記事タイトル:間質性肺炎について思う事、UIPとNSIPを中心として 


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お名前: 鎌谷直之   
中島先生、ご苦労様です。
ちょっと良く読んでからコメントします。
[2001年3月16日 20時28分21秒]

お名前: 中島 洋   
間質性肺炎の臨床像(治療に対する反応性、経過、予後)を正確に把握することは極めて
重要です。外来で間質性肺炎の患者を診た場合、まず臨床経過、画像所見などから、
間質性肺炎の活動性の有無を推測することになります。その場合、一般に最も頻度の
多いのが、画像上、蜂窩肺の形成がみられる慢性型の間質性肺炎です。典型的な蜂窩肺
を形成する例は、ほとんど進行しないもの、または、緩徐な経過でゆっくり進行する
ものがありますが、完成された蜂窩肺は改善する見込みがなく、これらは一般に治療の
適応とはなりません。しかし、小さな蜂窩肺(micro honeycombing)が、亜急性に進行
する例や、蜂窩肺にスリガラス影などの出現がみられた場合などでは、治療の必要性
が考慮されます。また、間質性肺炎の画像所見は多彩で、蜂窩肺の他にも、牽引性の
気管支拡張所見、スリガラス影、網状影や索状影などがみられたり、また、これらの
所見が混在する例もあります。これらの例においても臨床経過、画像所見などから
間質性肺炎の進行が疑われれば、治療の必要性が考慮されますが、進行が疑われない
場合でも、このまま放置して良いのか否かの判断に苦慮する例は多くあります。
しかし、個々の例を治療するにあたり、ステロイドを投与すれば必ず改善するのか?、
または、免疫抑制剤を含めた強力な治療が必要なのか?、または、これらの治療に
よっても改善は得られず、治療は無意味であるのか?、などの疑問については何を
根拠に判断すればいいのでしょう。当センターでは、現在、臨床経過、画像所見に
加え、ガリウムシンチや気管支肺胞洗浄(BAL)などの結果を考慮し、治療の適応を
決めています。ガリウムシンチについては、一般に、取り込みが多ければ、
間質性肺炎の活動性ありと判断されますが、その評価には否定的な意見もあり、
また、治療に対する反応性に関しての知見は得られないのが現状です。
BALについては、一般に、リンパ球比率が多く、CD4/8比の低下がみられる例では
ステロイドの効果が期待できるとされており、実際に当センターでも同様の結果
を得ています。しかし、BALの結果で、すべての間質性肺炎の治療反応性を推測する
にはまだ検討課題も多く限界があります。つきるところ、現在、この問題を解決する
最も有力な根拠は、肺生検によって得られた病理組織所見と考えられています。
肺生検は、胸腔鏡下肺生検(VATS)の導入によって、全身麻酔は必要なものの
比較的低侵襲で施行されるようになり、かなりの症例数の蓄積による検討が
なされました。Katzensteinらは病理組織所見に基づき、特発性間質性肺炎
(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)を、usual interstitial pneumonia:UIP
、desquamative interstitial pneumonia:DIP、acute interstitial pneumonia:AIP
 (diffuse alveolar damage:DAD)、nonspecific interstitial pneumonia:NSIP、
bronchiolitis obliterans organizing pneumonia:BOOPの5つのカテゴリーに
整理しました。この分類は臨床経過や治療反応性、予後などと密接に関連してなされて
おり、現在この分類が世界的な標準となりつつあります(Katzenstein ALA, Myers JL 
: Idiopathic pulmonary fibrosis : Clinical relevance of pathologic
 classification.  Am J Respir Crit Care Med 1998; 157: 1301-1315)。
TBLBは、得られる組織が極めて少ないため、TBLB検体によるこれらの分類は不可能です。
一般に、治療反応性が良好なのはBOOP、NSIP、予後不良なのはAIP(DAD)、UIPで
ありますが、その妥当性は、Mayo Clinicでの検討で追認されています
(Bjoraker JA, Ryu JH, et al : Prognostic significance of histopathologic
 subsets in idiopathic pulmonary fibrosis.  Am J Respir Crit Care Med 1998; 
157: 199-203)。膠原病に伴う間質性肺炎についても基本的にはこの分類に当て
はめられ検討されていますが、IIPとは若干の異なる点が指摘されているものの、
その臨床経過や治療反応性、予後などはIIPとほぼ同様と考えられています。しかし、
