先生方の訳を原文の順番でまとめました。ほぼ完成版といえると思います。(なお、私が気づい
た明らかな誤字、脱字などは改変しました)。
関節リウマチの治療ガイドライン 2002年改訂版
アメリカリウマチ学会・関節リウマチガイドライン小委員会
はじめに
関節リウマチ(RA)は原因不明の自己免疫疾患で、対称性、びらん性の滑膜炎を特徴とし、関節
外病変を生じることもある(1)。ほとんどの患者は慢性的で変動しやすい経過をたどり、治療
にもかかわらず進行性の関節破壊、変形、日常生活の困難をきたし、早死にすることもある
(2)。RAの結果として年間にのべ900万回以上の医療施設受診と25万回以上の入院を生じてい
る(米国において)(3,4)。RAによる日常生活の困難は多大な経済的損失をもたらし、家族
に深刻な打撃を与える原因となる。
RAは成人の1%を冒す。このように頻度が低いので、一般の医師は診断や治療に対してほとんど
経験をもたないことがおおい。このRA治療ガイドラインは正確な診断がなされた場合を想定して
作られている。RAの診断は初期には困難なことがある(5,6)が、診断に至る複雑な過程につ
いてはごのガイドラインの範囲外である。
RA治療ガイドラインと薬物治療のモニタリングは1996年にはじめて作成された(7,8)。そ
の後の経過において、RAの薬物治療に大きな進歩があった。今や、早期治療が有利であることや
治療手段が予後を変えうることにエビデンスがある。新しいクラスの薬剤も導入された。可能な
かぎりこの改定ガイドラインはevidence-basedである。しかし、我々の知識にはまだ大きなギ
ャップがあり、いくつかの勧告はbest practiceや委員会のコンセンサスに基づき作成された。
これらのガイドラインはリウマチ医、リウマチ学を実践する一般医、OT, PT,Social worker,
患者教育者によって検討された。
RA治療のゴール
RA治療の究極のゴールは関節破壊を予防、コントロールし、機能障害を予防し、痛みを緩和す
ることである。図1にRA治療に対するアプローチをまとめた。RA治療の第一段階は、診断を確立
し、初診時の評価を行い(表1)、予後を判定することである。これらの初期計画に自信のない
一般医はリウマチ医に評価を求めることを強く推奨する。
治療の開始は患者教育であり、疾患について、関節破壊や機能障害の危険性を教え、治療手段
の恩恵と危険性も伝える。患者をOT, PT,Social worker,患者教育者などに受診させることは
意義がある。症状をコントロールするためにNSAID、ステロイド薬関節内注入、低用量プレドニ
ン等の投与を考慮する。新たにRAと診断された患者の大半は、診断後3か月以内にDMARDを開始
するべきである。RAによく処方されるDMARDは表2に掲載した。DMARDは疾患を治癒させるもので
なくコントロールするものであるから、RA治療は双方向性に行うべき性格のものであり、疾患活
動性や進行、治療手段の副作用などについて定期的に評価しなければならない。何度も増悪した
り、疾患活動性が極めて強い場合(例えば、最大の治療を3か月行っても進行性)や関節破壊が
進行する場合には、現在のDMARD投与法を大幅に変更することを考慮する。疾患活動性が1ない
し少数の関節に限局している場合には、ステロイドの局所注入が有用である。著しい症状がある
場合には、ステロイド薬の全身投与を始める必要や、あるいは投与量を一時的に増量する必要が
ある。
活動性関節炎は身体的機能を低下させるが、身体的活動により更に低下する場合もある。した
がってPT, OTなどに発症後早期のうちに受診させるべきである。休暇を取ったり仕事内容を変
更したり仕事を離れる時間をとったり職業を変えたり、あるいは就労を辞めることも必要になっ
てくる。最終的な関節破壊に至り、解剖学的に著しく変形を来したために痛みが耐えられないと
か機能制限が強い患者では関節機能再検の手術を考慮すべきである。機能再検術はRAのいかなる
病気においても考慮されるべきである。
一部の患者では、DMARDを単剤や併用によりいろいろ試してみても治療に抵抗し、進行性の経
過を辿る。RA治療の究極のゴールは完全寛解への導入であるが、完全寛解に至る患者は必ずしも
多くはない。完全寛解は、1)活動性の炎症性関節痛の症状(関節変形による機械的疼痛は含ま
ない)、2)朝のこわばり、3)疲労感、4)診察による滑膜炎の存在、5)連続したX線写真
で関節破壊の進行、6)ESRやCRP上昇、のいずれもない状態と定義されている(9)。
もし、完全寛解が得られなかった場合は、治療のゴールは疾患活動性をコントロールし、疼痛を
緩和し、日常生活や仕事上の機能を維持し、QOLを最大限に保つことになる。これらのゴールを
達成する挑戦は、NSAIS, DMARD, 低用量プレドニン、ステロイド局所注入、リハビリ、麻酔な
どの治療手段の最も有効な組み合わせを選ぶというリウマチ医の技術にかかっている。適切な疼
痛除去はRAのような慢性疾患における大切なゴールの一つであるが、麻酔の依存症にならないよ
うに最大限の注意を払うべきである。
慢性的で増悪軽快を繰り返すRAの経過を考えれば、長期的な治療計画の作成が必要であり、患
者のその作成に関与すべきである。議論すべき点は、疾患予後、治療手段、経費、副作用、反応
するまでの時間、患者の危険度、合併病態、薬剤投与時のモニタリング、そして患者の好み(意
向)である。治療への期待や推奨される治療を行ううえで可能性がある障壁についても話し合う
べきである。疾患に対する信頼(?)や自己の有効性を認知することが患者の予後や治療への忠
実さに影響することが知られている(10-12)。教育やArthritis Self management Program
