交響曲 大地の歌 <管弦楽版>および<ピアノ版>

Das Lied von der Erde

 

非常にポジティブな作品である第8交響曲でマーラーは一応の結論に達したものと考えられるのだが、なぜか

次の作品は人生のはかなさを歌う一転してネガティブな作品となった。ネガティブという言葉が適当かどうかは

さておき、ここから先の3曲は死への三部作とも言えるだろう。表現者というのは創作することについての必然

性を持ち合わせている。小説家しかり作曲家しかり。だからサラリーマンのような通常の生活を送っている人間

には小説など書けないし、また書く必然性も無いのだろう。マーラーにとっての創作の原動力は「いかに生きる

べきか」ではなく「いかに死ぬべきか」ではなかったのだろうか。第8は神への賛歌であり、昇天するファウスト

への憧れが見て取れた。しかし結局のところ宗教ではマーラーの納得いく結論が得られなかったのではないだろうか。

だから第8のあと3曲もまるで肯定的とはいえない曲を次々と生み出していったのであろう。そしてその最初の作品

がマーラーと東洋の邂逅ともいえる、この感動的な作品となったわけである。輪廻であるとか自然に対する畏怖である

とか我々東洋人の感性に近い世界がこの作品には満ちているような気がするのである。ただ、東洋的な素材を使って

いるから我々に理解しやすいかといえば、そうではない気もするのである。我々がマーラーの晩年の作品を理解する

うえで決定的に不足するもの。それは「死に対するリアリティ」ではないか。特に日本人は特定の宗教を持たない民族で

あり、ゆえに癌にでもならない限り死を身近に感じる機会が決定的に欠如していると思うのである。最近中川恵一さん

という癌を専門とするお医者さんの書いた「死を忘れた日本人」という本を読んだのだが、ますますその思いは強くなって

いる。しかし逆に「死に対してのリアリティ」など持ち合わせていたらマーラーの後期の作品など正常な心持で聴いてなど

いられないかもしれない。自分というものの存在が確固たるものであるという地盤(それも単なる思い込みなのだが)があって

こそマーラーの音楽に客観的に向き合っていられるのではないだろうか。

 

<管弦楽版>

お薦め度

ジャケット

演奏者

ちょっとひとこと

★★★★★

ベルティーニ

ケルン放送響

Ms Marjana Lipovsek

T Ben Heppner

オケが抜群に上手い。起伏の激しい音楽作りで

非常に劇的。ソリストも負けておらず立派。1曲目は若干力強すぎるが、4曲目は生き生きとしていて素敵だ。

★★★★★

クレツキ

フィルハーモニア管

T Murray Dickie

Bar D FischerDieskau

59年録音ながら音質はいい。告別が絶品。ディスカウはバーンスタイン盤よりいい。非常にのびのびと歌っている。カップリングの4番もベスト盤に挙げたが、クレツキのマーラーをもっと聴きたかったと切に感じた。

★★★★★

ブーレーズ

ウィーンフィル

Ms Violeta Urmana

T Michael Schade

メゾソプラノのUrmanaが非常に良い出来。テナーの楽章もきびきびしている。特に告別は控えめながらいい雰囲気を出している。非常に高水準な演奏。

★★★★★

カラヤン

ベルリンフィル

A クリスタ ルートヴィヒ

T ルネ コロ

カラヤンのマーラーは大地と第9だけは別格の出来。特にこの盤は凄い。シベ4、悲愴に匹敵する

ベスト盤だ。弦の透きとおるような音色、絶望的に響く金管群、そして抜群の歌唱。ただあまりの完璧さ美しさがマーラーの本質からずれてしまっているのでは?と感じることも。難しい‥

★★★★

ワルター

ウィーンフィル

A カスリーン フェリアー

T ユリウス パツァーク

歴史的名演。この盤はフェリアーの歌に尽きるでしょう。これは人間の声ではなく神の声です。ただ4曲目は声が曲に合っておらず残念。パツァークもかったるい感じがよく出ていて素敵。

