「決めた」 うんとうなずくと、伸は早速起こしにかかった。 「当麻っ、こら起きろ」 ゆさゆさとゆさぶる。 名を呼んだところでうーんと当麻が身動きした。その動作に起きるかと思われた当麻は、しかしいきなり腕を伸ばすと伸の手のひらをがっしりと掴んでいた。 えっと思う間もなく、ずるずるとベッドの中に引きずり込まれる。更にその上、逃げられないようにか腕を回され身体を拘束されてしまった。 あまりにも突然のことで、なされるがままになっていた伸は、突然はっと我に返った。こんな事をしている暇はないのであった。 すぐに抵抗しようと身構えた伸は、けれども直後に耳に飛び込んできた声に、思わず動きを止めていた。 聞こえた声は、ほんのかすかなささやき程度のもので。 耳をすましていなければ、聞き逃していた程度の声。 けれどそれでも、伸の耳は間違いなくその言葉をとらえていて。 「とうま?」 実は起きているのではなかろうかと半信半疑で顔を覗き込んだが、当の当麻は、すやすやと本当に気持ちよく眠りこけていた。目覚める気配は全くない。 「…………」 よくよく覗き込んでみれば、瞼の閉じたその寝顔はとても幸せそうで。 「一体、どんな夢を見ているのだか」 伸と名を呼んだ、もしかしなくても自分の夢を見ているのか。 当麻の夢の中にまで出没する、もう一人の自分。 なんだか起こすのがもったいないように気がしてきた。 ちらりと窓の外を見やれば、晴天の青空。側には当麻の寝顔。 閉じられた瞳。長い睫。さらさらな前髪。黙っていればそれなりの、当麻の無防備な表情。 回されていた腕を離して起き出そうとして、やめた。そのままベッドの中に身を横たえる。 思い出してみれば、今日は朝早かったし、掃除と洗濯で体を動かしもした。疲れていると言えなくもない。 「いつもはこんなことはしないんだけれどね」 あれこれ理由を呟いて、ふとそんな自分に気づいて苦笑が漏れた。つくづく、自分は素直に出来ていないようだ。けれどもそれもまた自分であるには違いない。 隣に眠るのは当麻。当麻の部屋で当麻のベッドの上、当麻の布団に包まれて、伸は眠りについた。 ――たまにはこんな日もあったって良いかもしれない。 ある日の日曜日のことだった。 あとがきへ |