のような認知行動介入が健康状態を改善し、医療費削減につながる(13-17)。
RAの初期評価
RA患者の初期評価は、疾患活動性の症状(関節痛の存在、朝のこわばり持続時間、疲労の程
度)、機能状態、疾患活動性の他覚的所見(疼痛関節数、腫脹関節数で評価した滑膜炎、ESRか
CRPレベル)、関節の機械的な問題点(可動域制限、れきさ音、不安定性、軸偏移、変形)、関
節外症状の存在、X線的破壊の存在などについて記載することである(表1)。合併病態も評価
する。VASを用いた定量的な患者の全身評価、医師の全身評価、疼痛評価などの機能やQOLに関
する確立した評価法は疾患経過の有効な指標である(18,19)。このような初診時の情報は疾
患の進行や治療への反応性の評価に大いに役立つ。
初診時の検査評価(表1)では、血算(白血球分画や血小板数を含む)、リウマトイド因子、
ESRかCRPを調べる。多くの抗リウマチ薬は腎臓、肝臓に毒性を示すことがあり、腎障害、肝障
害があると投与できないことがあるので、腎臓、肝臓機能の検査は必要である。手足の関節はRA
で冒されることが極めて多いので他の症状のある関節とともに初診時にもX線を取っておくとそ
の後の進行の評価に役立つ。構造的損傷を防止することは治療の一義的なゴールであるから主要
な罹患関節のX線写真は定期的に撮影するべきである。
治療手段の選択のためには予後の評価が必要である。若年で発症、RF高力価、ESR高値、腫
脹関節数>20では予後不良である(20,21)。リウマトイド結節、シェーグレン症候群、上強膜
炎、強膜炎、間質性肺疾患、心外膜炎、全身性血管炎、フェルティ症候群などの関節外症状も予
後不良を示唆する。活動性の多関節炎があるRF陽性のRAは発症後2年以内に関節破壊やびらん
を起こす確率が>70%という報告がある(21-26)。発症後早期のRAにおいてはDMARDが経過を
変える可能性があるとの報告があるから、このような好ましくない予後因子を持つ患者において
は診断がつきしだいすぐに積極的な治療を開始するべきである(25-27)。
表1。RA患者の疾患活動性と障害に関する初診時の評価項目
自覚症状
関節痛の程度
朝のこわばりの持続時間
疲労の持続時間
機能制限
理学的所見
活動性の炎症のある関節(疼痛関節数、腫脹関節数)
関節の機械的問題点:可動域制限、れきさ音、不安定性、軸偏移、変形
関節外症状
検査成績
ESR/CRP
リウマトイド因子*
血算**
電解質レベル**
クレアチニン**
肝酵素レベル(AST,ALT,アルブミン)**
検尿**
関節液検査***
便潜血**
その他
機能障害度または標準的質問票で評価したQOL
医師の疾患活動性に関する全体評価
患者の疾患活動性に関する全体評価
X線写真
選ばれた罹患関節のX線写真****
* 診断のために初診時のみ施行。最初が陰性の場合は発症後6-12か月後に再検しても良
い。
** 初診時、薬剤開始時、合併病態による臓器障害の評価時に施行する。
*** 初診時に他の疾患の鑑別のために必要であれば施行する。経過中でも増悪時に細菌性
関節炎の除外のために施行しても良い。
****疾患の進行や治療反応性をモニターするための基準に役立つ
RA活動性の評価 Assessment of disease acvitity
医師は、患者の通院ごとにRAが活動性か非活動性かを評価する(表3)。遷延する朝のこわば
り、疲労の持続時間、診察時の活動性滑膜炎などの炎症性関節病変(機械的な関節障害に対応す
る語として)による症状があれば、RAは活動性であり、治療プログラムの変更を考慮する必要が
ある。ときに、関節の診察所見だけでは疾患活動性や関節の構造的損傷を十分に反映しないこと
があり、赤沈・CRPの定期的な測定や関節機能評価ともに、罹患関節のレントゲン撮影も必要で
ある。関節の機能は、AIMS(Arthritis Impact Measurement Scales)やHAQ(Health
Assessment Questionnaire)のような質問表によって評価する。関節機能低下が進行するとき
は、それが炎症の結果なのか、関節の機械的損傷によるものか、あるいはその両者なのかを見分
けることが重要であり、その結果として治療の戦略がかわってくる。
ACRではRAの改善や臨床的寛解を定義する基準(criteria)を設けている。これらの基準は臨
床試験の結果評価に用いられるようになってきたが、日常の診療に幅広く使われるには至ってい
ない。ACR20とは腫脹関節数と疼痛関節数が20%改善し、かつ次の5項目;患者による全般評価
(patient's global assessment)、医師による全般評価、患者による痛みの程度、患者による
身体機能の評価(原文では、degree of disability)、急性期反応物質のレベル、のうち3つ
以上が20%改善した場合をいう。これと同じ基準で、50%、70%改善した場合をACR50、ACR70と
拡大して用いる。このほかにも、Paulus criteriaなどの基準も用いられる。さらに最近では、
レントゲン上の進行評価(Sharp scoreなど)も結果評価に使われている。
RAの非薬物治療 Nonpharmacologic treatment of RA
RAの最善の治療のためには薬物療法以外の治療も必要である。まず病気の始めの段階で、患者
自身はRAという病気とともに生きていかねばならないことを受け入れ、治療法を決める過程にも
関わっていく必要がある。もし治療がRAを完全に抑えきれない場合は、患者はこの持続し、再燃
し、同時に身体機能が失われていく病気と折り合いをつけるために、感情的にも肉体的にもがき
