膠原病リウマチ痛風センターの皆様こんにちは、日野生子と申します。たいへんご無沙汰
しております。センターで研究させていただいて、まとめた内容が女子医大雑誌に掲載さ
れました。センターの患者さんの貴重なデータを使わせていただいた論文ですので、その
要旨を医局ネットに掲載したいと思います。私の研究論文”慢性関節リウマチの寛解導入
に関連する予測因子の検討”の要旨と末尾に最近の文献のまとめたも載せますので、あわ
せて御意見いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
[ 目的 ]
近年、予後予測因子を考慮した慢性関節リウマチ(Rheumatoid arthritis、RA)の薬物治
療の必要性が指摘されている。RAの薬物治療の最終目標は寛解であり、寛解に関連する予
測因子の解析は有用性が高い。本研究ではRAの寛解及び非寛解症例を対象に寛解導入の有
無に関連する予測因子についてケースコントロール研究による解析を行った。
[ 対象および方法 ]
1996年12月の時点で当センターに通院中で1958年RA診断基準definiteあるいはclassicalを
満たすRA患者を調査対象とした。経過中にRA臨床的寛解基準案を満たした90症例を寛解群
とし、対照症例として当センターを初診したRA患者で、寛解に至らなかった症例のうち
性、発症年齢、罹病期間を一致させた90症例を抽出し(非寛解群)、両症例群の初診時所
見を中心に比較検討した。
[ 結果 ]
寛解・非寛解両群の背景因子、当センター受診前の抗リウマチ薬使用頻度に有意差なく、
寛解群に有意に多く使用された抗リウマチ薬も認めなかった。各群とも平均罹病期間が3年
に及ぶため、初診時罹病期間別(6ヶ月未満、6ヶ月〜2年未満、2年以上)に分けて検討し
た。
1.初診時罹病期間6ヶ月未満の症例では寛解症例が有意に多く、初診時罹病期間2年以上の
症例では非寛解症例が有意に多かった。
2.有意差を認めた項目について
初診時罹病期間6ヶ月未満においてはCRP≦1.0mg/dl、CH50≦40U/mlの症例が寛解群で有意
に多かった。6ヶ月以上2年未満では有意差のある項目は認めなかった。2年以上の症例では
非寛解群で赤沈値≧50mm/hr、IgG≧1800mg/dl、IgA≧350mg/dl、RAPA≧160倍、抗核抗体≧
40倍、手のびらん関節数≧4個の症例が有意に多かった。
3.初診時点の寛解導入の予測について
初診時罹病期間2年未満では上述の2項目で有意差を認めたものの、感度・特異度ともに低
く、寛解導入の有無は予測できなかった。初診時罹病期間2年以上では上述6項目中3項目以
上満たす症例は寛解が導入されにくいと予測された(感度80%、特異度77%)。
[ 考察 ]
初診時罹病期間2年未満では寛解の予測はできなかったが、2年以上では上述の6項目を組み
合わせることで寛解が導入されないことの予測が可能であった。この基準を満たす症例の
寛解を導入するには初診時からより強力な治療が必要であると予想されるが、選択すべき
治療法について今後さらに検討が必要である。
[ 結論 ]
RA寛解症例のケースコントロール研究から以下の結論が得られた。
1.発症2年未満の症例では初診時に寛解導入の予測はできなかった。
2.発症2年以上の症例においては、初診時において赤沈値≧50mm/hr、IgG≧1800mg/dl、
IgA≧350mg/dl、RAPA≧160倍、抗核抗体≧40倍、手のびらん関節数≧4個のうち3項目以上
を有する場合に寛解導入が困難である。
【最近の文献の紹介】
1.S.M.Proudman,P.G.Conaghan,C.Richardson et al;Treatment of poor-prognosis early
rheumatoid arthritis. Arthritis&Rheumatism 2000;43,8
予後不良のearly RA患者にランダムにMTX+CyA+Corticosteroid関注の併用療法
あるいはSSZのみの投与を行い結果を比較する研究を行った。結果の測定は 48週での寛解
とACR20%の改善度で評価した。最初の12週では併用群におい て疾患活動性の指標が有
意に改善し、24週では腫脹関節数、CRP、ESRが有 意な低下を認め特に、圧痛・腫脹関
節数は併用群で大きな改善がみられた。48週では、X線所見については48週において骨びら
んなどの障害が増加して いたが、右手の骨びらんの増加は併用群でSSZ単独よりも有意
に少ない以外、両群間に有意差は認められなかった。効果不足による投薬中止は併用群が
SSZ群よりも有意に少なかった。予後不良のRA患者において攻撃的な併用療法はより急速に
活動性を抑制するが、有意なACRの改善や寛解に至る結果で はなかった。このことはより確
実に活動性の抑制を持続させ、臨床的寛解はとくに予後不良のRA患者の不可逆的な変化を
防止するために必要であること を示唆している。また、予後不良の患者において、治
療への反応が悪い患者ではDMARDを追加するStep-up療法が、DMARD併用療法よりもより適し
