれはいい。特に終楽章が圧巻の出来。演奏終了後40秒間拍手がないというのも凄い。

★★★★★

ドホナーニ

 

クリーブランド響

非常にまじめで丁寧な演奏。テンポも着実でじっくりと聴かせる。終楽章も骨太でどっしりとしており聴き応え充分である。

★★★★★

ドラティ

 

ベルリンドイツ響

 

ドラティというとハイドンのイメージしかなかったがこの演奏はいい。弦の音色が素晴らしく、間の取り方など絶妙。粗削りな感じもするが骨太な非常に濃い演奏だ。

★★★★★

ギルバート

 

ロイヤルストックホルムフィル

 

この指揮者は全然知らなかったのだが、非常にいい演奏だ。ちょっと優等生的な演奏と感ずる部分もあるが、味わい深い名演。

★★★★

バーンスタイン

 

アムステルダムコンセルトヘボウ管

 

日頃からの愛聴盤。評論家はこぞってベスト盤に推すが、5つ星にしなかったのは単純に「これって本当にそんなにいいかあ?」と思ったから。永らくNYP盤の方がいいと思っていたが今回何度も聴き比べてみると、これもいいかなと思えてきた。

★★★★

ホーレンシュタイン

 

ウィーン響

 

54年と古い演奏だが哲学的な演奏といってもいいほど味わいが深い。終楽章は濃厚な生クリームのようなくどさとひっかかりのある演奏。私は好きです。

★★★★

ラトル

 

ウィーンフィル

 

全体的に素晴らしい出来なのだが、一番印象に残ったのが3楽章。ものすごい迫力で素晴らしい。終楽章も厚みのある演奏だ。

★★★★

レヴァイン

 

ミュンヘンフィル

 

抜群の演奏力。壮大なスケールとどっしりした音楽作りだ。奥行きのある世界を表現しており終楽章も感動的。

★★★★

ベルティーニ

 

都響

 

横浜でのライブ演奏。このコンビははずれも多いが、これは中身の濃い充実した演奏。終楽章の弦の最弱音がドキドキものだったが、都響とすれば大健闘でしょう。

★★★★

サラステ

 

ケルン放送響

 

全体的にまとまっている名演奏。終楽章が非常に美しく、特に弦がいい。演奏も丁寧だ。

★★★★

ラトル

 

ベルリンフィル

 

非常に密度の濃い充実した演奏。テンポの揺れなども大変ドラマティック。終楽章も感情の揺れの表現が見事であり、とても共感できる演奏

★★★★

ショルティ

 

ロンドン響

 

ショルティの全集は最初はこれが入っていて

一番最初に聞いた9番がこれ。ドラマティックな演奏で特に1楽章は圧巻。4楽章は低弦の存在感が圧倒的だ。

★★★★

アバド

 

ウィーンフィル

 

ライブ演奏だがレベルは非常に高い。特に弦の響が厚く素晴らしい。終楽章は包み込むようなやさしさに溢れた超名演。

★★★★

バーンスタイン

 

ニューヨークフィル

 

大学生のときは文句なしにこれがベスト盤だと思っていた。晩年の演奏に比べるとかなりおとなしい演奏でもの足りなくもあるが、感情を抑制した品の良さがある。

★★★

セーゲルスタム

 

デンマーク国立放送響

 

透明感のある美しい演奏。特に終楽章の低音部、トロンボーン、チューバが素晴らしい。地獄のそこから響いてくるような音楽だ。

★★★

ショルティ

 

シカゴ響

 

さすがシカゴ響というべき演奏。非常に厚みがある。終楽章は音の洪水とでもいうような圧倒的演奏だが、ちょっと劇的に演奏しすぎという感もある。最後のPPの処理が今ひとつ。

★★★

カラヤン

 

ベルリンフィル

 

こちらはスタジオ録音。出来はライブよりこちらの方がいい。全体的に骨太でがっしりした演奏。特に終楽章は聴かせる演奏でさすがカラヤンという感じ。

★★★

ザンダー

 

フィルハーモニア管

 

ライブ録音。1〜3楽章は普通の演奏で面白みがないが、終楽章が非常にいい。特に最後の最弱音が表情を抑えた禁欲的な演奏で素晴らしい。

★★★

マイケル・ティルソン・トーマス

 

サンフランシスコ響

 

全体的に整った演奏。テンポはゆっくりめ。

2楽章はちょっとやりすぎかなという感じも

★★★

ブーレーズ

 

シカゴ響

 

ブーレーズのマーラーはどれも高品質で安心して聴くことが出来るが、これも同様の出来。

終楽章がかなりあっさりしているので若干もの足りなかった。

★★★

 

 

 

ハラース

 

ポーランド国立放送響

音楽に激しさがあまりなく全体的に感情を抑えた冷静な音楽といえる。非常に品の良い9番という印象だ。

★★★

バーンスタイン

 