続けることになる。リウマチ医や他の内科医、同僚スタッフは、患者やその家族にRAについて教
育し、長期にわたって支えていくうえで重要な役割を担っている。リウマチ財団(アメリカの、
The Arthritis Foundation)も有用な教育的資料やプログラムを提供している。ナース、PT、
OT、ソーシャルワーカー、health educator(適訳なし)、心理療法士、整形外科医などのRA
に精通した広範囲な医療関係者(health professionalsの訳としては間違っているか)のチー
ム・アプローチもRAの総合的治療に必要である。
関節の保護法や体力の消耗の回避法、家庭で行える関節ROM運動やストレッチングプログラム
を教育することは、関節機能の維持というゴールを達成するために重要である。運動療法や作業
療法はADLが障害された患者には、有効なことが多い。体をダイナミックに動かす運動、場合に
よってはエアロビクスのようなプログラムに定期的に参加することにより、疲労感を増強したり
関節症状を悪化させることなく、関節可動性を改善し、筋肉を強化し、有酸素運動能力を改善
し、さらには心理的にも良い状態をえることができる。
表3 RAの疾患活動性の評価
診察時毎に、自他覚的に疾患活動性がないかを評価する
関節痛の程度(VASによる)
朝のこわばり持続時間
疲労の持続時間
活動性炎症関節の有無(圧痛、および腫脹関節数)
身体機能制限
定期的に疾患活動性、疾患の進行度を評価する
診察上、疾患の進行の所見はないか(可動性の低下、不安定性、関節の不正
(malalignment)、変形)
赤沈 or CRP
罹患関節のレントゲン上の進行
その他の治療反応性評価指標
医師による疾患活動性の全般的評価
患者による疾患活動性の全般的評価
質問表を用いた身体機能やQOL評価
薬物療法
RAの薬物治療はNSAID, DMARD,steroidからなる。使い方などは表2,4,5および96年のガイド
ラインを参照。
1.NSAIDs
関節痛、関節腫脹、関節機能の改善のために行われる最初の薬物治療にはサリチル酸、
NSAIDs,COX-2 阻害薬が用いられる。しかし、これらは鎮痛作用や抗炎症効果はあるもののRAの
経過や関節破壊を妨げるまでの力はない。したがって単独で用いるべきではない。
1)COX-2阻害薬について
サリチル酸やNSAIDsはCOX-1やCOX-2の一つあるいは両方を抑制する。COX-1は血小板、胃腸
粘膜細胞、血管内皮細胞といった多くの細胞で構成的に産生されている。COX-2は特に炎症部位
の細胞で産生され、産生量は何倍にも増加しうる。選択的COX-2阻害薬は通常のNSAIDsよりも有
意に胃腸障害が少ないが、通常のNSAIDsよりもさらに効果が高いというわけではなく、高価で
ある(15-20倍高い)。
2)NSAIDsの副作用(特に胃腸)
RA患者のNSAIDsによる重篤な副作用はOAの2倍である。NSAIDsによる胃十二指腸潰瘍の危険
因子は年齢(75歳以上)、潰瘍の既往、ステロイド併用、抗凝固薬併用、高用量のNSAIDs、
NSAIDs多剤併用、重篤な基礎疾患があること、である。重篤なGI副作用を来すリスクが高いと
考えられるRA患者に対する対策として、NSAIDsのかわりに少量のステロイド薬、non-
acetylated salicylate(ドロビッドなど)、COX-2阻害の選択性が高い薬物、NSAIDと胃保護
剤(高用量のH2 blocker ,プロトンポンプ阻害薬、経口PGアナログ)の併用、が考えられる。
H2 blockerはdyspepsiaには有効であるが、NSAIDs単独投与例に比べNSAIDsと低用量H2
blocker併用例の方がGI合併症の頻度が高かったという報告が一つあるので、dyspepsia防止、
あるいはNSAID胃障害の防止目的でH2 blockerをルーチンに使うことは勧められない。
3)COX-2阻害薬の副作用や使用上の注意
通常のNSAIDsよりも高選択性COX-2阻害薬の方がGI eventsが有意に少ないことは最近の2つ
の大規模調査で示された。しかし注意点がいくつかある。抗血小板療法が適応になる場合、低用
量アスピリンが必要である。通常のNSAIDにくらべて高選択性COX-2阻害薬は血小板の粘着や凝
集に影響を及ぼさないから。低用量アスピリン併用投与すると高選択性COX-2阻害薬のGI副作用
減少効果が部分的に低下するかもしれない(訳注:原文ではameliorateとなっていますが、引
用文献を参考にするとdeteriorateの間違いではないかと思うのです。)。高選択性COX-2阻害
薬は通常のNSAIDsと比較すると、血栓の発生(たとえば心筋梗塞の発症など)が多いと報告さ
れている。通常のNSAIDsとCOX-2阻害薬の併用は血管内volumeが減少しているときや浮腫のあ
るとき(うっ血性心不全、ネフローゼ、肝硬変、血清クレアチニン2.5mg/dl以上など)には避
けるべきである。
2.DMARDs
1)DMARDsの意義、開始時期、種類
すべてのRA患者にDMARDsが使われるべきである。DMARDsはNSAIDsやステロイドと異なり、関
節の障害を減らすあるいは妨げる作用が期待でき、したがって、ヘルスケアのコストを減らし、
患者の経済的な生産性も維持できる可能性がある。診断が確定しており、NSAIDを使っても関節
症状・所見の悪化、ESRあるいはCRPの上昇、XPによる関節の変化が進行する患者については3ヶ
月以内にDMARDsを開始すべきである*。未治療で滑膜炎が持続し、関節障害を持つ患者にはさ
らなる関節障害を防ぐ、あるいは遅らせるためにDMARDsを使うべきである。
RAによく使われるDMARDs(表2)はヒドロキシクロロキンHCQ、SSZ、MTX、レフルノミド、