てい ると示唆している。
2. J.Jantti,K.Kaarela,H.Kautiainen et al;Rdiographic remmision in seropositive
rheumatod arthritis.A 20-year follow-up study.Clin Exp Rheumatol 2001;19:573-576
6ヶ月以内に発症したseropositive and erosive RA患者において手と足のX線変化をLarsen
scoreで評価し20年follow-upしたコホート研究を行った。X線上寛解を認めた群と進行した
群とで比較したところ、寛解群でESR、CRPが8年と20年の時点においては有意に低かった。
腫脹関節数は、登録時は有意差を認めなかったが8年後と20年後では寛解群で有意に少な
かった。また、20年間で26%がX線所見上寛解を認めこれらの症例の多くは経過中Larsen
scoreが低かった。治療に関しては、DMARDとステロイドあるいはDMARDで治療した患者にお
いてX線上での寛解と非寛解とで比較したところ寛解症例では登録時において非寛解症例よ
りもより頻繁には特異的な抗リウマチ薬は使用されておらず、8年後と20年後の調査でもに
同様の結果であった。
3.Esmeralda T.H.Molenaar,Alexandre E.Voskuyl et al;Functional Disbility in
Relation to Radiological Dmage and Disease Activity in Patients with Rheumatoid
Arthritis in Remission. J Rheumatol 2002,29:267-270
寛解に至った186人(ACRの臨床的寛解基準案を満たす)のRA患者において 長期間
folow-upしたコホート研究を行い、身体機能障害、疾患活動性、X線での関節障害との関連
について調査した。項目としてはVAS for pain、HAQ score、DAS score、SHS(Sharp法で
のX線変化の評価)、罹病期間にて評価した。身体機能障害は疼痛、疾患活動性、罹病期
間、X線での関節障害および年齢と有意に相関していた。61%の患者がHAQscore≦0.5と身体
機能障害がほとんどなく、手の骨びらんも非常に軽いことを示唆した。寛解に至ったRA患
者では、最小の身体機能障害とX線上の関節障害であった。寛解に至ったRA患者において身
体機能障害は疼痛の存在とより低い疾患活動性、X線での関節障害、罹病期間に最も強く関
係しているとの結果であった。
4.U.Machein;Effective treatment of early rheumatoid arthritis with a commbination
of methotrexate,predonisolone and cyclosporin.Rheumatology 2002;41:110-111
罹病期間2年以内でARAの診断基準を満たす早期RA患者26人に、MTX(15mgの筋注)とステロイ
ド(PSL20mgの経口)の併用投与を8週間行い、疾患活動性を disease activity score
(DAS)で評価した。50%の患者で8週後にDASの有意な低下を認め、重篤な副作用は6ヵ月間
はみられなかった。しかし50%の患者では治療前後でDASの低下がみられず、さらにランダ
ムに二重盲験を行いシクロスポリンA(CsA)あるいはプラセボを追加し治療した。Csで治
療した群ではCs投与前と比較してCs投与開始後6ヵ月からDASが有意に改善していた。プラ
セボ群では有意な改善認められなかった。この
研究においてわずか一人 の患者で高血圧のためCsによる治療が中止されたが、他の副
作用は観察されなかった。この研究は活動性の高い早期RA患者の約85%がシクロスポリンな
どの攻撃的な十分な治療を行えば最初の4-6ヵ月で良好な反応を示したと結論づけている。
5.Jennifer j.Anderson ;Factors predicting response to treatment in rheumatoid
arthritis.Arthritis &Rheumatism 2000;43,1:2-29
RA患者でランダムにMTXを中心としたDMARDあるいはプラセボの投与を割 付け、比較試験
を行った。その結果、積極的治療とプラセボとの間ではACRの改善率が罹病期間やその他の
因子に影響されなかった。罹病期間とACR改 善率との関連は罹病期間が長くなるにつれて
反応(ACR改善率)が低下していた。MTX+SSZ+ステロイドの併用投与などの積極的な治療を受
けた症例においてACRの改善率が罹病期間1年では53%、2年では43%、2-5年では44%、5-10年
では38%、10年以上では35%と罹病期間が長くなるにつれて低下していた。
以上です。何とぞ御意見のほど宜しくお願い申しあげます。
H14.5.31 日野生子
[2002年6月3日 10時8分1秒]