シレトコ半島の漁夫の歌(1960)

 

 

@ 藍川由美=遠藤郁子 30CM-391,2 1995.2.28

A 藍川由美=斎藤京子 LD32-5078 1988.3.4

 

知床というのはある意味北海道的ではない。なぜなら断崖絶壁の海

と険しい山々に挟まれた狭く細い平地にへばりつくように人々が生

活している様はどちらかというと本州的であるからだ。知床の特異

性は半島の約半分が人跡未踏の秘境であり、道路も登山道もなにも

なくまさに日本で唯一手付かずの土地であるという点に尽きるであ

ろう。そこに住んでいるのはヒグマとエゾシカとキタキツネと鳥と

魚たちだけでなのである。伊福部も林務官時代にこの知床を訪れた

のだろう。そのときの印象がこの曲を作る上で活かされているのは

間違い無い。戦前の知床は今とは違う意味で賑わいをみせていた。

硫黄である。知床連山の北側に位置する硫黄山は大正時代に大爆発

をおこしその副産物として純度99%という硫黄を大量に噴出した。

これを採掘するので知床は大いに賑わったのだ。ゴールドラッシュ

ならぬ硫黄ラッシュである。その硫黄の採掘に従事させられたのが

朝鮮から強制連行された人々である。今も硫黄山に向かう登山道の

途中には硫黄採掘跡が残されており当時の悲惨な状況を垣間見るこ

とができる。知床というと自然保護の最先端を行くクリーンなイメ

ージしかないが、こんな暗い歴史もあることを知ってほしい。さて

この曲はもともとバス用に書かれた曲であるが現在のところ藍川由美

の録音が2種類あるだけである。私の手元にはFMからのエアチェック

の古いテープがあり、それはバリトンでの演奏である。ただ録音データ

が何も書いていないので誰の演奏だか分からない。たしか昭和58年前

後の放送だったはずだ。これを聞くとやはりこの曲は男声で聞きたいと

思う。曲想が男声向きなのだ。冒頭などは渋いバリトンの歌い出しだと

しびれてしまうほどだ。また後半の聞かせどころも男声の方が漁夫の寂し

さ侘しさをうまく表現できるような気がするのだ。もし現在出ている盤で

選ぶなら@の藍川の新盤がベストだろう。早く誰か男性陣で録音してくれ

る人が登場してほしいものだ。

 

のCDが2種類存在する旨のご指摘を頂戴した。早速探してみることに。

手に入れたら改訂します。

 

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