エタネルセプト、インフリキシマブである。使用頻度の少ないものは、D-Pen、gold salts、
minomycin、シクロスポリン。DMARDsの有効性を示す報告は多く、一部を表4に示す。しかし、
DMARD同士を比較した報告は少ない。*訳注:要するに、RAと診断されて、NSAIDsを使っても進
行する場合は3ヶ月以内にDMARDsを始めよ、ということだと思います。NSAIDsがRAの経過を変
えるものではないわけですから、実質的には診断確定後3ヶ月以内にDMARDsを始める、という
ことになるのではないか、と思われます。しかし、NSAIDsを使って、活動性がそれほど高くな
い症例に対しては急いでDMARDsを使うことはない、とも読み取れます。
2)DMARDsの選択(総論)
DMARDsの選択には多くの因子が関与する(表2,4,5)。患者と医師は、有効性、投与の便利
さ、どの程度のモニターが必要か、コスト(投薬とモニター、受診・検査回数も含めて)、効果
発現までの時間、重篤な副作用の頻度の起こる可能性に基づいて、最初のDMARDsを選ばねばな
らない。医師は、患者要因(コンプライアンス、合併症、疾患の重症度と予後)や投与する薬に
対して医師がどれだけ自信があるか、について評価すべきである。薬の毒性については表5を参
照。妊娠可能年齢の女性については多くのDMARDsについて避妊が要求されている(96年のガイド
ライン参照)。
3)DMARDの選択(各論)
安全性や便利性、コストを考慮して、多くの場合、HCQあるいはSSZが選択される。しかし、
病勢の強い患者や予後不良因子をもつ(訳注:原文では因子=indicatorsなので予後不良因子を
少なくとも複数持つ、ということになりましょう)患者に対してはMTXや併用療法が好まれる。
寛解が得られない・最初のDMARD(s)の反応が不十分であり、さらにリウマチ医に一度も診察を
受けていない患者は、リウマチ医のコンサルテーションをすべきである。(このような場合)
MTXが一度も使われていなかったら、MTXを使うべきである。MTXが禁忌の患者、あるいは
MTX25mg/weekで効果不十分な場合は生物製剤あるいはほかのDMARDs(いずれも単独あるいは併
用)が適応になる。
4)HCQとSSZについて
HCQとSSZは初期で病勢の緩やかなRAには症状の改善効果がある。HCQ単独ではX線所見を遅ら
せる効果はないが、HCQによる初期治療は長期のoutcomeに有意に影響する。HCQで皮疹、急激な
腹痛、下痢がまれに起きるが、概して問題なく使え(well tolerated)、ルーチンの検査も必
要ない。しかし、定期的に眼科医を受診させ、網膜毒性が可逆性のうちに早期発見に努めねばな
らない。網膜毒性のリスクは6mg/kg以上で増加する。有効性が発揮されるのは1-6ヶ月である。
SSZはHCQよりもより作用発現は早いであろう。しばしば、1ヶ月で効果発現が見られる。重要
なのはSSZはX線上RA進行防止効果が示されていることである。SSZは最初の2-3ヶ月に多くの副
作用(吐気、腹部の不快感など)が起こるが、たいてい問題なく使える。これらの副作用の頻度
はgo low, go slowという使い方で減少できる。白血球減少が時たま(occasional)起こる
し、より重篤な副作用がいつでも起こりうるので、定期的なモニターが必要である。臨床効果は
4ヶ月以内に明らかになるので、この時点で(効果がなければ)治療の変更を考慮する。
5)MTX
多くのリウマチ医が、特に病勢の強いRAに対して、MTXを最初に用いる。効果、毒性、コスト
などの点から、MTXは新しいDMARDsが評価されるときのスタンダードになっている。ランダム化
試験や長期試験でMTXのX線所見改善効果が示されている。
MTXを投与された患者中50%を超える例で3年以上MTXを継続しており、これはDMARDsのな
かでもっとも長い。MTX は「効果不足」よりも「副作用」で中止されることが多い。口内炎、
吐気、下痢そして、おそらく脱毛は葉酸あるいはfolinic acid投与で減らせられる。MTXの比較
的禁忌は肝臓疾患、腎障害、著しい(significant)肺疾患、アルコール乱用者である。
MTXの最も高頻度の副作用は肝機能異常であるので、肝機能をモニターする必要がある。しか
し、MTXの肝機能異常の危険度は低い。ACRによるMTXの肝障害モニターのためのガイドラインに
よれば、MTXを投与中あるいは中止後も肝機能異常が認められる場合に肝生検が行われるべきで
あるとしている。まれであるが生命の危険のある副作用である肺毒性はMTXの投与量や投与期間
にかかわらず発生しうる。リンパ増殖疾患はMTX投与中の患者にまれに起こりうるが、MTXとの
関係ははっきりしていない。これらの症例の一部はMTX中止で縮小あるいはよくなったりする。
MTXは催奇形性の可能性があるので、投与中は避妊が勧められる。
6)レフルノミドLeflunomide(勝手にLFMと略)
LFMはMTXと同じくらい有効である。あるいはMTX無効例に有効である。RA疾患活動性の減少、
X線上の進行の減少はMTX小-中等量(modest)とほぼ同等である。十分量のMTXでも効果が得ら
れない症例に対し、MTX+LFMの併用が有効である。
LFMの5%、MTX+LFMの60%までが肝機能異常を呈する。LFMは腸肝循環があるので、LFMの半
減期は長い。cholestylamine resinを用いる推奨プロトコールを行わないと、LFMは2年間体
内にとどまる。LFMは催奇形性があるので、服用中の女性が妊娠を希望したら、妊娠する前に
LFMを中止して、cholestylamineを用いねばならない。LFM禁忌:閉塞性胆道疾患、肝疾患、ウ
