記事タイトル:第2回腎不全病態治療研究会ー報告 


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お名前: 梶山   
 まず、Thy-1抗原について。もともとはマウスの胸腺細胞表面抗原として発見され、
Thy-1.1とThy-1.2の二つのアロ抗原が存在する。この抗原は、ラットではThy-1.1のみ
である。Thy-1を発現しているメサンギウム細胞はラットにのみ認め、マウス、ヒト
のメサンギウム細胞には認めていない。免疫グロブリンス−パ−ファミリーに属する。
 Thy-1.1抗体を静脈注射して、抗体の大部分がメサンギウム細胞に結合できるのは
ラットの末梢T細胞にはThy-1抗原がほとんど無いことや胸腺への血液循環は乏しいことに
よる。
 このモデルの発症機序は、はじめのメサンギウム細胞障害とそれに続くメサンギウム
細胞増殖性病変の二つにわけて検討されている。

1)メサンギウム細胞増殖性病変-補体特にmembrane atack complexなどのlate componentが
重要らしいことが以下の観察から示唆されている。
a)糸球体に補体C3,C5,C9等が沈着している。
b)cobra venom factorで低補体にしたラットではメサンギウム細胞障害は起きない。
c)補体結合能のない抗ラットThy-1.1モノクロナール抗体ではメサンギウム細胞障害は
起きない。
d)白血球減少ラットでもこの病変は起こる。

2)メサンギウム細胞増殖性病変-補体が関与していることは、低補体ラットでこの病変が
抑制されることで示されている。しかし、メサンギウム細胞障害では補体が直接細胞を障
害するのに対し、メサンギウム細胞増殖病変では補体は白血球系細胞が糸球体に集積する
のに関与し、集まった白血球系細胞がメサンギウム細胞の増殖促進因子を出したり、何ら
かの刺激でメサンギウム細胞自身が自己増殖因子を産生してメサンギウム細胞が増殖する
と推定されている。メサンギウム細胞の増殖に続いて、メサンギウム基質も亢進すること
が報告されている。

以上、だいぶ古いのですが、1991年 腎と透析 腎疾患作成モデル p343-344からです。
[2001年12月20日 12時5分58秒]

お名前: 岡本 完   
梶山先生、ありがとうございます。
anti-thy-1はメサンギウム細胞を障害するのですか、それともメサンギウム細胞にシグ
ナルを入れる事で増殖させるのですか?Thy-1はT cell系に細胞に発現しているものとは
違うのですか?教えて下さい。
[2001年12月18日 21時51分26秒]

お名前: 梶山   
anti-Thy1(moAb)はcommersial baseで手にはいります。
群大時代の先輩は、ラットメサンギウム
細胞をrabbitにうってpolyclonal anti-mesangiumum Ab
を作ってRatに投与し、anti-Thy1 modelに近いモデルを作
っていました。基本的にはメサンギウム増殖性腎炎のモデル
と思います。
[2001年12月18日 20時27分8秒]

お名前: 梶山 浩   
すいません。形質転換と分化という言葉を混同していました。
おそらく、骨髄由来細胞は未分化な
totipotent cellとおもわれ"分化"したという表現が
適切でしょうか。ただ、まだ、この細胞のcharacterは
わからないのだそうです。

Thy-1 はメサンギウム細胞のマーカーであり、腎組織の
IHCを行う時にも、メサンギウム細胞を同定するのに使います。
従ってその抗体を打つことで、メサンギウム細胞障害を起こしたり、
メサンギウム細胞増殖を促したりりして腎炎が進展してして行く
ものです。spontaneousに腎炎が回復するかどうかは、抗体の
titerにも関連していて、high titerなanti-Thy1を打ったり、
anti-Thy1を2度うちしたりすると、もはやirreversibleとなり、
腎硬化モデルとなってしまう訳です。
[2001年12月18日 20時21分16秒]

お名前: 岡本 完   
詳細な報告をありがとうございます。
阪大の今井先生のデータの件ですが、骨髄由来細胞が形質転換ではなくメサンギウム細
胞などに分化したのではないですか?いずれにしても美しい実験ですね。
ところで、Thy-1腎炎とはどういうモデルでどうして腎炎が起こるのですか?教えて下さ
い。
[2001年12月16日 18時1分11秒]

お名前: 梶山 浩   
第2回 腎不全病態治療研究会

12/8 土曜日 外来終了後、午後より出席し、一般演題と、指定口演2を聞きました。朝9時か
ら、夕方6時まで、ランチョンセミナーを挟んで一般演題33題、指定口演2題の充実したもの
で、腎臓学会総会より質疑応答が活発で,内容も濃かった印象です。
僕が聞いた中で印象に残った発表は、

