C-MOS ANALOG-SW "4066"を使った汎用DBMの試作

四半世紀前の1980年頃、C-MOSデバイスでアナログスイッチの4066を使用してCorwin型の変復調器を作った事がある。HFジェネカバの受信機を製作中に、ふとミキサーとして使えるのではと思った。一般のダイオード4個を使用したリング変復調器では、ダイオードにRFとLO信号を加えLO信号の正負でダイオードを切替えて、RF信号の流れる方向性をスイッチするものである。したがってダイオードの切替特性はLO信号の「波形とレベル」に依存する。またRFとLOがダイオード内で混在するため、切替以外の混合が行われる可能性があり、余り気持ち良くない。そこでLO信号をゲート制御信号として扱ったアナログスイッチへの期待がわいて来た。LO信号を矩形波に変換してスイッチを制御するため、急峻な切替が可能で、またRFとLOの直接接触はなくなる。

(1)構 成
入力トランスはFB-801(#43材)にトリファイラ(L1/L2/L3)で5回巻く。L1は独立させ入力コイルとし、L2/L3はトーテムポールに接続し、接続点を基準に正負のRF信号をアナログスイッチに導く。こ
こではアナログスイッチは2系統とするが、通過ロスを低減する為に2個並列接続している。出力側は並列接続しIF出力とする。LO入力はEx-ROゲート74HC86を使用し、その特徴を生かして切り替えタイミングの一致しかつ位相反転した正・負出力を得る。インバータで簡単に反転する方法もあるが、この場合はインバーター固有の遅延時間がそのまま切り替え時間の遅れとなるのでハイフレでは好ましくない。正・負出力によりアナログスイッチ74HC4066のゲートを駆動する。
電源は74HCシリーズの場合は6Vまで保障されているが、TTLとの互換を考慮し5Vとした。

トランスと74HC4066/74HC864はユニバーサル基板に組みアルミダイキャストケースに収める。RF/LO/IFポートはBNCコネクタで入出力する。電源はDCジャックより供給する。電源ルートにはバイパスやLFP回路を設け外部と高周波的な絶縁を行う。


(2)製 作
写真上はFB-801にトリファイラで巻いたトランス。線材は0.26mmUEW(ポリウレタン線)。左は5回巻きで右は4回巻き。最低周波数にインダクタンスが影響するので、目的周波数に合わせた巻き数が必要である。
写真下はTAKACHのアルミダイキャストケースTD-6-3-Nを加工しBNCコネクタ3個とDCジャック1個を取り付けた様子。DCジャックはLOポートの反対側に取り付けたが、LOポートと同一方向にした方が基板の出し入れが容易。
回路図中の可変抵抗器は、RF入力がIFに漏れ込む量を最小に調整するVR。回路上に発生するストレー容量の影響があり、広帯域な特性を得るのはなかなか難しい。
LO入力に巻数比1:3の伝送線路トランスを挿入しステップアップを図り、入力SWRが下がるように50x3x3=450Ωで終端している。ここでは電力は全く必要ないので電源電圧相当以上にステップアップしスイッチングに必要なレベルを稼ぐ。
ICを組み込んだ基板は裏向きに実装されている。基板上の配線は実装前に済ませ、実装後トランス等の配線を行う。なおこのVerにはバランス調整は無い。相手は高周波なのでアース回路で共通インピーダンスを持たないように配線する。




(3)発展形
4066には元々4個のアナログSW素子が内蔵されている。これをダイオードのリング変復調機のように接続したミキサを考えてみる。
図はダイオード4個をアナログSWに置き換えた様子である。ドライブはEx-ORゲートによる駆動回路である。ダイオード方式のように、スイッチング経路と信号経路が重畳しないので回路もシンプルで、特にトランスにはセンタータップは必要としない。
平衡度はアナログスイッチのオン抵抗に依存するのでバラツキの無いデバイスを選択するか、微調整用のVRやR(SWに直列)を必要とする。オン抵抗は供給する電圧や周辺の温度にも依存するので、その影響が平衡度にどの程度影響を与えるかを把握する必要がある。
安定はそこそこでチャンピオンデータを狙う場合と、平衡度は落ちるが安定度を狙う場合とで作り方が変わってくる。
入出力トランスは1:1:1のトリファイラで巻き、巻き数比1:2のトランスを作ればZ比は1:4でスイッチ側は50x4=200Ωの回路が構成できる。SW素子のオン抵抗を50Ω程度に見込めば2個で100Ωとなり200/100+200=2/3=67%程度のレベルで(他のロスは無視)で構成出来る。巻き数比を1:3にしてZ比を1:9にすれば更にレベル低下は抑えられるが、今度は周波数特性が問題になってくる。


(4)まとめ
当初4066からDCオフセットが出るかと思いIF出力側にDCブロック用のセラミックコンデンサを挿入していたが、テスタで図ると全くオフセットは無いため省略した。またIFポートの終端抵抗も撤去して必要最小限の構成とした。
DBMの特徴として素通り信号の抑圧がある。すなわちRFやLOポートから入力された信号がIFポートに出て来ないのがベストであるが、作りっ放しでは中々そうはならない。現状での抑圧量を測定すると約-40dB程度である。ちなみにMinicircuits社のADE-1はRFポートが-53dB、LOポートが-60dB(at3MHz)である。
Ex-ORゲートの使用で正・負の切り替えが良好に行われているが、デューティ比が50%になっていない。なぜならLO入力正弦波を単純に74HCゲートで受けているからである。本来ならコンパレータ等によりデューティ比50%の矩形波にしたいところである。
またスイッチデバイスを2個並列にしてオン抵抗の低下を狙っているが、元々一定の抵抗値を持っているため通過ロスが発生している。Minicircuts社のADE-1に比べ3dB程度多い。トランスの巻線は1:1:1だが、2次側を更に高いインピーダンスに設定してオン抵抗の影響を回避する手もある。この場合はIF側にステップダウントランスが必要になる。
C-MOSデバイスで構成されているためと推測されるが、電源を切ってもミキシング動作が行われ周波数変換され興味を引く。これは電源ラインとGND間に抵抗を挿入し放電ルートを作る事で解決する。またドライブゲートであるEX-ORを74LS86等のTTLに変更すればこの現象は無くなるものと思われる。

(5)参考・・・Isolation測定
手元にあるDBMのIsolationを測定してみた。測定はRFポートからIFポート、及びLOポートからIFポートに漏れ出すレベルについてのみ測定した(無入力ポートは50Ωで終端)。
サンプルはMinicircuitsのADE-1、TDKのCB3034M、それに自作の74HC4066DMBで、測定は約3MHzで+7dBmのCWをRFとLOポートに注入しIFポートをスペアナで観測した。注入周波数を約3MHzとした理由は、この周波数をLOとして3.5MHz帯をIF=455KHzに変換して聞いているからそのまま流用しただけ。
表に結果をまとめた。アイソレーションについてのみで見るなら、自作の74HC4066DBMは、通過ロス分を差し引いてもトップの成績である。但し広帯域にどれだけ対応しているかは未測定。