交響曲第10番

 

<クルシェネク版> 1951年出版

高校2年の秋にヤマハの横浜店にはじめて見る10番のスコアが置いてあったので薄いわりに1500円と

 高価だったが迷わず買ったのがこれ。その頃はマーラー協会版のスコア

 とこのスコアが違うなんてことは恥ずかしながら全然分からず、ようやく

 最近になってその違いに気づいたという次第。金子建志氏の著書にも詳し

 く書いてあるが、協会版がダブルシャープのところをこの版ではナチュラ

 ルで記譜してあったり、若干音の薄っぺらな部分を管で補強してあったり

 という点のほかに、このスコアには3楽章が付いているというのが最大の

 特徴といえる。また実際に聴くと分かるのだが音が随所で違っている。これ

 はシャープがご覧の通り6つもついているため前の小節でナチュラル等で音を変えた場合通常は次の小節

でリセットされるのだが、解釈の違いからか半音、音が違うところがあるのだ。聴いていて最初に「あれっ」

と思うのが下の譜例に示した28小節目だ。クルシェネクがH-D-G-C-Hと動いているところを協会版は

H-D-G-Cis-Hとなっている。このほかにも何箇所かあるので探してみるのも面白いだろう。

 

 

 

 

 

 

(上段がクルシェネク版 下段が協会版)

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

シェルヘン

 

ウィーン国立歌劇場管

この曲のおそらく初めての録音。ロマンティックで幻想感溢れる夢のような演奏である。シェルヘンらしいサプライズがないところがかえってサプライズだ。1楽章のみの演奏。1952年の録音。

★★★★

セル

 

クリーブランド管

,3楽章収録。早くて起伏の激しい演奏。1958年の録音だが、非常にクリアでよい。

オケが上手く緊張感が途切れない隙のない演奏だ。3楽章もテンポにメリハリがある。

★★★

ミトロプーロス

 

ニューヨークフィル

シェルヘン同様にロマンティックで時代掛かった演奏。若干音程の悪さが気になる。1楽章のみの演奏。1960年録音。

★★

ブーレーズ

 

ロンドン響

「嘆きの歌」とのカップリング。1970年の録音だが何故かクルシェネク版を使用。テンポは21分弱とえらく快速な演奏。あっさりとしすぎて聴かせどころに乏しい。1楽章のみの演奏。

★★

アドラー

 

ウィーン響

こちらは1953年の演奏。52年の演奏よりは若干こちらのほうがいい。弦の音程が今ひとつ1,3楽章を収録。

アドラー

 

ウィーン響

1952年の演奏。録音が悪いし演奏も下手。こちらも1,3楽章を収録。

 

<国際マーラー協会批判全集版> 1964年出版

 

 

 

 

 

 

多くの指揮者から支持されているAdagioのみの1楽章版である。こちらのスコア

 は薄っぺらなわりに5000円とかなり高価だ。この版の特徴は作曲者の書いた音符

 のみが真実であるという考え方に基づいているところだろう。バーンスタインや

 ベルティーニといったマーラー指揮者の多くが10番ではこの版を選択している。

 ちなみに協会版と補筆完成版の両方を録音しているのはインバルとギーレンの

 二人だけと少数派である。

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

ベルティーニ

 

ケルン放送響

素晴らしいのひとこと。大河のように音が溢れるような迫力に圧倒される。オケも抜群に上手い。

★★★★★

クーベリック

 

バイエルン国立放送響

輪郭がはっきりしている。非常にドラマティックで

かつ美しさも兼ね備えている秀演である。

★★★★★

バーンスタイン

 

ウィーンフィル

弦の音色がいい。奥行きのあるスケールの大きい演奏。古さはまったく感じない。

★★★★

セーゲルスタム

 

デンマーク国立放送響

弦の厚い響きが素晴らしい。テンポにめりはりがあり、朗々と謳いあげる感じで感動的な演奏だ。

★★★★

バーンスタイン

 

ニューヨークフィル

テンポにめりはりがあり、躍動感がある演奏。

伸びのある弦の音色が素晴らしい。

★★★★

ブーレーズ

 

クリーブランド管

情感たっぷりの聴き応えのある濃厚な演奏。テンポにめりはりがある。

★★★★

マゼール

 