No20.腎不全におけるカルボニル消去系に関する検討―AGEの1つmethylglyoxalの消去系に関
する検討。methylglyoxal代謝酵素の高発現細胞やtransgenic mouseに関するdata。カルボ
ニルストレスの軽減化に期待ができるとの事。現在、knockout mouses作成中。

No.21透析患者血清蛋白の質量分析装置を用いた解析―トランスサイレチンの酸化型が透析患者
や糖尿病患者のoxidative stressを評価する有用なマーカーとなりうる。

No.22 (透析患者の内シャントの)クロットに対する鉄クロロフィリンの効果(ササヘルス)
鉄クロロフィリンは血管内皮障害には効果を示さないが、赤血球変形能の増加や活性酸素発生の
低下、SOD活性亢進等の作用から、シャントトラブルに減少傾向を示した。

No.25動脈硬化とHDF療法―約4年間の観察期間に対して平均2.6年のHDF療法ではIMTを指標
とした動脈硬化進展硬化は認められなかった。

No27 高濃度活性化ビタミンDはin vivoで副甲状腺細胞のapoptosisを誘導する。

No30 PAI-1はfibroblastでの1型,3型コラーゲン産生を亢進させる。PAI-1阻害薬はこれを
阻害する。−女子医大第2病院内科からの演題

No33 ハイブリッド人工尿細管形成に関する基礎的検討―代謝に重点をおいた海外のグループに
比べ,演者たちのグループは再吸収機能に焦点を絞った検討。患者血漿を血液から分離して,ブ
タ近位尿細管細胞を透析膜に使われる中空糸の内側に接着増殖させ,そこへ患者血漿を通し,中
空糸外側に移動した再吸収した水分、電解質などを患者血液に戻し、再吸収されなかった水分,
老廃物はすてるというもの。まだまだ開発途上で,中空糸に接着させる細胞や素材に検討が必要
な段階。

やはり印象に一番残ったのは、阪大の今井先生の“腎再生医療へのアプローチ”であった。この
口演は,腎修復に焦点を当て、メサンギウム細胞の増殖やmesangiolysisなどの糸球体障害が1
週間ほどでピークに達し、spontaneousに2週間ほどで、この糸球体障害が回復するRat Thy-1
腎炎モデルを用い、糸球体修復機転を解析したstudyの内容であった。
 まず、全身の細胞が緑色蛍光を発するGFP-transgenic mouseの骨髄を、ふつうのラットに骨
髄移植する。この移植されたラットにThy-1腎炎をおこし、腎組織に緑色細胞が入り込むかどう
か確認した。驚くべきことに、腎炎を起こす前から,腎臓の間質、尿細管基底膜の外側に緑色細
胞は存在していた。腎炎初期には緑色細胞のclusteringが糸球体血管極で起こり,極期には糸
球体内へ入り込みメサンギウム領域へ定着。メサンギウム細胞は赤色に発色させており,骨髄由
来細胞との区別がつくようになっている。腎炎回復期には骨髄由来細胞は黄色になり、メサンギ
ウム細胞へと形質転換をしようとしていた。
 ラット骨髄細胞を、in vitroで、collagen1,4やレチノイン酸、PDGF-BBを作用させると,メ
サンギウム細胞へ形質転換する事を確認した。PDGFtransgenic mouseでも骨髄細胞の一部はメ
サンギウム細胞になっていることも明らかとなった。したがって,糸球体障害の修復機転で,骨
髄由来細胞がメサンギウム細胞へ形質転換し置き換わることが考えられた。この骨髄由来細胞は
CD68陽性でもなく、今のところどのような細胞かはわかっていないようだ。このほかにも成体
ratの腎に新たな未分化細胞が見つかり,この細胞は筋肉やその他の細胞にもなりうる多分化能
を持つ細胞で、現在検討中,との事。
 その他のさまざまな臓器障害のときにも,骨髄由来の多分化能細胞が病変部にやってきて、形
質転換をして,その臓器の障害を回復させるために、臓器の構成細胞に分化して、定住するのだ
ろうか。また、lupus 腎炎などでも同様なことが起こるのか。Lupusで、このような修復機転が
障害されているとすると,骨髄移植は理想的な治療法なのかもしれない、などと想像を膨らまし
てしまいました。 

長文で失礼いたしました。抄録集は私が持っていますので,何かご興味を持たれた方は梶山まで
ご連絡ください。
[2001年12月9日 23時7分15秒]

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