越昭三 監修/高橋泰嗣・加藤幹雄 共著「微分積分概論[新訂版]」(サイエンス社)は、 微分積分学の講義の際にお世話になっています。 気がついたことを書きます。
全微分可能ならば接平面がある、は述べられているが、 接平面があれば全微分可能か、が論じられていない。
p.129 の例 14 と問 18 について。
(d/dt) = { h(∂/∂x) + k(∂/∂y) } なのだから (d/dt)m z = { h(∂/∂x) + k(∂/∂y) }m z なのは明らかでは?
定理 17 の証明について。
D < 0 とすると、(a, b) を中心とするある開円板で fxy(x, y)2 - fxx(x, y) fyy(x, y) < 0 かつ fxx(x, y) ≠ 0 となる。 よって、教科書どおりに、 この開円板の中では f(x, y) が常に正または常に負、が言える。
D > 0 とする。 h2 + k2 = 1 をみたす実数 h, k に対し ―― この h, k は教科書の証明の h, k とは異なる ―― t に関する一変数関数 φ(t) := f(a + ht, b + kt) を考える。 φ'(0) = 0 であり、 φ"(0) = h2A + 2hkB + k2C は、h, k によって、正にも負にもなる。 よって、h, k によって、φ(t) は 0 で極小にも極大にもなる。
(教科書の D > 0 の場合の議論は、F2 - EG > 0 までは正しい。 しかし、Δf は (a + θh, b + θk)での f の二階微分の値で決まる。 θ が絶妙に選べて、Δf が定符号、という可能性が残る。 θ が h, k に依存することを忘れてはならない、とも言えよう。)
(上の φ がすべての h, k に関して t = 0 で極大(または極小)であっても、 f が (a, b) で極大(または極小)とは言えないが、上の議論は大丈夫。)
第 8 問で、f が C1 級という仮定はどこで使うのだろうか? 一変数関数の合成関数の微分の公式は、微分可能という仮定のみで成り立つ。