ベルリンフィル

 

爆演!熱すぎる。細かい部分はかなり雑。もっと冷静になれよと突っ込みたくなる演奏。有名なトロンボーンの落ちも含めアンサンブルも破綻寸前のぎりぎりの演奏。

★★★

カラヤン

 

ベルリンフィル

 

3年前の上記バーンスタインの演奏を絶対に意識しているライブ。非常に抑制が効いた理性的な演奏だ。俺はやつとは違うんだぞという感触がびんびんに伝わってくるが、逆に面白くない演奏になってしまっている。

★★★

ジュリーニ

 

シカゴ響

 

演奏はいいのだが録音に難あり。特に1と4楽章がひどい。LP時代から気になっていたがCDになって少しは改善されたのかと思ったら同じだった。あとアダージョの最後の最後が雑な感じで非常に残念。

★★★

バルビローリ

 

ベルリンフィル

 

これも全体的には高水準なのだがアダージョの最後でテンポを上げるのがいまひとつ趣味に合わず残念。

★★★

ザンデルリンク

 

ベルリン響

 

1楽章は一生懸命さを感じる演奏。2楽章は金管の下手さが目立つ。4楽章はとても充実している。全体的に緊張感溢れる演奏。

 

★★★

サロネン

 

フィルハーモニア管

 

1楽章は非常にテンポがよく軽快。4楽章もあっさりめ。テンポが軽快なので重くならないのだが、どっしり感は失っておらずさすが。

★★★

バルビローリ

 

トリノRAI管

 

非常に粗い演奏に感じるが味わいは深く、さすがバルビローリといった演奏。1楽章の音が一部違っており、ミスなのか版の違いなのかが不明。

★★★

バレンボイム

 

ベルリンシュターツカペレ

 

流れるような演奏で、素晴らしいのだが、すこしテンポが良すぎるような感じを持った。ためが効いていないとでも言ったほうがいい感じ。

 

★★★

ザンデルリンク

 

フィルハーモニア管

 

全体的にあっさり目。冷静な演奏で濃いノマーラーに慣れていると、もの足りなさを感じる。ただ味わいは深い演奏だ。

 

★★★

小林研一郎

 

日本フィル

 

前半、特に1楽章は指揮者は熱いのだがオケの水準がついていっていない感じ。後半は尻上がりに調子を上げていき、アダージヨは絶品と言ってもいい出来。コバケンには超一流オケとの再録を期待したい。

★★★

マゼール

 

ウィーンフィル

 

1楽章は正直言って長ったらしくて退屈。中間楽章はまあまあ。アダージョはさすがVPOという感じの名演奏。

 

★★★

小澤

 

ボストン響

 

ライブ録音。懐石料理のような細やかさを感じる演奏。ただそれゆえに線の細さも気になってしまう。

★★★

アンチェル

 

チェコフィル

 

全体的にあっさり系だが、ツボは押さえており聴き応えはある演奏だ。

 

★★★

セル

 

クリーブランド管

 

68年のわりには録音が非常に古く感じる。1から3楽章はテンポが早くあっさりしているが、4楽章はうって変わって重厚感のある熱演となる。

★★★

マズア

 

ニューヨークフィル

 

全曲通じて正統な解釈で安心して聴くことが出来る演奏。

 

 

 

★★★

ロスバウド

 

南西ドイツ放送響

 

非常に感情の起伏が激しい演奏で、とてもドラマティック。もうすこし録音がよければよかったのになと思った。

★★★

シノーポリ

 

フィルハーモニア管

 

シノーポリ特有の重々しさがここでは影を潜めており、オーソドックスな演奏に仕上がっていて安心して聴ける。グリッサンドの処理が独特でおもしろい。

★★★

スヴァトラーノフ

 

ソビエト国立響

 

テンポが良くて元気のいい演奏。アダージョはテンポは早いがバランスは良く、しっとりとした名演に仕上がっている。

★★★

バルシャイ

 

モスクワ放送響

 

一言で言うとストレート。粗削りで素朴な感じのするマーラーだ。ちょっと雑な部分もあってそこが残念。

★★

クーベリック

 

バイエルン放送響

 

1楽章が拙速で雑な演奏。2楽章以降は響きも厚くテンポもいいので残念。

★★

クレンペラー

 

ニューフィルハーモニア管

 

全体的に腰の据わった骨太な演奏。ただ終楽章に技術的問題があり非常に気になったのが残念。

★★

インバル

 

フランクフルト放送響

 

全体的にあっさりしすぎ。アダージョも流れるような演奏だ。終結部のなんともいえない雰囲気は秀逸。

★★

ジンマン

 

チューリッヒトーンハレ管

 

1、4の両端楽章がやたらに長ったらしいだけで面白くない演奏。中間楽章はいいので残念。

★★

朝比奈隆

 

