私の方からも若干の報告をさせていただきます。
国際人類遺伝学会はヨーロッパの人類遺伝学会が5年に1回開いている学会で、
参加者はどちらかといえば欧州の方が中心だったと感じました。次回も5年後に
ヨーロッパで開催されます。その意味では米国の研究者が果たして全員こられて
いたかが少々疑問なのですが‥、それでも欧州の人類遺伝関係の方々はほとんど
参加されていたのでしょう。
欧州は人類遺伝学は伝統的に行われていたからでしょうか、SNPsが世の中を席巻
している今でも家族のサンプルを使った研究も数多く発表されていました。また、
初日のセミナー等で話された先生ら(Rish,HJ、あるいは、Roses,AD)もSNPsの
ようなマーカーを用いた連鎖不平衡解析ベースの研究(遺伝子マーカーを用いた
ケースコントロール研究)での集団の構造化の問題、超多重比較による擬陽性の
発生の問題を非常に深刻に指摘しておられ、それらの問題の解決策の1つとして、
家族をうまく利用した解析法(TDT, s-TDT)や連鎖解析の結果の併用をあげて
おられました。
また実際の発表でも、連鎖解析からTDT、パプロタイプ相関解析へと駒を進めて
いく流れにのった研究が報告されていたのが印象的でした。現地の学会会場で
鎌谷先生が「連鎖解析の結果からは擬陽性がほとんどでない」とおっしゃられた
言葉も非常に私の頭に残っていまして、連鎖解析を行ってで陽性領域のある部分
からスタートしていれば、その領域内にかならず答えは存在する、‥そこを相関
解析で絞り込んでいく‥というスカを掴まないような明確な戦略が見られるよう
な気がしました。
ここで日本の現状を省みますと、SNPs解析は日本でも花盛りですが、これまでの
人類遺伝学で行われてきたような連鎖解析的なアプローチを一気に飛び越して‥
直接に遺伝的相関解析でどうにかしてやろう‥と全体的に思っているのかな‥と
危惧してしまいます。しかしSNPsによる相関解析には集団の構造化の問題もあり
ますし‥多重比較の問題があります。どちらも擬陽性という「スカ」をつかまさ
れる危険をはらんでいます。そういった問題をうまく解決して効率よく「本物」
を見つける為にこれからも家系というものを積極利用していこう‥というのも
ひとつの作戦であるよな‥と感じた次第です。
急がば回れ‥ともいいます。
どの方法がよかったのかは‥そのうちに結果が出るだろうと思います。
[2001年5月23日 15時36分41秒]
NAT2, CYP1A2が膀胱癌と関係しているという発表があった。
MTHFRがLOHN、虚血性心疾患などに関係しているという論文があった。同じ遺伝子の多型が
spina bifidaに関係しているという論文があった。ところで、知らなかったがMTHFRの完全欠
損のホモ接合体はホモシスチン尿症なんですね。そういえばホモシスチン尿症で動脈硬化が多い
というのは聞いたことがある。
Osteoprotegerinの遺伝子の多型がosteoporosisに関係してるという論文があった。
COL1Aがosteogenesis imperfectaに、Ehlers-Danlos syndromeに関係し、COL1A5がAlport
腎症に関係する。
ビタミンD受容体の多型が血液透析の予後に関係しているという説があった。
IL-3, GMCSFなどたくさんのサイトカインの遺伝子のクラスターのある場所があるらしい。
連鎖不平衡は孤立集団(isolated population)と混合集団(outbred population)の間で違
うという説があるが、200kb以内では違いははっきりしない。しかし200kb以上ではinbred
population (Finnsなど)の方が連鎖不平衡は強い。
連鎖不平衡上の組み換えをhistorical recombinationと言っていた(Lander E)。
大規模な連鎖不平衡を調べた結果、アフリカ系アメリカ人で最も短く、ヨーロッパ系アメリカ人
で最も長かった。私の予測どおり。D'もアレル頻度に影響されるのでサンプル中に5つ以上見ら
れる場合のみ計算を行った(P842)。
SLEにmicrochimerismに関係しているという説があった。
遺伝子の座位や座位間の正確な距離はmarshfieldclinicのサイトのものが一番良いらしい。
組み換え割合はテロメアがわの方が高いらしい。
STRPについて400kbでも連鎖不平衡があるという発表があった。
dinucleotide-dinucleotide, dinucleotide-trinucleotideのペアでは連鎖不平衡があるが
di-tetraのペアでは弱いらしい。
組み換え割合の分布は0-10 cM/megabase
ベルリンのPelz Jという人は次のような発表をしていた。遺伝子検査に基づいて診療を行うと
なると感受性(sensitivity)、特異性(specificity)、陽性的中率(positive
predictable value)などの確率を説明しなければならないが、これらの確率の概念は患者はも
とより、医師にさえ理解がむずかしい。Gigerenzer他は人間は人の進化の中で確率を理解する
アルゴリズムは進化していないという。確率を自然頻度(natural frequency)にかえて教える
と理解がよくできることがわかったという。
E. Lander他は次のような方法を紹介していた。
連鎖不平衡を記載するため5つの連続したSNPについてハプロタイプ解析を行い、結果から
heterozygosityを計算する。続いて、5つのSNPの窓を一つずらして同様に行う。そうするとハ
プロタイプが歴史的に組み換わっている部分(historical recombination)が入らないと低い
heterozygosityの値となる。それらの組み換えが入らない最長の部分を一つのハプロタイプの
窓枠として記載する。
癌の遺伝子についてはBRCA (breast cancer)1,2が話題になっていた。確かにこのような遺伝
子がわかってくると健康診断に当然取り入れられる。結果を同説明するか考えて置かねばならな
い。
[2001年5月22日 19時15分33秒]