まとまった検討はまだ十分になされていないのが現状です。
 個々の病理組織学的分類についてですが、基本となるところは、病変の分布状況、
細胞浸潤の状況、線維化の状況、既存構造の破壊状況からみた病期です。
鎌谷先生のリクエストに応えUIPおよびNSIPについて解説します。AIP(DAD)は先月の
内科症例検討会で説明しましたので省略します。BOOPは各自教科書を読んで下さい。
DIPは頻度が低いので省略します。
 さてUIPですが、前述の慢性型の間質性肺炎に相当します。画像上、蜂窩肺を呈し
ますが、病変は両側下肺野背側を中心に分布し、病理組織学的には、細胞浸潤は乏
しく、線維化は密で、既存構造の破壊は著明でありその時間的経過は不均一といった
特徴があります。これらの病変は、現在のところ不可逆性と考えられられており、
ステロイド、免疫抑制剤などの治療によっても改善は得られません。しかし、
画像所見のみでUIPと判断するには困難な場合もあります。一般にSScにみられる
間質性肺炎はUIPが大多数を占め、ステロイドなどの効果は乏しいと考えられて
いますが、なかには、小さな蜂窩肺(micro honeycombing)の集合体なのか
スリガラス影なのか画像上判断が困難な例で、亜急性に進行する場合が散見されます。
ステロイドなどが著功するのでは?と思われ、実際投与してみたところ、
結局改善は得られなかった例があれば、反対に改善が得られた例もあります。
改善の得られなかった場合、本例にステロイドは無意味で、患者には大変な負担を
かけてしまったと反省するのか、ステロイドの投与にて、とりあえず病勢が止まった
ようなので良しと判断するのか、解釈に疑問が残ります。UIPであれば、放置しても
自然に病勢は鎮静化する可能性もあると思われるからです。実際、IIPにおけるUIPに
おいては、ステロイド投与の有無に係わらず予後は変わらないという結果が出ています。
対して、改善例は後述するNSIPであったと考えられ、ステロイドの投与は正解であった
と思われます。このように、治療を考慮する例においては、やはり積極的にVATSを
施行し、病理組織学的分類に従い、本当にステロイドなどの効果が期待できるのか
検討する必要があると思います。膠原病肺におけるこのあたりの検討はまだ十分に
されておらず、今後、検討されるべき事柄です。
 次にNSIPは、UIP、AIP(DAD)、BOOP、DIPのいずれとも判断できない症例群に対する
病理組織学的概念です。よって、NSIPは一様なものではなく、一般に病変はUIP同様
の分布を呈する場合が多いものの、細胞浸潤および線維化の状況には差があり、
以下の3群に分類されています。
I群:細胞性間質性肺炎と表現される病変で、間質の炎症性病変が主体で、
線維化病変の程度は低い。
II群:リンパ球、形質細胞の間質浸潤に加えて、肺胞構造の消失を伴う線維化病変が
混在する。
III群:病期の揃った線維化病変が、びまん性あるいは斑状に認められ、
蜂窩肺の認められることもある。
つまり、I群は炎症細胞浸潤が主体で、III群はUIPに近い病態で、I群、II群、III群
の順にステロイドなどの治療反応性が良好とされています。
このようにNSIPは病理組織学的に幅広いスペクトラムを持つため、画像所見も多彩です。
一般には、牽引性の気管支拡張所見、スリガラス影、網状影や索状影などが混在する
例で、蜂窩肺がみられず(あっても軽度)、また、BOOPのような限局する浸潤影がなく、
また、AIP(DAD)のような急速に出現する広範なスリガラス影でない場合は、
NSIPを疑います。
近年、PM/DMに合併した急性型の間質性肺炎にcyclosporinが有効であったとする報告
が散見されていますが、有効例の病理像を明確にし報告されている例は少なく、
生検症例において有効と報告されているものはNSIPのみです。
AIP(DAD)症例において、cyclosporinが有効であったとする報告はまだありません。
本当にAIP(DAD)症例において、cyclosporinが有効であるのか非常に興味がありますが、
これを証明するためには、治療前に生検を施行しなければいけません。
実際、このような急性型にVATSを施行するにはかなりの覚悟が必要で、VATS後、
治療にもかかわらず患者が死亡した場合、AIP(DAD)が証明されればムンテラ上問題
ないと思われますが、なかにはVATSによって死亡した可能性を指摘されるかもしれま
せん。しかし、cyclosporinの有効性が過大評価されている感があり、
この問題も誰かが解決しなければならない点です。
思い付くままに記載しましたが、膠原病肺にはその他にも検討すべき点が多くあります。
重ねて強調しますが、間質性肺炎の臨床像を正確に把握するためには生検による
病理組織学的検討が必要な場合が多く、当センターでも積極的に施行する必要があると
考えます。
MTXを含めた薬剤性肺炎については、近日中に記載します。
[2001年3月12日 21時51分35秒]

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