イルス性肝炎、重篤な免疫不全症、妊娠のコントロール(つまり避妊)が期待できない場合
(inadequate birth control)、リファンピシン投与(LFM濃度が上昇する)。
表5 monitoring of toxicitiesから気のついたところを抜粋します。
SSZ:baseline evaluationにG6PDHが入っている
MTX:baseline evaluationに一年以内のCXP、high risk patientsでのHB・HCVチェックが
入っている。血液検査では一般検査(CBC,Cr,LFT)は最初6ヶ月は毎月、その後は1-2ヶ月
に一度。AST/ALT2倍以下の上昇時には2-4週のうちに再検、2-3倍では2-4週ごとにモニターし
必要に応じ減量。2-3倍以上の上昇が持続するときは投与中止し肝生検考慮。
LFM:モニターすべき副作用(下痢、脱毛、発疹、頭痛、免疫不全による感染)、baseline
evaluationでhigh risk patientsにはHB・HCVチェックが入っている。血液検査では一般検査
(CBC,Cr,LFT)は最初6ヶ月は毎月、その後は1-2ヶ月に一度。AST/ALT2倍以下の上昇時には
2-4週のうちに再検、2-3倍では2-4週ごとにモニターし必要に応じ減量。2-3倍以上の上昇が持
続するときは投与中止しコレスチラミン投与、肝生検考慮。MTX併用例では少なくとも毎月LFT
をチェック。なお、コレスチラミン療法とは、コレスチラミン4-8gを一日3回投与し、5日続け
る。妊娠希望のために行うときはもっと長く続ける。
抗TNFa治療
選択的にサイトカインを短期的に阻害する(抗サイトカイン治療)遺伝子工学を利用して作製
された薬剤の発達は、RA治療における大きな進歩である。現在、臨床的に最も効果的な抗サイト
カイン製剤は、TNFaに対するアンタゴニストである。TNFaは、サイトカイン炎症カスケードに
おける主要な伝達物質である。米国では2つの抗TNFa製剤が使用されている。エタネルセプト
(リコンビナント可溶性TNF-Fc融合蛋白)とインフリキシマブ(マウス・ヒト キメラ型抗TNF
モノクローナル抗体)である。
ACR20,ACR50,ACR70改善基準に従ったRA患者の臨床症状や徴候の改善は、ランダム化二重盲
検プラセボ対照試験により検討され、エタネルセプトとインフリキシマブの効果が認められた。
早期RA例や、かつて施行したDMARD療法が無効であった活動性RA例でもエタネルセプトで改善が
見られた。エタネルセプトとインフリキシマブ両剤は、適正量のMTX単独治療では活動性が増し
てしまう患者においても、MTXとの併用によって効果を望めることが示されている。今日、MTX
との併用時に限り、インフリキシマブ使用が推奨されている。
エタネルセプトとインフリキシマブの臨床試験では、治療開始2週後でさえ有効例があったよ
うに、多くの患者で早期に改善をみた。ランダム化試験によると、エタネルセプト単独あるいは
インフリキシマブとMTX併用治療では、MTX単独治療と比較し、1年後のX線写真上での進展は
少なかった。早期RA例での検討では、MTX治療と比してエタネルセプト治療では、RAの症状や徴
候は、最初の6か月ではより早く改善し、12か月の時点で効果は同等であった。
ランダム化試験からのデータでは、2剤ともに、重篤な感染症や悪性腫瘍のような重大な有害
事象はなかったが、これらの薬剤の短期的、長期的安全性に関する懸念は続いている。TNFa
は、感染や腫瘍新生に対する宿主の防御に、重要な役割を果たしている。エタネルセプトとイン
フリキシマブの市販後の経験では、これら薬剤使用で重篤な感染症をきたし、入院や死亡した患
者が存在する。抗TNFa治療中に亡くなった患者の多くでは、重大な慢性感染症や、感染に対す
る危険因子を有していた。よって抗TNFa製剤は、感染症に感受性のある例または結核の既往例
では注意深く使用すべきである。重大な慢性感染症の存在する例では使用を避けるべきであり、
急性感染の全例では一時的に中止すべきである。
市販後調査では、敗血症、結核、非定型抗酸菌症、真菌感染、他の日和見感染、脱髄疾患や再
生不良性貧血の報告がなされている。TNFaアンタゴニストを開始前に、結核が潜伏している危
険を評価すべきである。これら新薬のフォローアップ期間はまだ比較的短いが、これまでのとこ
ろ、エタネルセプトとインフリキシマブで治療した患者では、一般人集団と比較して、悪性腫瘍
罹患の増加は認められていない。現時点では、抗TNFa製剤使用時、機械的に検査モニターをす
る必要はなさそうである。しかし、患者に対し、あらゆる感染徴候や症状を報告するよう促すべ
きである。
抗TNFa製剤の不利な点は、長期間に渡る安全性のデータがないことに加え、非経口投与を要
し、価格が高いことである。RA患者すべてが抗TNFa療法に反応する訳わけではなく、治療中止
後に再燃する。
昔日のDMARDs
プリン類似体の骨髄抑制薬であるAZA(赤真注;アザチオプリンのこと)は、RAコントロール
に有用であるが、ほとんど使われていない。D-ペニシラミンは有効であるが、一部は不便な用量
スケジュール(用量を漸増することなど)により、またGoodpasture症候群や重症筋無力症とい
った自己免疫疾患を含む稀だがかなり重篤な併発が起きることから、その使用は限られている。
金製剤筋注は有効である。しかし、22週以降に維持量をより間隔を空けて使用することが可能
ではあるが、初めの22週間は毎週注射する必要がある。経口金剤は注射用金剤よりも便利であ
るが、有用性が明らかになるのに長時間(6か月まで)を要し、有効性がより少ない。
Tetracyclines.
