(49.1) ここから、素朴でないソートについて学び始める。 自明なアルゴリズムではないので、しっかり取り組むこと。 初めに学ぶ Shell ソートでは、「どんな手順でやるか」がまずわかりにくい。 それを理解したうえで、 「ちょっと見たところ手間がかかるのに、なぜこのほうが速いのか?」 を考えることになる。 なお、Shell は人名である。
(49.2) (正の)自然数 m を一つ選んで固定する。 配列 a[1], ..., a[N] を、 その中から m おきに取り出した、 次の m 本の部分配列に分割する。
(49.3) 具体例で説明する。 次を「3 おきにソートする」としよう。
18 08 13 93 78 32 81 65 02 40
まずは a[1] から始まる部分配列を考える。 “いまは見ない”部分は「..」とする。
18 .. .. 93 .. .. 81 .. .. 40
これをこの中で小さい順に並べ替えるとこうなる。
18 .. .. 40 .. .. 81 .. .. 93
こんどは a[2] から始まる部分配列を考え、それを小さい順に並べ替える。
.. 08 .. .. 78 .. .. 65 .. .. ↓ .. 08 .. .. 65 .. .. 78 .. ..
最後に a[3] から始まる部分配列を考え、それを小さい順に並べ替える。
.. .. 13 .. .. 32 .. .. 02 .. ↓ .. .. 02 .. .. 13 .. .. 32 ..
よって、最終的にはこうなる。
18 08 02 40 65 13 81 78 32 93
(49.4) たとえば配列の大きさ N が 1000 のとき、
(49.5) 1 おきのソートとは普通のソートのことである。 それを最後に行なうから、 上のアルゴリズムで正しくソートが行なわれることは間違いない。 よって、これから考えるべき問題は、 「なぜこれが速いのか?」である。
(49.6) 整数 m, M が 0 < m < M を満たすとき、 次の事実が成り立つ。
M おきにソートしてから m おきにソートした結果は、 M おきにソートされている。
(49.7) (証明の概略: 「m おきの転倒数」を # {(i, j) | i < j かつ j-i は m の倍数、かつ a[i] > a[j]} で定義する。 いま、配列は M おきにソートされているとしよう。 m おきのソートが完了していなければ、 m おきの転倒数は 0 でないので、 転倒している組 a[i], a[i+m] が存在する。 この i に対し、 組 a[i+k*M], a[i+m+k*M] (k は整数)のうち、転倒している組をすべて交換する。 この操作のあと、m おき転倒数が減少していること、 および M おきにソートされたままであることを観察せよ。 この操作をくり返してゆけば m おきのソートが完了するのだから、 主張は正しい。)
(49.8) 仮に M が 5, m が 3 だったとしよう。 5 おきにソートし、それから 3 おきにソートしたあと、
(49.9) このあとに 1 おきのソートを挿入ソートで行なえばソートが完了するが、 上の考察から、任意の i に対し #{j | j < i かつ a[j] > a[i]} < 8 であることがわかるから、 どの要素を挿入する際も高々 7 回の交換で十分である。 計算量をおおざっぱに調べてみよう。
(49.10) ※ 実験してみると、 3 おきにソートする際の計算量はこれよりはるかに小さい。 それは、 その前に 5 おきにソートしたことで、小さいものが左に、 大きいものが右に寄っているためであろう。
(49.11) 上の例では「5 おき」「3 おき」にソートしたのがよい“下準備”となった。 そこから 8 という数が出てきて、 最後の「1 おき」のソートの計算量が 7N となったのだった。 一般の場合を考えよう。 整数 m, M が 0 < m < M を満たすとき、 M おきにソートしてから m おきにソートしたあとでは 0 以上の整数 x, y に対し a[i-(m*x+M*y)] <= a[i] が成り立つ。
(49.12) 次の定理 (Chinese Remainder Theorem) はすでに代数学の時間に習ったであろう。
a と b を互いに素な自然数とし、 d を整数とするとき、 方程式 ax+by = d は整数解 (x, y) をもつ。
