ウナベツ岳温泉探検記

 

1回目 21年6月5日〜6日

2回目 21年10月3日〜4日

 

われわれ秘湯探検隊は北海道究極の秘湯といわれる知床海別岳の山中にあるというその存在すら

定かでないウナベツ岳温泉を目指すことにした。この温泉の話はかなりの昔から噂として語られては

いたが場所が今ひとつ不明確なため、探検するにもしようがなかったわけである。某YHのペアレントの

話によるとその昔この秘湯を目指すというテレビ番組が企画され撮影クルーが海別の山中に入った

もののたどり着けず、挙句の果ては遭難騒ぎまで起こすという地元では笑い話の種にもなったほどの

秘湯なのである。今回複数のウェブサイトおよび伊藤正博著「知床半島の山と沢」を参考にこの温泉

の位置をほぼ特定しテント泊の重装備で秘湯探検に臨んだのである。

(25000分の1地図 朱円+海別岳 左がウトロ側 右が羅臼側 赤丸が温泉推定地)

 

斜里からウトロに行く途中の朱円近辺にウナベツ自然休暇村センターという温泉があるので最初は

てっきりウトロ側の海別岳山麓にあるのかと思っていたのだが、場所は分水嶺を越えた羅臼側である。

海別を源とする植別川の支流にその秘湯は存在する。なのでウトロ側から入ると一度海別のやまなみを

越えて羅臼側に下り、植別川の沢下りをしてから再度支流を登り返すという行程になる。ウェブ等の情報

だと健脚の人でも片道5時間以上はかかっているので、当初日帰りプランを考えていたが万が一のことを

考えて山中テント泊することにした。時期の選定については笹が道を蔽う前が良いだろうということで6月

前半に設定。この設定があとあと活きてくることとなる。さてまずは出発地となる海別鉱山道路のスタート

地点まで車で行く。ここは採石場跡地ということでちょうどいい駐車場になっている。4WDであればもうすこし

上まで車で行くことが可能である。この鉱山道路は戦前に開削されたもので硫黄を採掘したとも鉄鉱石を

  

(スタート地点)                         (鉱山道路)

採掘したともいわれているが、いずれにしても戦後の早い時期に閉山となってしまったようである。見ての通り

非常に立派な道路で途中までは非常に快適なハイキングを楽しむことが出来た。ところがこれも最初の1時間

程度で、だんだん残雪が現れ始め進むのが困難になってしまった。おまけにガスまで出てきてしまって1時間以上

  

(四の沢支流の手前)                      (鉱山跡地)

の停滞を余儀なくされた。幸い鉱山道路の跡ということで道は非常識な曲がり方はしないためなんとか当初予定

していた四の沢支流手前の幕営適地までたどり着くことが出来た。採石場を12時にスタートして約4時間。途中

1時間停滞したので正味3時間である。翌日はテントをそのままにして軽装備で6時に出発。途中沢を3つ渡渉

して約2時間で鉱山跡地に到着。四の沢から先は枝に赤色のリボンが高密度についており非常に安心感のある

行程。鉱山跡地から植別川へ出る道もリボンがつけられており迷うことはなかった。順調に植別川と思しき沢に

到着したのが8時15分。さあ温泉までもう一息と思ったのが浅はかだった。植別川だと思い込んでいたのは支流

  

(鉱山跡地から植別支流に出たところ)           (植別川で見られた硫黄冷泉)

で、その数分後轟々と音を立てて流れる本物の植別川の濁流に合流。雪解け水により大増水しており沢下りは

困難を極めた。なんとか30分ほど進んだもののついにこれ以上の渡渉は不可能と判断。GPSで位置を判定した

結果温泉沢との合流地点まであと1キロメートルのところでの撤退であった。以上が第1回目のチャレンジである。

(撤退地点 大きな岩が目印)

 