近年、偽薬対照無作為2重盲検試験により、tetracyclineがRAの疾患パラメーターを改善す
ることが示された(106-109)。1つのトライアルの結果においてminocyclineによる治療が長期
的な有用性を示し、さらにHLA shared epitope(HLA-DR4)を有する患者においてはX線上の進行
を抑制した点は、重要である(110)。RAの治療におけるtetracyclineの正確な役割を決めるた
めにはさらなる研究が必要である。
Cyclosporine
Cyclosporineは単剤でRAに対して有効であり(111, 112)、D-penicillamineと同程度の有用
性を有する(113)。しかし、cyclosporineの使用はその毒性、特に高血圧と用量依存性の腎機
能低下により制限されてきた(114, 115)。Cyclosporineにより腎機能が約20%低下するが、こ
れは投薬中止により完全ではないがほぼ正常化する(115, 116)。Cyclosporineの使用時には他
のどのDMARDsよりも腎毒性を避けるための用量計算が重要である。多くの薬剤がcyclosporine
の血中濃度を増加させ、その結果腎毒性の危険性を上昇させる可能性がある。従って
cyclosporineによる治療は治療抵抗性RAに限られるべきである。
Staphylococcal protein A 免疫吸着法
Staphylococcal protein A カラムを用いた血漿吸着法が治療抵抗性重症RAの一部の患者に
有効であることが報告されている(117)。12週間に渡り毎週治療を行なう困難さと医療費、有効
期間の短さ、および高率な副作用発生率を考慮すると、この治療法は各種DMARDs治療に抵抗性
の一部の患者に限られるべきである。
DMARDsの併用療法
通常の一剤のDMARDによる治療ではしばしばRAの臨床症状を適切にコントロールできないまた
は疾患の進行を抑制できない。その結果、リウマチ医が複数のDMARDsを組み合わせて使用する
機会は増えつつある(118)。DMARDs単剤による治療ではRAの活動性が持続する患者に対して
DMARDsを順次追加併用していくべきか、発症早期から併用療法を行ない、疾患活動性を抑制し
た後に順次薬剤を減量中止していくべきかは結論がでていない(119)。どちらにせよ、DMARDs併
用療法を始める場合にはリウマチ医へコンサルトするべきである。
初期のopen-label studyではDMARDs併用療法の有効性を期待できる結果も報告されたが
(120)、複数のDMARDsの相乗効果を明確には証明できずにDMARDsの毒性が増強される結果もし
ばしば認められた。しかし、これらの研究の多くが、治療群間の差を見い出すためには必要な統
計学的パワーを有していなかったか、あるいは単剤では効果が弱いDMARDsを使用したり、至適
用量以下の投与量を用いていた(119, 121, 122)。
CyclosporinとMTXの組み合わせはMTX単剤よりも有効であるが、長期的には高血圧および血
清クレアチニンの上昇が出現した(123, 124)。無作為対照試験によりMTX+HCQ+SSZの3剤併用
がMTX単剤、HCQ+SSZの2剤併用に比較してより有効であり、副作用も少ないことが報告されて
いる(125)。他の無作為対照試験でもこの3剤の有効性と低毒性が確認されている(126)。この
後者の試験では、早期RA患者が対象とされ、一部の患者については低用量のPSLが使用されてい
た。最近、MTX+SSZ+HCQの3剤併用が、MTX+SSZまたはMTX+HCQの2剤併用よりも有効であるこ
とが早期および進行期RA患者で示された(128)。
早期RA患者を対象にStep-down approachを用いたSSZ+高用量短期PSL+MTXとSSZ単剤の比較
が無作為対照試験により最近実施された(129)。SSZ単剤に比較して3剤併用群のほうがX線写真
上の進行が遅く、毒性あるいは無効による脱落例が少なく、疾患活動スコアも低値であった。
上記の各試験はleflunomideおよび生物学的製剤の導入、あるいはそれらと他のDMARDsとの
併用が行なわれる以前に実施されたのもである。MTXに反応不十分な患者を対象にInfliximab、
etanercept、またはleflunomideとMTXとの併用療法が検討され、これらの併用療法の有効性が
示されている。
過去数年に渡って、DMARDsの併用療法はRAの治療に貢献して来た。今後もDMARDs併用療法の
役割は発展していくであろう。
糖質コルチコイド
低用量(プレドニゾンで一日10 mg未満相当)の経口糖質コルチコイドや糖質コルチコイドの
局所注射は活動性のRA患者の症状を抑えるために非常に有効である。活動性の多関節炎の患者は
低用量糖質コルチコイド服用開始の数日後から速やかで著明な機能の改善を認めることもある。
しばしば一つ以上のDMARDsを投与されている併用療法の患者でさえ糖質コルチコイドが中止さ
れると機能障害の強い滑膜炎が再燃する。従って、RA患者の多くは糖質コルチコイドに依存性で
あり長期にわたり継続する。
最近の証拠によると、低用量の糖質コルチコイドは関節破壊の速度を遅くし、そのために疾患
修飾の可能性を持つようである。糖質コルチコイドを中止すると関節破壊が強まる可能性があ
る。
しかし、低用量糖質コルチコイドの利益は常に副作用とてんびんにかけなければならない。長
期に低用量の糖質ステロイドを経口的に投与した場合の副作用は多方面にわたり、骨粗しょう
症、高血圧、体重増加、液貯留、高血糖、白内障、皮膚の脆弱化、若年性動脈硬化などがある。
