リニアアンプの違いによる筐体(コモンモード)輻射の違いをみる・・・(Jul 9, 2006)

50MHz/1KW申請をIC-PW1(含HF)とGU-84B自作リニアアンプで行い変更検査に合格した。
検査に至る段階で両リニアアンプの筐体輻射量に違いを感じたので、やや私的な方法ではあるが測定を行いデータを取ったので簡単に紹介する。
なおそのきっかけは、シールド型ダミーロード(BIRD 8890-300)で50.25MHz/CW/1KW送信にてTV-9chに発生するビート量が、GU-84Bでは確認できないレベルなのに対し、IC-PW1は素人でも分かるレベルであった事に端を発する。またIC-PW1はエキサイタ出力を通過させるだけでも発生し、アンプを生かしてもそれ程大きな変化は無かった。更にIC-PW1の4つの出力で、その出方が若干だが異なるようにも思えた。

自宅はケーブル共聴受信で、TV-9chの受信状況は写真が示す通り映像キャリアで-40dBmを示し非常に良好である。受信所はアンテナタワーから南南東に約250mで、日本平タワーが見通しの位置にある。

写真・・・左か1ch/3ch/ポケベル/5ch/7ch/9ch/11ch・・・9ch/11chはスルー、1ch/3ch/7chはUHFからの変換、4chはVHF2chからの変換。
そこでシャック内に1m長のダイポールアンテナをPA向きに1mの位置に張り、50.25MHz/CWでダミーロードにて筐体やアース回路等が発する高周波の様子をスペアナで拾い上げた。

IC-PW1とGU-84Bの筐体輻射比較

写真左はIC-PW1・・・1KW出力時の様子を示している。スパン500MHzで1Divが50MHzである。表示波形の一番左が基本波50MHzであるが、ダミーロードに封じ込めたつもりでも約-12dBmもの電力を測定アンテナに誘起していて驚く。
基本波の右が2倍(100MHz)で一番右は10倍(500MHz)になる。2次はIC-PW1が6dB程度勝っているが、他はGU-84B(3次6dB、4次18dB、5次11dB、6次17dB、7次以降はノイズ)が圧倒的に勝っている。IC-PW1は高次になっても意外と高いレベルで輻射がある事が分かる。なお間に見える成分はシャック内の他の設備からの飛び込みと考えられる。
ちなみにこの状態からアンテナ(23.5m高HB9CV)に替えると基本波の表示は突き抜け大きくスケールアウトするが他は殆ど変わらない。

実はこれらのレベルがTVに飛び込む訳ではなく、受信設備、主にここではTV受像機や受信同軸フィーダーに浴びせられ、最終的にTV受像機がどれだけノーマル及びコモンモード侵入を許すかにかかっている。そして前述の受信レベルとのD/U比(Desired/Undesired)が最終的に満足されればTVIには至らないのである。TV受信アンテナが最寄にあればノーマル系でもろに影響を受けるだろうし、TV受像機のシールド側からのコモン系の侵入やフロントエンドのシールド不足等によるノーマル系・コモン系どちらとも言えない侵入も考えられる。

写真右はGU-84B・・・1KW出力時の様子を示している。上記のIC-PW1に比べ4倍で約18dB低い。この数字は圧倒的でTV-9chへの障害を全く感じない理由はここにあると考えられる。ちなみにGU-84Bアンプは1KW付近のCW出力が最大出力になるようにプレートとロードチューンを行い、パワーコントローラー(ALC)で出力設定し、更に微調チューンしたものである。

TV周波数と送信周波数の関係・・・TV-9chの映像キャリアは199.25MHzだから、50.25MHzは4倍の201MHzとは201-199.25=0.75MHzのビートを発生させる。0.75MHzのビートはNTSCが取り扱う映像帯域(DC〜4.2MHz)の只中にあり、周波数が動かなければ映像縞となって画面に現れる。因みに0.75MHzは周期=1/0.75MHz=1.33μsとなる。NTSCでは走査線1本当り約63.5μsであるが、水平ブランキング時間約11μsを減じた有効画像部分は約52.5μsとなる。したがって52.5/1.33=39.4・・・操作線1本当たりに約39.4個のドットが発生する。これは画面にすると39.4本の縦縞(斜縞)が発生する事になる。一方、指定周波数の52MHzだと、ビート周波数が208-199.25=8.75MHzになり映像帯域に落ちないのでビートとして感じることは無い。このビートが何処に落ちるかで単なる映像ビートになったりカラービートになったり全く分からなかったりする。特にカラー信号は3.58MHzの抑圧サブキャリアで伝送しているので、ここがやられると色が着かなくなったり、色相が回ったりする。また音声キャリアは映像より4.5MHz(FM)高い位置にあるが、同期周波数や映像サブキャリア周波数と一定の関係にありビートが発生しないよう考慮されている。と言うより、カラーTVは白黒TVとの互換性を保つために、音声サブキャリアはそのままにして同期周波数とカラーサブキャリア周波数の決定を行った経緯がある。
なお映像変調波は映像成分(輝度・色)の他に同期信号成分(水平15.73KHz・垂直59.94Hz)で振幅変調されているので、実際には更に複雑な組み合わせになる。同期信号・映像サブキャリア・音声キャリア間には巧妙に仕込まれた一定の関係があり、ビートが映像の中に落ちないように考えられている。

図はシステムの系統・接続状況・・・上記データはこの条件にて測定したものである。GU-84BのCMF群の軽装さに比べ、IC-PW1はそれなりの量で対策している。それでも結果は前述の写真やTV受信状況が示す通りGU-84Bに軍配である。また図ではACライン(200V)には触れていないが、IC-PW1はメーカー指定(付属品)のフェライトビーズ2個と電源ケーブルの余長をボビンに巻き込みコイル(≒9μH)としている。GU-84Bは内臓のフィルタのみに依存している。
注意:このテストはオーナーのシャック(システム)上で比較したもので、装置単体のデータではありません。他局で行った場合同様に再現される保障はありませんのでご注意下さい。

まとめ・・・TVI対策のポイントは。
@コモンモード輻射(ダミーロード)のスペクトラムとレベル把握(エキサイタ単体動作も含む)
Aノーマルモード輻射(アンテナ)のスペクトラムとレベル把握(エキサイタ単体動作も含む)
BTV受信電界レベルと妨害波レベル(D/U比)の把握
CTV受像機の能力把握(コモンモード侵入排除能力・シールドなど)
高調波の筐体輻射がノーマル輻射より大きくなる理由は、装置でLPF処理等して逃がすのはシャシや筐体だから。阻止されノーマル出力されない高調波等の不要成分がシャシや筐体を駆動しているから。最後はTVIの話になってしまった・・・でもこうした解説は参考になると思うが如何だろうか。

参考資料
@某メーカー製コモンモードフィルタ(チョーク)の疑問
ACMF(Common Mode Filter/Choke)効果の実測例