岩瀬順一の「書庫の引っ越し」

勤務先の金沢大学理学部は,1992 年の 8 月に, 城内キャンパスから角間キャンパスへと移転した。 その際,私は理学部数学科の書庫の引っ越しを担当した。 早いもので,それからすでに25年が経った。 夏季一斉休業のうちの一日の午後,そのときのことを,書き記しておこうと思う。 (2017 年 08 月 16 日記す)

引っ越し業者との約束など

本は,われわれが段ボール箱に詰め,封をする。 業者は,箱を,箱ごとに指定された部屋へ運ぶ。 その際,箱の順序はどうなるかわからない。 箱を開けて本を書庫におさめるのは,われわれの仕事である。

本を段ボール箱に詰める際には,一並びだけ入れる。 つまり,封をする直前に上から見ると,本の背表紙が並んでいるのが見える。 (よって,箱から本を出した際,書棚に占める幅は, 段ボール箱の(内側の)幅以下となる。)

旧書庫の状態と,下準備

旧書庫はほぼいっぱいで,雑誌の並びは, 図書事務担当者に聞かないとわからない状態だった。 ある雑誌の続きが,思いがけないところに置いてあることもあった。

一冊でも,その箱に詰めてよいかどうかわからない本があると, 箱詰め作業は止まってしまうだろう。 たとえば,雑誌名は,途中で変わることがある。

そのため,前もって図書事務担当者と打ち合わせをし, 付箋紙を使って,「ここから別の雑誌が始まる」というところに印をつけた。 雑誌名は,引っ越しの際だけに使う,記号で表すことにした。

単行本は,和書・洋書と別で,それぞれ,著者名のアルファベットの順に並んでいた。 これらは,頭文字 A, B, C, ... ごとに分けて一つのまとまりとして扱うことにした。 これも,「ここから B が始まる」というところに, それを示す付箋紙をはっておいた。

箱詰め作業

数名のグループで,本の箱詰めをしてもらった。 原則として,一度には一グループだったと思う。 (そうでないと,動く線が重なったりして,効率が悪いと思われる。)

最初に,試しに箱詰めをしてもらった。 たとえば,和書の A の部を段ボール箱に入れ, 順に,A1, A2, A3, ... と,油性ペンで書いてもらうのである。 (実際の記号は,これとは違ったと思う。)

そのとき,当時大学院生であった中根和昭氏(現・大阪大学)が, よいアイディアを出してくれた。私は想定していなかったのだが, 「和書の A の箱は全部でいくつ」という数を, 箱詰め依頼書に書いて返してくれたのである。 これを,その後,取り入れることにした。

新書庫の計画

和書の A は何箱ある,という情報が手元にある。 それと新書庫の大きさとを机の上でつき合わせて, 「和書 A の n 箱めはここに置く」というプランをたてた。 その際には,今後数年間で増える本のためのスペースをとっておくことにした。

この作業は,新書庫の書棚を書いた図面の上に, 段ボール箱一つずつに対応する紙片を置いておこなった。

箱を開けるための準備

新書庫の棚に,上述の計画に基き, 「ここに和書 A の n 箱めを置く」 という情報を書いた付箋紙をはった。

新書庫の通路ごとに,箱開け作業時だけの記号を決め,それを書いた付箋紙をはった。

模造紙に, 「どの箱がどの通路(の棚)へ行くか」の情報を大きく書いたものを作り, 段ボール箱を運びこんでもらう部屋に貼りだした。

箱開け作業

次のような作業を,分担してしてもらった。

  1. 段ボール箱には,「和書の A の 2 箱め」のような記号が書いてある。 模造紙の情報を見て,どの通路へ行くかを,箱に書く。
  2. 箱をその通路へ持ってゆく。 棚には,その箱の本をどこから並べるかが付箋紙で示されている。 そこから,本を並べる。(付箋紙はそのままにしてもらった。)
  3. 空になった箱を分解してたたみ,積み上げる。

すべての箱開けが終わったあと,図書事務担当者は, ほぼすべての本の位置を微調整し, 各棚には,本が左端から並ぶようにしてくださった。

最後に

以上の作業にあたっては,スタッフのみなさんのご協力をいただいた。 また,ほとんど無償で,学生諸君の力をお借りした。 卒業生のかたで,無償で手伝ってくださったかたもおられた。

あらためて,深く感謝します。


岩瀬順一 (IWASE Zjuñici)