★★★★

ベイヌム

アムステルダムコンセルトヘボウ管

Ms Nan Merriman

T Ernst Haefliger

オケと歌のバランスが絶妙。特に告別は感情の起伏が激しくかつダイナミック、終結部の味わい深さもすばらしい。録音も56年ながら古さを感じさせない。

★★★★

ヨッフム

アムステルダムコンセルトヘボウ管

Ms Nan Merriman

T Ernst Haefliger

上記のベイヌム盤と全く同じ面子による演奏。こちらは63年録音。非常にオケの上手さが光る演奏である。非常にドラマティック。告別は透明感あふれる演奏。

★★★★

クレンペラー

フィルハーモニア管

MS クリスタ ルートヴィヒ

T フリッツ ヴンターリッヒ

演奏はいいのだが録音が悪く最強音が割れて聴こえるのが非常に残念。起伏が激しくドキドキするような攻撃的な演奏。だがルートヴィヒがちょっと元気良過ぎと感じるのも事実。

★★★★

バーンスタイン

ウィーンフィル

T ジェームズ キング

Bar D フィシャーディスカウ

奇数のテナー楽章は早くて軽くて今ひとつ。偶数のディスカウは素晴らしい。特に禁欲的な告別は聴き応え充分。

 

 

★★★★

ベルティーニ

都響

Ms スーザン プラッツ

T ヨルマ シルバスティ

都響の伴奏が素晴らしい。両方のソリストも素晴らしい出来。ベルティーニのマジックを感じる一枚だ。

★★★★

シノーポリ

ドレスデンシュターツカペレ

A イリス ヴェルミヨン

T キース ルイス

全集の中でこの曲だけドレスデンシュターツカペレと組んで演奏している。シノーポリのマーラーは今ひとつの盤が多い中、これはいい演奏。特に告別のソロの間の取り方などは絶妙だ。ただ最後の最後があっさりしすぎで残念。

★★★

レヴァイン

ベルリンフィル

S ジェシー ノーマン

T ジークフリート イエルザレム

全体的に音色が華やかでレベルの高い演奏。特に告別のノーマンは味わい深い。

★★★

ジュリーニ

ベルリンフィル

A ブリギッテ ファスベンダー

T フランシスコ アライサ

オケが上手い。全体的にまとまりがありソフトな印象を与える演奏。特にアルトのファスベンダーが素晴らしい。

★★★

テンシュテット

ロンドンフィル

A アグネス バルツァ

T クラウス ケーニッヒ

1曲目の出来が悪いが、その後持ち直してくる。

特に告別は雄大な流れを感じさせる秀逸な演奏。

バルツァの訥々と語りかけるような歌唱が胸に迫る。

★★★

ラトル

バーミンガム市響

T Peter Seiffert

Bar Thomas Hampson

ハンプソンの歌唱が素晴らしい。オケの伴奏も高レベルで申し分ない。テノールもハンプソンに負けておらず、全体的にまとまっている。

 

 

★★★

ワルター

ニューヨークフィル

MS ミルドレッド ミラー

T エルンスト ヘフリガー

テナーのヘフリガーが今ひとつ。流れが悪く控えめでおとなしい印象。ミラーはとても良く、特に告別の消えるような終わり方は絶品。

 

 

★★★

マイケル ティルソン トーマス

サンフランシスコ響

T Stuart Skelton

Bar Thomas Hampson

オケの伴奏がかなり控えめ。奇数楽章は普通の演奏だが、偶数のハンプソンが圧倒的な存在感を示しており、非常に聴かせる演奏。

★★★

ハラース

アイルランド国立響

A Ruxandra Donose

T Thomas Harper

全体的にテンポは快速。3曲目などはとても美しい演奏。告別のソプラノの声がかすれ気味でとても残念。

★★★

ロスバウト

南西ドイツ放送響

Ca Grace Hoffmann

T Helmut Melchert

テナーは力強いのだがやや一本調子な感じ。コントラルトのホフマンはかったるい感じがよく出ていて秀逸な演奏である。録音があまりよくないのだがあまり気にはならない。

★★★

マゼール

バイエルン放送響

Ms ワルトラウト マイヤー

T ベン ヘップナー

マゼールのマーラーの中では一番まとも。特に独唱陣の出来が素晴らしい。テンポも非常にオーソドックス。

 

 

★★★

クリップス

ウィーン響

A Anna Reynolds

T Jess Thomas

若干ソプラノの音程が気になるが、告別の最後の消えるような終わり方などは絶品。

 

