タプカーラ交響曲(1954/79)

@ 芥川也寸志  新交響楽団           FONC-5030 1980.4.6

A 芥川也寸志  新交響楽団           FOCD-3245 1987.2.1

B 広上淳一   日本フィルハーモニー交響楽団   KICC-0176 1995.8,9

C 原田幸一郎  新交響楽団           TYCY5424.25 1994.10.10

D 手塚幸紀   東京交響楽団          K28G7190 1984.2.21

E 石井真木   新星日本交響楽団       TYCY5217.18 1991.12.13

F 井上道義   新日本フィルハーモニー交響楽団 FOCD-3292 1991.9.17

 

伊福部昭の代表作である。録音も7種類もあって選ぶのが大変な作品でもある。タプカーラとはアイヌの

「タプカラ(tapkar)」からとったものである。「タプカラ」とは舞い、踊るという意味でアイヌの芸術家Atuyに

よれば「アイヌの男性の最高の踏舞。両腕を軽く曲げゆっくりと上下させ自らの人生を振り返り礼拝しな

がら歌う」ものだそうだ。実際の「タプカラ」はキングレコードで出している「世界民族音楽大集成」という

CDで聴くことが出来る。またアイヌ詞曲舞踊団「モシリ」のレコードにも「TAPKAR踏舞」というのがある。

さてこの「タプカラ」だが聴いてみると酔っぱらいのおやじが「あーあーうーうー」と唸っている感じのもので

伊福部作品との共通点は皆無といっていい。ただ伊福部自身が第3楽章の演奏について「腰に酒の徳利

をぶるさげているつもりで演奏せよ」と指示したと伝えられており「タプカラ」の精神をもって書かれた曲と

いうことでの命名であろう。前述のモシリの「タプカラ」のほうがアイヌ音楽としての「タプカラ」をよく表して

いるといえるので是非聴いてみてほしい。この交響曲は昭和54年に改訂されているが現在の録音は全て

改訂版によっている。音楽之友社刊の「伊福部昭の宇宙」に旧版の冒頭のスコアが掲載されている。そ

れによると旧版はいきなりアレグロから始まっている。やはり重厚なレント部分がある現在の形のほうが

曲としては完成度が高いといえよう。私はこの曲の第2楽章が大好きだ。アイヌの悲恋物語を連想する

この曲は伊福部の数ある作品の中でもっともロマンティックなものといえよう。さて演奏のほうだが@の

芥川=新響が文句なしのベストだ。これは改訂版の初演となる演奏で記念碑的名演といって差し支え

ない。このレコードは昭和56年の秋にフォンテックが「日本の作曲家シリーズ」としてリリースした中の

1枚で今日の伊福部昭ブームのさきがけともなった貴重なレコードである。第1楽章、重厚なレントに続

くアレグロでは緊張感あふれる一生懸命な演奏がいい。テンポも速すぎず遅すぎず、中間部もだれる

ことなく小気味いい演奏である。イングリッシュホルンの美しい第2楽章に続く第3楽章がこの演奏の

白眉だ。私はタプカーラの演奏の差はこの最終楽章で出ると思っている。芥川の演奏は録音のせい

もあるかもしれないが弦が前面に出た演奏で他の盤とは趣を異にしている。本当にすごいのは再現

部から終結に向う部分でここの迫力は多分二度と再現できないのではとも思う演奏だ。この演奏は

レコードでCDでは出ていないのでぜひ復刻を望みたいものである。白熱した演奏という点では芥川の

新盤Aもなかなかの演奏である。残念なのは第2楽章があっさりしすぎていることだ。もうすこしゆった

り唄ってもよかっただろう。全体的にまとまっているのはD手塚=東響C原田=新響のふたつだ。

新交響楽団はタプカーラの演奏に関してはエキスパートといっていいだろう。常にレベルの高い演奏を

聞かせてくれる。第2楽章だけだったらB広上=日フィルをお勧めしたい。ほれぼれするような美しい

演奏である。ただ、1楽章の中間部のテンポが異様に遅く、聞いていて胃もたれがしてくるので全体を通し

ては今ひとつの出来だ。ただこうしてみるとタプカーラは演奏に恵まれた曲といえるのではないだろうか。

 

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