ウィーンフィル

テンポがいい。非常にまとまっている端正な演奏だ

 

 

★★★★

アバド

 

ウィーンフィル

非常に美しくしかも力強さと繊細さを兼ね備えた演奏である。

 

 

★★★★

ハイティンク

 

ベルリンフィル

ダイナミックであり、なおかつ丁寧な演奏。

 

 

★★★

インバル

 

フランクフルト放送響

テンポ快速。さわやかな感じが漂う演奏。毒のない

演奏だ。

★★★

小澤征爾

 

ボストン響

平穏で品のいい演奏。感情は抑え気味だ。

 

 

★★★

ギーレン

 

南西ドイツ放送響

早い。もうすこし歌ってもいいような気がする演奏だ。演奏は上手い。

★★★

メータ

 

ロスアンジェルスフィル

テンポは聴いた中では一番早い。だが歌うべきところは歌っておりめりはりが効いている。弦が美しい。

★★★

ベルティーニ

 

都響

ゆったりとした演奏で間の取り方が上手い。

★★

マイケルティルソントーマス

 

サンフランシスコ響

品のいい演奏だが激しいものがなく全体的に平板。

 

 

テンシュテット

 

ロンドンフィル

弦の音程が悪く、非常に気になる。

 

 

シノーポリ

 

フィルハーモニア管

金管の迫力が凄いのだが、30分超の演奏時間で

テンポにめりはりがなく、冗長な演奏だ。

ノイマン

 

チェコフィル

早い。雑な部分が多い。あと音が違うところが何箇所かあって本当に協会版?という感じ。

×

井上喜惟

 

ジャパンマーラーオケ

テンポが遅いのは良しとしても、主張のある遅さではなく単に間延びしている感じがする。弦の音程の悪さがかえって目立つ。

××

若杉弘

 

都響

ヴァイオリンの音程がひどすぎて聞くに堪えない。

 

 

 <弦楽合奏版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

ギドン・クレーメル

 

カメラータ・バルティカ

オーケストラ版よりも曲の輪郭がはっきりと掴める演奏。曲の全体像が分かりやすく主張がストレートに響いてくる演奏だ。ただオーケストラと比較すると音色の変化に乏しい面は否めない。

 

<補筆完成版>

 実をいうとマーラーの曲の中で私が一番好きなのがこの10番の第5楽章だ。すべての現実を受け入れた上で

 全てを許すといった感じが素晴らしい。小説で例えるなら志賀直哉の名作「暗夜行路」の最終場面、大山の山上

 からの夜明けを見ながら何もかもを受け入れる心境に達するあの感動的な場面のような。ここには単にアルマの

 不貞を許すという問題だけではなく、彼の一貫したテーマであった「生と死」や「運命」といった全てのことに

 対しての「受容」が含まれているのではないでしょうか。ちなみに銀河英雄伝説の最後の最後もこの曲で締めく

くっていますね。

 

<各バージョンの個人的評価>

◎ ナイスオーケストレーション ○ 普通 △ ぎりぎりセーフ ▲ ちょっとどうかな × ありえない

版名

総合

ひとこと

クック2

細かい違いはあるものの基本は変わらないという感じ

クック3-1

録音多数、支持が多いということで、これを標準とします

クック3-2

第3版1稿との違いがよくわからない

フィーラー

2楽章シロフォンがアクセントがありおもしろい

カーペンター

×

▲−

1楽章かなり趣味悪い 4楽章勝手に作曲するなという感じ

マゼッティ

○−

4楽章鳴り物が余計 5楽章は非常にいいです

バルシャイ

4楽章若干どうかなとも思うが全体的には常識的

サマーレマツッカ

4楽章どんちゃかやりすぎ 5楽章映画音楽みたいに盛り上げすぎでしょ

 

<デリック・クック版>

 

 

 

 

 

 

 クック第3版第2稿スコア(1989)

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

評価対象外

 

 

 

 

 

アルマを翻意させた歴史的録音。その歴史的価値に敬意を表して評価対象外としました。アルマも5楽章を聴いて恋多き若き日を思い出したのではないでしょうか。

★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<デリック・クック版 ピアノリダクション版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<マゼッテイ版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<フィーラー版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<カーペンター版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<バルシャイ版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<サマーレ・マツッカ版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと