直流重畳音声ラインからの直流と音声の分離


オーディオの世界には直流電源をオーディオに重畳して伝送する仕掛けが存在する。家庭に引き込まれている電話線はその最たるものである。電話器を動作させるための電源は、電話局につながっている2本(2Wires)の電線で供給されるが、オーディオ信号の送受も同じ電線を使用している。
TVの共聴システムやBS/CS受信機のアンテナLNBとチューナー間にも同様な方式がある。しかしこれらは同軸ケーブルが伝送の媒体として使用されるので電源の極性判別(芯線:プラス、シールド:マイナス)が容易である。ところが、平衡伝送を行う線路ではどちらがプラスかマイナスか分からなくなる場合があるためちょっとした工夫が必要である。
図はこうした課題に対応した回路で、直流電源とオーディ信号が重畳されたラインから直流とオーディオを分離、かつ直流出力はライン側の直流極性に依存していない。この回路の特徴は、入力側にダイオードブリッジが挿入されている点である。交流的に考えるとオーディオ信号を整流してしまうようにも見えるが実は違う。ダイオードはL1/L2の直流極性が違っても、常に直流出力の極性を一定に保つためのものである。心配なオーディオ信号は直流により導通状態になったダイオードを通り、コンデンサで直流阻止されて出力される。ダイオードには十分な直流バイアスを与えることで、音声信号の振幅でカットオフになることはない。
CH1/2及びC1はオーディ信号を阻止し直流分のみを取り出す平滑回路(LPF)である。またC2/3からは直流を阻止してオーディオ信号を取り出す。CH1/2はオーディオ信号に対して十分なインダクタンス(例えば最低信号周波数でラインインピーダンス以上の値)を与える。またC2/3はオーディオ周波数に対して十分低いリアクタンスとなる値(例えば最低信号周波数で負荷抵抗以下の値)に設定する。
余談だが、1960年代の電話器は600型に代表されるカーボンマイクとマグネチックレシーバーを使用した物であった。電話局からの直流は受話器を上げたときに回線保持処理とカーボンマイクのバイアス電源として使用されていただけで、オーディアンプ等は存在しなかった。電話器の構造や音声有線通信の原理を知る上で最高の題材だった。とにかく乾電池と600型電話機で離れたところと会話できたのであるから・・・。