λ/4長同軸ケーブルによる共振トラップ

 共振には・・・
@集中定数(LC)共振・・・いわゆるコイルとコンデンサによるωL=1/ωCの世界
A線路共振・・・経路長や同軸長による共振(HFアンプでもV/UHF帯の線路共振がある)
B空洞共振・・・空洞内で起こる共振(主にマイクロウェーブ)
・・・があるが更に・・・
C上記が絡み合う共振・・・実装するとこの状態に至る場合が多い
・・・がある事を高周波を取り扱う場合は心得ておく必要がある。

 共振周波数は、それぞれを分布定数回路として考察すれば克明に解析できる。しかしHF以下の比較的低い周波数では、単純にLとCの集中定数回路として捉えてしまう場合が殆どであろう。実はこれだけでは片手落ちなのである。
 V/UHF帯域になると目的周波数で共振が得られなかったり、思いもよらぬ周波数で共振したりする。例えばVCを入れ(静電容量増化)共振周波数を下げようとしても下がらず、逆に上がったりすることも100MHz以上の世界では良く体験する。またリニアアンプでは、目的以外のとんでもない周波数で寄生発振したり自己発振する場合がある。
 これらは集中定数回路として見ている限り原因の究明は遠いだろう。回路図だけでは実装時の経路長を把握する事は非常に難しい。集中定数以外の共振の可能性について、また分布定数的な視点がないと解決に至らない課題と言える。
 実は、殆どの実装回路で前術の@とAが同時に存在している。集中定数共振の感覚に線路共振を加味した感覚を持ち続ける事が大切である。この感覚があれば前述の不可解な現象について理解の糸口につながるはずである。
 ・・・余談だが、VHF-PAで真空管の出力静電容量の多さに手を焼いている場合は、積極的に線路共振を取り入れ目的を果たす事が出来る。

 さて講釈が長くなったが、ここでは「λ/4同軸ケーブル」の持つ共振特性を利用して高調波トラップを作ってみた。大雑把なイメージとして、λ/4線路は先端を短絡するとZ=∞、開放ならZ=0の値をとる。周波数が倍になるとその状況は反転していくので、例えば145MHzでZ=∞の線路は、倍の290MHzではZ=0となる。この現象は倍・倍で繰り返されるので、偶数倍と奇数倍で以下の如く変化する。
     1倍=145MHz・・・∞    5倍=725MHz・・・∞    9倍=1305MHz・・・∞
     2倍=290MHz・・・0     6倍=870MHz・・・0          ・
     3倍=435MHz・・・∞    7倍=1015MHz・・・∞         ・
     4倍=580MHz・・・0     8倍=1160MHz・・・0          ・
 この場合0になる周波数でトラップ効果を得る事が出来る。なお先端開放の同軸ケーブルの場合は∞と0が反転する。但し先端開放では高周波の漏れがあるため先端短絡で使用する場合が殆どである。
 なお同軸ケーブルは誘電体を使用するので速度係数がある。実長は算出したλ/4長に係数(ポリエチレン同軸なら0.67)を掛けた長さになる。

 例えば145MHzならl=(λ/4)・0.67=(300/145x4)・0.67=0.346m。写真は8D-2Wで製作した144MHzバンドに使用する2倍の高調波トラップとその特性試験中のスナップ。
 NJ-NPx2のT型分岐に、NPコネクタで製作したトラップを取り付けている。トラップの先端は、同軸網線を解し円周上から芯線に集中させハンダを流す。このときRFが漏れないように慎重に行なう。
 これだけでもPA単体で除去できなかった高調波の抑圧に効果がある。抑圧された高調波はリターン回路に流れ込むのでコモンモード輻射はこの限りではないので注意。

参考@:任意長l(m)の先端ショート線路のZs・・・
     Zs = jZc・tanβl (Zc:線路特性インピーダンス、l:線路長、β:2π/λ)
       = jZc・tan(2π/λ)・(λ/2)・・・l=(λ/2)は2倍周波数での長さ
       = jZc・tanπ
       = jZc・0
       = 0(Ω)

参考A:λ/4線路の入力側から先端(短絡)までのインピーダンスは∞⇔0をとるので、並列共振特性を持ったインピーダンス変換(トラ
     ンス)としても活用できる。なおλ/2線路では0⇔∞⇔0をとり直列共振として利用できる。
     また先端開放の場合はこれらの逆の値をとる。



 上は145MHz(CW)を放り込んだ時のスペアナ写真で、左がSG出力、右がトラップを取り付けた状態のもの。トラップの効果により、2次高調波(290MHz)で約-34dB、4次高調波(580MHz)ではノイズレベルまで減衰している。但し3次高調波(435MHz)については理論通り効果が無いことが分る。
 なお前述の如く、あくまでノーマルモードでの状況なので、抑圧されてリターン回路を戻る信号については筐体輻射の要因となり、コモンモードノイズとして輻射される可能性がある。この場合はトラップ直後にコモンモードフィルターの挿入が必要になる。