痛風ガイドラインの反響が大きく、私の所属するメーリングリストでは以下のような質問、議論
がなされています。多くの方がいろいろ言っておりますが、その中の、2名分を紹介します。お
二人とも別に痛風の専門家ではない普通の臨床医です。それなのに良く考え,調べておられ,感
心させられます。我々は専門医として,負けないように努力しなければなりません。転載の了解
を得ましたので、匿名としてですが記載します。
尚、可能なら,山中先生など専門家の回答(か解答)を知りたいそうですので,よろしくお願い
致します。
(X先生)
日本痛風・核酸代謝学会から高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインがだされました。
エビデンスに基づいて作成、ということですが、高血圧や高脂血症と違って、
高尿酸血症では痛風や尿路結石の再発予防、腎不全への進行阻止などを
エンドポイントにした大規模な介入試験はほとんどなく、
治療ガイドラインを作り上げるのは大変な苦労だったと思います。
全体としては現時点での日本の専門家のコンセンサスをまとめたもの、
といったところです。
この中に6・7・8のルールというのがあって、
血清尿酸の正常値は7mg/dl以下、8mg/dl以上で薬物療法を考慮、
治療目標は6 mg/dl以下とされています。
高尿酸血症の治療方針のアルゴリズムによると無症候性でも
腎障害、尿路結石、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患、耐糖能異常
などの合併症があれば薬物療法です。合併症がなくても9mg/dl以上は
やはり薬物療法。
UpToDateの無症候性高尿酸血症を見ると、男性は13mg/dl、
女性は10mg/dlで薬剤投与となっていて大きな開きがあります。
ガイドラインの本文には、8mg/dl以上が「一応の目安」とか
「治療開始を考慮」などと書いてあるのですが、この図だけ見せられると
かなりの方が薬物治療の対象になるという、薬屋さんには都合が良さそうな図です。
降圧剤に関する記述も気になりました。
降圧剤が血清尿酸値に及ぼす影響をまとめた表があり、ロサルタンだけでなく
ACE阻害薬やCa拮抗薬まで尿酸を下げることになっています。ロサルタン以外の
ARBは血清尿酸値不変。
そして本文には「日本高血圧学会ガイドラインにも示されているように
高血圧に合併する高尿酸血症・痛風に対してはアンジオテンシン変換酵素阻害薬、
カルシウム拮抗薬、α1遮断薬、・・・(一部略)・・・ロサルタンカリウム
という降圧薬を用いて血圧をコントロールする。」と書いてあります。
自分で読んだ限り、日本高血圧学会のガイドラインでロサルタン以外は
こんなにはっきり推奨されていないなずなのですが。
(以下Y先生)
X先生のご指摘の通り、私も日本の痛風ガイドラインは少し外国のテキストに出て
いる数字より低めのところで内服開始になるという印象を持っていました。
ガイドラインの案内を持って来られたMRさんに、その辺のところ(諸外国との違い)
を尋ねたら、「調べておきます」と言ったきり以後お見えになりません。(^^;)
米国のガイドラインのホームページや英国のガイドラインのホームページを見てみて
も痛風/高尿酸血症のガイドラインを作っている国はなさそうですので、果たして我
が国の尿酸値8とか9とかいう数字に科学的根拠(いわゆるevidence)があるのかど
うか疑問です。米国のテキストを読む限り、痛風発作や痛風結節が起きてから薬物使
用すればコントロールできる、つまり痛風発作(または結節)さえ起きなければ無理
に早めに薬を使う必要はないというニュアンスさえ感じます。
とは言え、他に目安になるものもなく、日本のガイドラインを患者さんにお見せして
ご説明しながら果たしてこれでいいのかどうかと自問しながらの毎日です。(一応は
日本のガイドラインに従って診療はしていますが・・・・)
*e Medicineという米国の電子教科書の記載:「無症候性高尿酸血症:無症候性高尿
酸血症の多くは痛風や結石を生じない。無症候性高尿酸血症の治療にはある程度のリ
スクも伴い、また利益があるとは考えられず、またコスト・エフェクティヴでもない
ので、一般には勧められない。唯一の例外は癌の治療に於いて、患者がcytolyticな
治療を受ける場合で、急性尿酸腎症(acute uric acid nephropathy)を防ぐ予防的
な治療である。」
*Merck Manualでは「非痛風性の無症候性高尿酸血症の特別な治療に関してはデ−タ
が殆どない。40歳未満で尿酸値9mg/dl以上、24時間尿の尿酸塩排泄量が正常な
らプロベネシドなどの内服はprudent(用心深い?分別のある)に見える。尿酸塩の
過剰排泄のある患者は尿路結石のリスクが高いのでアロプロノロールを服用しなけれ
ばならない。」・・・と持って回った言い方をしています。
[2002年9月9日 9時31分52秒]