さてリベンジ企画は当初9月ということで考えていたがメンバーの休暇の日程が合わないので、10月の第1週

となった。行程は前回と同様第一日目に四の沢手前まで入り幕営。翌日軽装備で温泉にアタックする。今回は

メンバーのひとりが急病で入院してしまい二人での探検となった。駐車場を13時に出発。覚悟はしていたが早い

  

(鉱山道路 かなり手前で藪漕ぎ状態)            (前回より若干手前で幕営)

段階で藪漕ぎが始まる。ただ、前回の雪渓よりは歩きやすく迷うことはなかった。運悪く途中から大雨が降りだす。

幕営適地を探すが前回のテン場はコンディションが悪く先の四の沢近辺まで捜しに行くが結局いいところが見つからず

前回より若干手前にテントを張る。さすがに10月ということで日が短くテントを張り終わり夕食の支度をしていたら

どっぷりと日が暮れてしまった。翌日は6時15分にテン場を出発。軽装備でいよいよ温泉にアタックである。

  

(四の沢支流 渡渉)                      (四の沢本流 渡渉)

  

(五の沢 渡渉)                         (国境尾根)

3つの沢を渡渉するが、最後の五の沢以降本格的な藪漕ぎとなる。もう枝についたリボンだけが頼りとなる。国境

尾根近辺ではほとんど道が消え頭上のリボンを頼りに進む。途中ヒグマらしき大きな音を聞くも姿は見えず。携帯

したラジオの音量を最大限に上げて進む。国境尾根を過ぎて羅臼側の下り入るといよいよ道は最悪の悪路に。

  

(国境尾根から羅臼側への下り 遠く国後を望む)     (鉱山跡地)

五の沢から先、植別支流までの間は残雪期の方が歩きやすく、またリボンが見つけやすいため迷うリスクは少ない

と感じた。残雪期に一回歩いておいて良かったと思ったものだ。7時30分に鉱山跡地に到着。だいぶ草が茂っており

前回来た時と印象が全く違う。鉱山跡地から植別川支流への道が今回一番迷いやすいと感じた。リボンが見えにくく

どっちへ行っていいのかがよく分らない。これも前回残雪期に歩いておいて良かったと思った。慎重にテープでマーキング

しながら8時前に前回植別川と間違えた支流に出る。ほどなく本流に合流したがやはり水量は今回のほうが圧倒的に

  

(植別川)                             (ウナベツ岳温泉)

少ない。しかし植別川の沢くだりが今回の探検では一番難儀であった。当初1時間と見ていたが温泉沢の合流点

までたっぷり1時間半かかってしまった。ラジオも高度が下がるにつれて全く入らなくなってしまい、クマ対策になら

なかった。ここの沢下りはテントを背負っての重装備だとかなり辛いかもしれない。ようやく温泉沢との合流に到着

し、今度は沢を上り返す。早々と硫黄の臭いがしてくるが、温泉は湧いていない。10分ほど上流に行くとついに湯煙り

のあがっている一角を発見。9時50分ついに念願のウナベツ岳温泉に到着である!

  

(源泉)                              (温泉から眺める紅葉)

感動するほどお湯がジャバジャバと湧いており川に流れていく。泉温は45度前後。入れるギリギリの温度である。

ちょうどいい湯船があるので入浴した。渓谷沿いは紅葉が始まっており極上の時間を過ごさせてもらった。帰りの

時間もあるので30分ほどで温泉滞在を切り上げた。ちなみに帰りも大変で、笹薮の向いている方向が帰りは逆

となったため行きより難儀した。テン場まで3時間、テントを撤収して駐車場に帰ってきたのが16時20分。温泉を

出発したのが10時30分なので約6時間である。もし今後行きたいという物好きな方がいるのであればアドバイス

として、@単独行は絶対避けるべき、A日帰りの装備はリスクが高い、B沢くだりの装備をきちんとしたほうが無難、

Cウェブ上では沢沿いに幕営したグループもいるようだが増水リスクを考えると避けるべき、四の沢手前か残雪期

なら鉱山跡地がベター、以上4点を挙げておきたい。