記事タイトル:臨床現場に統計学 


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お名前: 鎌谷直之   
確率論で有名なベイズの定理を知っていますか。むずかし理論のように見えるかも
知れませんが、実は臨床で非常に有用な定理です。

例えば、今、RAかRAでないか全くわからない(その人の症状を見ることもできない)と
して、ただ、その人のRA因子が陽性であったとします。
一般にRAの頻度を0.5%、RAでRA因子の陽性率を80%、RAで無い人のRA因子陽性率を
3%として、この人のRAである確率を求めよ。この問題は日常臨床ではよくある問題です。
P(A|B)をBの時のAの確率(条件確率)とします。
ベイズの定理から

P(RAである|RA因子陽性)=P(RA因子陽性|RAである)P(RAである)/
(P(RA因子陽性|RAである)P(RAである)+P(RA因子陽性|RAでない)P(RAでない))
=0.8x0.005/(0.8x0.005+0.03x0.995)=1/8.5
つまり、RAである確率は1/8位。

しかし、外来でRAの症状が無くてRA因子陽性の人はこれよりもっと低い確率でしかRA
にならないと思います。それは、上の問題ではRAの症状や身体所見の情報が無いときの
問題ですが、実際にはRAの症状が無いことがわかっているので、RAの頻度はさらに
低いと思われます。

一般臨床でも、ベイズの定理を使える場面は多いのではないでしょうか。
例えば、ある症状や検査所見があった場合に、ある疾患の可能性を考えるときに
P(その疾患である|ある症状や検査所見)よりもP(ある症状や検査所見|その疾患である)
のみを問題とする事が多いようです。

臨床における医師の行動の基準として、雰囲気や感情よりも客観的な判断基準が求められる
ようになると上記のベイズの定理などの確率、統計的判断の重要性が増すと思います。

これまでの日本では、欧米の教科書の記述によって正しさを判断した傾向があると思います。
しかし、これからは我々自身で、判断をしなければなりません。
我々、臨床医は、特に日本ではこのような訓練を全くと言っていい程受けていない(おそらく
教えられる人がいなかった)と思います。むしろ論理的に考えるより、伝統的な医師の村社会
での雰囲気により決定する事の方がここちよいのではないでしょうか。

しかし、臨床医学は急激に変化しています。客観的判断の重要性を学ぶ時が来たのではないで
しょうか。
[2000年7月27日 11時53分1秒]

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