 

★★★

コリンデイビス

ロンドン響

S Jessye Norman

T Jon Vickers

テナーの奇数楽章は早め、ソプラノの偶数楽章は

ゆったりとコントラストを強調した演奏。特に告別は大河のようにゆるぎないテンポである。

★★★

セル

クリーブランド管

Ca Maureen Forrester

T Richard Lewis

録音が今ひとつで大変残念。告別は間合いを充分にとってたっぷりと聴かせる秀逸に演奏だけになおさらである。

★★★

クレツキ

ウィーン響

A Oralia Dominguez

T Set Svanholm

アルトは非常にいいが、テノールがダメ。告別のしみじみとした歌唱は絶品。録音も最初は古さが気になったが後半は気にならなくなる。

★★★

バルビローリ

ハレ管

A Kathleen Ferrier

T Richard Lewis

非常にセンチメンタルで時代掛かった演奏。フェリアーの歌も非常にいい。ワルター盤と同じ52

年の録音。

★★★

ワルター

ウィーンフィル

S Kersten Thorborg

T Charles Kullman

36年の歴史的録音。意外と聴けます。演奏もとてもエレガントで楽しめます。

★★★

クーベリック

バイエルン放送響

A Janet Baker

T Waldemar Kmentt

告別のオケの間奏が非常に厚い響きで感動的。

★★

ショルティ

シカゴ響

A イヴォンヌ ミントン

T ルネ コロ

ルネコロはマーラーもワーグナーもみんな一緒に聞こえる。アルトのミントンはなかなかの出来。

 

 

★★

バーンスタイン

イスラエルフィル

A クリスタ ルートヴィヒ

T ルネ コロ

録音が非常に古く感じる。ルートヴィヒの歌唱は上手いが、全体的に今ひとつの出来。

 

 

★★

インバル

フランフルト放送響

Ms ヤルド ヴァン ネス

T ペーター シュライヤー

オケの伴奏は控えめでとても上品なのだがテノールのシュライヤーの出来が今ひとつで残念。告別はまあまあ。

 

 

★★

ショルティ

ロイヤルコンセルトヘボウ管

A マルヤーナ リポフシェク

T トーマス モーザー

基本的には旧版とそんなに変わらないが、テンポは非常にいい。

 

 

★★

ライナー

シカゴ響

Ca Maureen Forrester

T Richard Lewis

全体的に今ひとつ。特に4曲目などは躍動感がまったくない。

★★

ケーゲル

ライプツィヒ放送響

Ms Vera Soukupova

T Reiner Goldberg

ライブ。ちょっと荒削りな印象。特にテノールは力みすぎである。

★★

レッパード

BBCノーザン響

Ms Dame Janet Baker

T Jhon Mitchinson

テノール、メゾソプラノともに素晴らしいが伴奏のオケが今ひとつなのが悔やまれる演奏。特に1曲目の木管がひどい。

 

 

★★

シューリヒト

アムステルダムコンセルトヘボウ管

Ms Kerstin Thorborg

T Carl Martin Ohmann

シューリヒトのマーラーは珍しい。全体的に耽美的で時代掛った演奏。ただ録音が古いせいか所々途切れるところがありしかもカットもあり残念。変なナレーションも入っている。

★★

クライバー

ウィーン響

A Christa Ludwig

T Waldemar Kmentt

クライバーのマーラーも珍しいが特に特徴のない演奏。前半はテンポが早い。67年の演奏だがそのわりに録音はよくない。

★★

イセルシュテット

北ドイツ放送響

A Nan Merriman

T Fritz Wunderlich

オケが今ひとつなのとアルトの音程が気になる。

 

 

 