(49.13) ことばを変えて言えば、 a と b とが互いに素なら直線 ax+by = d の上には格子点 (= x 座標も y 座標も整数である点)が存在する、 ということである。 (x, y) が解であるとき、任意の整数 k に対し (x+kb, y-ka) も解である。 これ以外の解がないことはすぐわかる。 よって、格子点は直線 ax+by = d の上に x 座標でみて b おき、y 座標でみて a おきに並んでいる。
(49.14) この定理から次が得られる。
a と b を互いに素な自然数とするとき、 整数 d が (a-1)(b-1) 以上ならば方程式 ax+by = d は 0 以上の整数の解 (x, y) をもつ。
(49.15) (証明の概略: 上の定理から、直線 ax+by = d の上に格子点があることはわかる。 この直線が二直線 x = -1, y = -1 と交わる点の、x 座標の差を考えよう。 d = (a-1)(b-1) のとき、 直線 y = -1 とは x = b-1+1/a で交わる。 これと x = -1 との差は b+1/a となり、b よりも大きい。 直線 ax+by = d は、d が大きくなるほど上方へ移動するので、 d がより大きければ、この差はさらに大きくなる。 よって、d が (a-1)(b-1) 以上であるならば、 直線 ax+by = d のうち x > -1 かつ y > -1 である部分に格子点があることがわかる。)
(49.16) ※ 方程式 ax+by = (a-1)(b-1)-1 は 0 以上の整数の解 (x, y) を持たない。 これは (b-1, -1) と (-1, a-1) とが隣り合った解であることからわかる。
(49.17) ※ さっきの例で出てきた「8」は (M-1)(m-1) にあたる。
(49.18) 上の例では「5 おき」「3 おき」「1 おき」にソートしたが、 この授業の実習では (49.4) で述べた単調増加数列を逆にたどりつつ、 もっと何度も「m おきのソート」を行なう。 m が N 以上なら 「m おきのソート」とは何もしないことだから、 m が大きすぎても別に困らない。 よって、m の値は、(49.4) で述べた単調増加数列の項のうち、 いま使っているコンパイラの int 型で表せる最大の数から始めればよい。 その値は、次のプログラムを動かすことで求められるように 1743392200 である。 (このプログラム中の「25」という定数の値は試行錯誤を行なって決めた。)
#include <stdio.h> main() { int i, m; m = 1; for (i = 1; i < 25; i++) { printf("%d\n", m); m = 3*m+1; } }このようにした場合の Shell ソートの理論的な計算量は私には全くわからない。
(49.19) 上では m 本の部分配列をそれぞれ m おきにソートすると説明したが、 実際には
(50.1) 課題3と同様のことを、Shell ソートについて行なえ。
(50.2) ※ Shell ソートのプログラムを書く際には、 最初から配列を画面いっぱいにとること。 N が 10 ぐらいでは意味がない。 また、初めのうちは、 途中で m が変わるごとに 「40 おきにソートします」 などと出力させるとよいかもしれない。 (これらの間にソートされてゆく過程が出力されることになる。)
(50.3) (49.4) で述べた単調増加数列を逆にたどる際の漸化式は m = (m-1)/3 でもよいが、 C言語では int 型の正の数どうしの割り算では余りは切り捨てられるから、 m = m/3 と書けばよい。
(50.4) 件名は「kadai4」(←全て半角文字、アルファベットは小文字、 途中にスペースをいれない)としてください。 これ以外の注意点は課題3と同じです。
(51.1) ここは、時間などに余裕がある人のためのオプション項目である。
(51.2) 5 おき、3 おき、1 おきにソートする Shell ソートのプログラムを書いてみよ。 それぞれの段階における比較回数・交換回数を出力するようにしてみよ。
(51.3) Shell ソートの m の取り方を別のものに変えたらどうなるか。 効率を調べてみよ。 (K&R2 の教科書に出ているのは効率がよくないと言われている。 それを確かめてみるのもよい。)
(51.4) 上で書いたプログラムは、 int 型が 32 ビットの場合のものである。 それ以外の場合でも適切に動作する Shell ソートのプログラムを書いてみよ。