糖質コルチコイドを始める前にこれらの副作用について詳細に患者と議論すべきである。長期の
疾患コントロールのためには糖質コルチコイドの量は最小量にすべきである。RAのほとんどの患
者ではこれは一日10 mg以下を意味する。
RAは糖質コルチコイドとは無関係に骨粗しょう症のリスクがある。5 mg/dayの少量の糖質コ
ルチコイドの投与量でさえ骨粗しょう症のリスクを上昇させるので、糖質コルチコイド投与中は
定期的に骨の喪失を評価する密度測定を行うべきである。糖質コルチコイド投与中の患者は
1,500 mgの基礎的カルシウムを毎日取るべきであり(食事と栄養剤を含んで)、毎日400-800
IUのビタミンDを取るべきである。ホルモン補充療法が不適応でない生理終了後の女性にはそれ
を考慮すべきである。骨吸収抑制薬であるビスフォスフォネート製剤は骨喪失を抑制するので糖
質コルチコイド開始時には考慮すべきである。
糖質コルチコイドの関節内や関節周囲への注射は経験ある内科医がやれば安全で効果的であ
る。最も強く冒されているニ・三の関節をRAの早期に注射すると局所的な、場合によっては全身
の効果が得られる。効果はしばしば画期的であるが、一時的である。関節内の糖質コルチコイド
注射により急速に良くなると治療が効果的であるという確信を植え付けるのに役に立つ。一つか
ニ・三の関節のみが炎症悪化した患者では、しばしばその関節への糖質コルチコイドの注射のみ
で他の治療を変えずにうまく治療できる場合もある。局所の糖質コルチコイド注射は、また、関
節機能の低下を防ぐためのリハビリをより積極的にさせることに役立つ。
RA患者の関節炎悪化のすべてがもともとの疾患によるものではない。関節の感染、微小結晶に
よる関節炎を糖質コルチコイド注射の前に除外しなければならない。一般的に、同じ関節を3か
月以内に二度以上糖質コルチコイド注射をすべきではない。同じ関節になんども注射をしなけれ
ばならない、あるいは多くの関節に注射しなければならない、ということは全体の治療プログラ
ムが十分かどうかをもう一度再考する必要があることを示している。
『外科的治療』
関節破壊のため非常に強い関節痛、可動域制限、機能障害がある患者では、外科的な治療が考
慮されるべきである。RAの外科的治療にはcarpal tunnelのrelease, 滑膜切除、中手骨骨頭の
切除、人工関節置換術、そしてjoint fusionが含まれる。新しい人工関節の材質とセメントに
より、無菌的looseningの予防を非常に改善され、そして人工関節の寿命が延びた。
術前の機能的状態が外科的治療後の機能的独立性の回復率の重要な決定因子である。機能的な
回復を増大させるための戦略には、術前の機能の状態を最善の状態にすることと、早期に外科的
治療を行うことが含まれる。術前と術後の治療を行うチームには数多くの外科的治療を施行して
きており、そしてRAの患者のcareの経験のあるhealth careのprofessionalが含まれるべきで
ある。
『プライマリーケア医と専門医の責任』
health careの状況に応じて、RAの患者のcareの大部分はひとりの医師(プライマリーケア
医あるいはプライマリ−ケアを行っているリウマチ専門医)によって行われるかもしれないし、
あるいはその責任は分けられるかもしれない。プライマリーケア医の役割は発症時にRAを認識し
診断することであり、そして永続的な関節破壊がおきる前に患者が適切な時期に治療を受けられ
るようにすることである。リウマチ専門医はRAの診断と治療において患者とその患者を診ている
プライマリーケア医へ支持とコンサルテーションを与えるべきである。
プライマリーケア医におけるRAの診断とマネージングのレベルは様々かもしれないので、正確
な診断及び、RAの活動性や薬の副作用のモニタリングの責任は適宜、リウマチ専門医が担当する
べきである。もし一人のRA患者のケアが分けられるのならば、RAの活動性(表3)と薬の副作用
のモニタリングのための明確な計画が作られなくてはならない。どの医師がケアに責任をもつか
を決めるときは、患者の好みが重要な要因かも知れない。
全体的な健康維持のための戦略が作りあげられるべきであり、そしてこの戦略の責任は患者の
ヘルスケアを担当している者の間でコーデイネイトされるべきである。高血圧や癌のためのスク
リーニングや危険因子のようなルーチンの予防的検査は推奨されるべきであり、そして危険因子
は修正されるべきである。
『医療費についての考察』
社会に対してと同様に、個々の患者に対しても重要な経済的な関係がRAにはある。年令、性別
が同じ健常人にくらべ、個々のRA患者では、3倍の医療費、2倍の入院率、そして10倍の作業不
能性がある。最近の研究で、一人のRA患者の年間医療費は、約8500ドルになると報告されてい
る。罹病期間が長くなるにしたがい、そしてHAQによって測定される機能が低下するにしたが
い、年間の医療費は増加する。作業不能性と失業に関連した間接的なコストは疾患に関連した直
接的なコストの3倍になる。
直接的な医療費に対する責任はしばしばthird-party payorそして一部患者に帰せられる、
一方間接的コストの大部分は政府あるいは雇用者によって生み出される。ヘルスケア
financing systemの多様性においては、これらの経済的危険性と誘因の分断化、異なるrisk
poolとヘルスケアdelivery systemへの患者の頻繁な転換、そして比較的緩徐な疾患の進展な
どがすべて適切なケアへの接近に反対に影響を与えているのかもしれない。