大阪フィル

 

結構いい演奏でびっくり。ただ木管とか細かい部分が雑なのと、アダージョの最後の最後セコバイが先に切れてしまうところなどはかなり残念。

★★

マーツァル

 

チェコフィル

 

無難な演奏。全体的に平坦で山場が用意されていない感じ。退屈といえば退屈な演奏。

★★

ギーレン

 

南西ドイツ放送響

 

いつものことながらアーティキュレーションや節回しが独特だ。趣味に合わないのだが、熱演なのは確か。

★★

テンシュテット

 

ロンドンフィル

 

全体的にゆったりとしている。ただ雄大というよりは間延びしたキレのない演奏という感じ。

★★

ミトロプーロス

 

ニューヨークフィル

 

非常に起伏の激しい音楽ではあるが細かいところをオケがごまかしている、というか雑でとても気になる。2楽章が終わったところで拍手が入ったりして、変な1枚だ。

★★

ロベスコボス

 

シンシナティ響

 

ゆったりとしたいい演奏なのだが抑揚がない感じも。特に中間2,3楽章にその傾向が強い。アダージョは大河のような演奏。

★★

ヘルビッヒ

 

ザールブリュッケン響

 

感情の起伏を抑えた抑制的な演奏で全曲を通して穏やかな表情を見せる。後からじんわりとくるような演奏。ただものたらないのも事実。

★★

クレツキ

 

イスラエルフィル

 

ちょっと録音が悪すぎ。雑音がかなり気になる。1楽章は感情の起伏が激しい。3楽章は金管が力不足。4楽章は控えめで力強さが不足している。

★★

ヤンソンス

 

オスロフィル

 

全体的に印象が残らない薄い演奏。

★★

コンドラシン

 

モスクワフィル

 

ソ連の指揮者はみんな快速だが9番に限っては曲が重たいので速く演奏してもそんなに気にならない。ただこの盤は乗りが軽過ぎだ。

もうすこし重厚感がほしいところ。

★★

小澤

 

サイトウ記念オケ

 

ライブ。端正な演奏だが深みに乏しい。

 

 

ノイマン

 

チェコフィル

 

1楽章はテンポが早くあっさりしすぎ。3楽章はかなりゆるい演奏で迫力不足。4楽章はやぼったい感じでテンポに一貫性がない。

ノイマン

 

チェコフィル

 

ノイマンは新盤のほうがいい場合が多いので期待していたが、これははずれだ。全体的に間延びしておりしまりが全くない。

ホーレンシュタイン

 

ロンドン響

 

管のレベルが今ひとつで残念。アダージョもただダラダラしている感じ。録音も良くない。

 

 

フェドセーエフ

 

モスクワ放送チャイコフスキー響

 

1楽章は普通だがそれ以降が快速で乗りの軽いもの足らない演奏。4楽章は終わり方もかなりあっさり。

シャイー

 

ロイヤルコンセルトヘボウ管

 

全体的に平板で盛り上がりに欠ける。特に4楽章は厳しさのない音楽だ。

ワルター

 

ウィーンフィル

 

1938年の歴史的録音。音は悪くない。1楽章は鬼気迫る鳥肌の立つような演奏。ただオケが下手で気になる。アダージョは感情を抑えた禁欲的演奏でかなり物足らない。

ワルター

 

コロンビア響

 

上のVPO盤にしても、これにしてもあまり感情移入しないのがワルターの流儀なのかもしれないが、全体的に激しさがなく平穏な音楽。あっさりしすぎで物足らないのは同じだ。

若杉弘

 

都響

 

金管の表現力が拙い。また弦の音程も今ひとつであり残念。

 

 

 

ベルティーニ

 

ウィーン響

 

オケが下手。特に金管がひどい。弦の音程も悪いし音楽自体にキレがない。

 

 

 

シノーポリ

 

ドレスデンシュターツカペレ

 

全体的にテンポにキレがなく音楽に厳しさがない。特に1楽章は長ったらしくてしまりのない感じで、焦点が完全にぼけてしまっている感じ。

×

シェルヘン

 

ウィーン響

 

第7ではやってもいいかもしれないが、第9

でやってはダメ、そんな感じの1楽章だ。2楽章以降は普通だが、指揮者のやりたいことがオケに徹底されていない感じを受けた。

×

クレンペラー

 

ウィーンフィル

 

突っ込みどころ満載の酷い演奏。いたるところで事故発生でアンサンブルにかなり難あり。全体的に大味。4楽章の16分音符が不明瞭なのも気になった。

××

ノリントン

 

シュトットガルト放送響

 

5番同様シュールな演奏だ。特に4楽章。この楽章特有の長い音符がぶつ切りになってしまっており、作曲者の意図が全く伝わらない演奏になってしまっている。この曲をピリオドでやる意味ってなに?