★★

ケント ナガノ

モントリオール響

T Klaus F Vogt

Bar Christian Gerhaher

テノールが意識的だと思うがなよなよした感じでよくない。バリトンはいいので残念。

★★

バレンボイム

シカゴ響

Ms Waltraud Meier

T Siegfried Jerusalem

全体的にあっさりめの演奏。特にテナー楽章があっさりしすぎ。テノールのイエルザエムは表情豊かなのでもうすこしじっくり聴かせてもよかったのでは。

★★

ジークハルト

アーネムフィル

MS クリスティアンヌ ストテイン

T ドナルド リタカー

録音バランスがよくない。表現も全体的に控えめである。

★★

サロネン

ロスアンジェルスフィル

T プラシド ドミンゴ

Bar ボー スコウスフ

全体的にまとまってはいる。告別の終結部がかなりあっさりと演奏していて残念。

★★

ケンペ

BBC響

Ms Janet Baker

T Ludovic Spiess

オケと歌の録音バランスが良くない。アルトの偶数楽章はなかなかの出来。

★★

ワルター

ニューヨークフィル

S Elena Nikolaidi

T Set Svanholm

53年のライブ。可もなく不可もなくといった特徴のない演奏。

ハイティンク

ロイヤルコンセルトヘボウ管

Ms Janet Baker

T Lames King

1曲目のアーティキュレーションが独特。告別も雰囲気はいいのだが、全体的に今ひとつの演奏。

ザンデルリンク

ベルリン響

A Birgit Finnila

T Peter Schreier

オケの伴奏がかなり雑な印象。告別は冗長でしまりのない演奏だ。全体的にたいくつである。

 

 

ノイマン

チェコフィル

Ca Vera Soukupova

T Vilem Pribyl

オケに厚みがない。特に弦が今ひとつ。演奏は56分と聴いた中では最速。あっさり演奏しすぎで味気ない。

アルミンク

新日本フィル

Ms 藤村実穂子

T バーソルド シュミット

藤村は先日聴いたバイロイトのフリッカは素晴らしかったが、この演奏はかなりいまいち。特に告別はぼろが出た感じ。弦なども雑な部分が多い。

若杉弘

都響

A 伊原直子

T 田代誠

オケのアンサンブルに乱れがあり残念。1曲目はテンポにキレがない。アルト楽章はいい。

朝比奈隆

大阪フィル

A 伊原直子

T 林誠

1曲目はテンポにキレがない。伊原の歌唱は非常にいい。告別のフルートが今ひとつで残念。

フィシャーディスカウ

シュトュットガルト放送響

A Yvi Janicke

T Christian Elsner

歌手であるディスカウがこの曲を振るということは何かしらの必然性があるはずだと考えるのだが

それを全く感じさせない演奏。なぜ彼はこの曲を振ったのか?全体的にオケの響きも薄っぺらだ。

 

さて、このピアノ版は後世の誰かが編曲したものではなく、作曲者自身の手によるオリジナルである。このピアノ

版はオーケストラ版が完成したあとに作成されたものではなく、同時並行で作曲されたものだという。当初から

こういう形式でも演奏することを意図していたものなのだろう。初演は作曲者の死からなんと80年近くも経過

した1989年東京で行われている。この日本で初演が行われたというのも何かの縁を感じるものである。

ピアノ版はオケ版に比べて若干小節を詰めている部分があるのと、余計なものを削ぎ落としているためオケ版とは

雰囲気がかなり異なっている。

 

<ピアノ版>

★★★★★

 

 

Ms Brigitte Fassbaender

T Thomas Moser

Pf Cyprien Katsaris

ピアノと歌のバランスが抜群。特にピアノ伴奏の

上手さは特筆に価する。告別の間合いの取り方、寂寥感など非常に素晴らしい。

★★★★★

 

 

T Robert dean Smith

Bar Ivan Paley

Pf Stephan M Lademann

バリトンのバレイの歌が絶品。控えめだがそれでいて存在感があり雰囲気もピカイチ。これを聴いたらオケよりピアノ版のほうがいいのではと思ってしまうような演奏である。

★★★★

 

 

S 平松英子

Pf 野平一郎

全体をソプラノひとりで歌い通すというのはオケ版も含めこの盤が唯一である。奇数楽章も違和感は全くない。平松の歌も品がありいいのだがなんといってもピアノ伴奏がいい。間の取り方など非常にうまい。

★★

 

 

A Hermine Haselbock

T Bernhard Berchtold

Pf Markus Vorzellner

歌とピアノのバランスが悪い。ピアノが下手で流れが悪く曲の全体像がつかめなくなってしまっている。あと1曲目などは歌が目立ちすぎで品がない。