長い間、比較的安価な治療がRAでは行われてきた。しかしながら、COX-2阻害剤の出現、生物
学的製剤を含む新しいDMARDs、そしてコンビネーション療法の使用の増大などのすべてにより
医療費の考察が非常に重要となった。最善の治療の推奨による文献のevident-basedなレビュー
に焦点を絞ることによって、ほとんどのガイドラインは一般的にこのコストの問題を避けてき
た。しかしながら、経済的考察を無視すると日々の治療にあたえる影響が不十分になると当委員
会は考えた。
機能的状態とレントゲン像上の進行に有意な効果があると示された新しいDMARDsの有望な短
期の結果にもかかわらず、現時点では、そのような増大する費用が最終的には疾患の総医療費が
低下するということによって相殺されるかどうかを決めるには不十分な長さのデータしかない。
MTX療法が無効のRA患者への6通りの異なる治療法の相対的なcost-effectivenessを調べた報
告が最近あった。それは1)etanerceptのみ 2)etanercept+MTX 3)cyclosporine+MTX 4)
HCQ, SSZ, MTXの3剤併用 5)MTXの継続 6)second-line agentなし である。ACR20
improvement criteriaあるいはweighted proportion of patients achieving ACR20,
ACR50, and ACR70 improvementによると3剤併用がもっともcost-effectiveだった。しかし
ながらすべてのcost-effectiveな分析にありがちなように、この結果の妥当性を制限するかも
しれない前提があった。例えば、このモデルの期間は治療のはじめの6ヶ月に限定された。さら
に、このモデルでは限られた数の治療法のみが検討された。leflunomideもinfliximabも検討
されていなかった。作業能力やレントゲン像上の進行のような結果への新しいDMRADsの効果に
ついてのさらなるデータも必要である。
今日の医療費の締め付けが厳しい環境では、たとえ治療法の効果と副作用が同じでもより安価
な治療法が使われがちである。しかしながら臨床医は以下のような状況に次第に直面してきてい
る。複数の治療法がもはや等価ではない。ある治療に部分的な反応しかない。副作用や病的な状
態により、より伝統的な治療薬の使用が禁忌となる。ハイリスクや重症患者では、単独あるいは
併用での新しい治療薬の使用が必要となる、等々である。十分な数の患者と長期研究により、こ
れらのデリケートな医療費の問題は、しばしば進行性で衰弱性のこの疾患とうまくバランスがと
れるようになるであろう。
まとめ
RAは慢性進行性の多関節炎であり、多彩な経過をとりながら、多大な障害と経済的損失をもた
らす。うまく治療して関節障害・機能低下を食い止めるためには、早期に診断して適切な時期に
抗リウマチ薬を開始する必要がある。治療の目的はRAの進行を止め、寛解させることにある。寛
解の得られる頻度は決して高くないが、非薬物治療や薬物治療、場合によっては外科的治療によ
りRA患者は恩恵を受け得る。RA患者を長期にわたってうまく治療するためには、総合的な調整
された患者ケアと、多数の広範囲にわたる医療関係者の熟練が必要である。そして、RA患者の管
理には、系統的かつ定期的な疾患活動性の評価、患者教育/理学療法、DMARDsの投与、必要に
応じた糖質コルチコイドの局所投与や低容量内服投与、個人に対する負担の最小化、現行治療法
の適否の評価、全身の健康維持、が必須である。
追加:このガイドラインが完成して受理された後に、リコンビナントヒト型IL-1レセプターア
ンタゴニスト(IL-1Ra) であるanakinraのRAに対する投与が認可された。IL-1βはTNFαとと
もにRAにおける滑膜炎と関節破壊において重要な役割を演じていると考えられているIL-1Raは
IL-1αとIL-1βのIL-1レセプターへの結合を阻害することにより、IL-1の標的細胞の活性化を妨
げる。anakinraの連日1回150mgの皮下注投与によるRAの自他覚症状の改善度は、ACR20
criteria による評価でプラセボよりも優れていることが、無作為二重盲検法によるコントロー
ルスタディにより示された。anakinraはプラセボよりもHAQスコアを改善し、画像所見の進行を
抑制した。最近の研究では、1.0mg/kgまたは2.0mg/kgのanakinra とMTXの併用療法はMTX単独
療法よりも有効あることが示された。
anakinraは連日100mgの自己皮下投与量でRAに対する使用が認可されている。注射は業者が供
与する特別仕様の注射器の使用により簡易化されている。副作用としては注射部位の局所反応の
報告が最も多い。これらは投与開始後4週以内に最も多く、数日ないし数週で消失する。このよ
うな副反応のために薬剤投与が中止されることも時々ある。他の生物学的治療と同様、重篤な感
染症や悪性腫瘍の危険性が心配されるが、安全性を示す資料は少ない。喘息/COPDの患者では
肺感染症の頻度が高いので、anakinraは注意深く使用されるべきである。anakinraは、いかな
る活動性感染症の患者にも投与されるべきではない。anakinraのRA管理における位置付けは他
の生物学的治療と同様である(??原文:Anakinra fits into the management of RA
along with the other biologic therapies.ですが、どう訳したら良いかわかりません。誰
か教えてください。)
[2002年3月8日 16時59分1秒]