インバータ発電機EG-2600のノイズ対策(Sep 22. 2019)
はじめに
拙作リモート無線局の主要電源として活躍している発電機EG-2600(中華製)は、採用から3年半になろうとしているが好調に動いている。初期バージョンは始動性に問題があったが、2018年5月に交換投入した現用機は、ほぼ完ぺきに改善され夏冬通してほぼ1発起動を果たしている(1発目不調でも2発目には必ず起動)。ところが、当初は起動にばかり目が行っていたが、それが解決すると発電機自身の発生するインバータノイズが気になる様になった。初期号機はアルミダイキャスト箱にインバータ基板が納められ、見るからに完全密閉でそれなりに良好だった。ところが現用機になると、バンド内がやけにノイジィで、IC-7300のウォーターフォールで見ると50MHzを除く全バンドで20KHzおきにノイズが混入(縦筋になる)している。ノイズはシングルトーンではなく、グジュグジュと変調音を伴っていた。AMともFMとも思え、基本波にリップルが乗ったものが逓倍されている感じの音だ。快適な通信など程遠い状況だった。ノイズのレベルは所定のアンテナ(下記参照)でS9前後だが21MHzが特に酷くS9overを振っていた。
この状況は、2019年9月中旬までに一定の解決を見たので、その調査と対策について以下にまとめてみた。

一時は非インバータ発電機かディーゼル発電機も視野に入れ検討を始めていたが、ひとまず現在の発電システムを継続することとした。
なお初期段階のウォーターフォール画像に一貫性が無いが、定量把握をする必要性を途中から感じて始めた結果で、ご了解頂きたい。
写真左上はEG-2600設置当初のスナップ。上段は40リットル燃料タンク。写真右はフィルター処理の限界を感じ、試みに導電クロスで覆ってみたEG-2600。このクロスの効果は絶大だった。

参考サイト RemoteShackぼちぼちと…拙作BBS(本ページはこのBBSの抜粋)

ここで使用している無線設備環境
トランシーバ:IC-7300、アンテナ:1.9〜7MHz/Windom(N-S)・10MHz/HB9CV・14〜28MHz/HexBeam・50MHz/HB9CV、発電機:EG-2600インバータ、太陽光発電:120Wx2面(南東面・南西面)、風力発電:300W、バッテリ:12V/150Ax2式、充電機:13.8V/60A、 タワーKT-22R、標高:375m、ネット:5GHz(W56)無線LAN、カメラ:富士山カメラ(IP)・収容箱カメラ(USB)、サーバーPC:CF-J9。

インバータノイズの現状
画像は2018年5月24日7時半、IC-7300を7.1MHzに合わせた時のウォーターホール画面。
7.1MHzを中心に上下100KHzを表示している。20KHz置きに強烈なインバータノイズが確認できる。
利得はノーマル(PreAmpOFF)だが、ノイズはS9+を振っている。
これは発電機出力を凡そ1.5m送電し、無線機設備収容箱でPanasonicのLPF(EUL-NGB30Z)で受けている。
アンテナは80m長のWindom。他のHFバンドについても概ねこの様な状況にあり、安定な通信は望めない。
ちなみに、EG-2600の初期号機(始動性が悪く交換)は、インバータ基板がアルミダイキャストケースで完全密閉され、これ程酷くはなかった。この後継機はインバータ基板がむき出しで、部品面が黒くピッチ詰めされているだけ。国内ディーラーへは、バンドスコープの画像を含めたノイズ状況を「苦情」として報告しているが、改善は図られていない。

ノイズの侵入ルートは…
@発電機受電(電源)からか、エア(電波)からか
受信入力を終端(又はアンテナ切り離し)するとノイズが無くなる。
これにより、空中へ電波として輻射されたノイズを受信していることを確認。
機器収容箱の受電端はLPF(Panasonic)受け。
画像下は2019年3月31日、7.1MHz受信時のウォーターフォール。一般の信号の背景に20KHzおきに連続したノイズを確認できる。
画像上は、その状態からアンテナ端子をダミー終端させた様子。ノイズ信号が全く確認できない。
インバータノイズの侵入はエア伝搬によるものと判明。

A発電機の遠ざかりテスト
タワー直下からおよそ45m北東方向・10m下降した位置へ移動。
送電線はVVFケーブルを2本並列接続し、地表を張った。
これによりこれまで発電機-機器収容箱間が1m程度だったのが一気に45mになった。このため電圧降下を想定し100V送電を200V送電に変更。
全体にノイズレベルの低下は確認できるが、まったく不十分。
試みに送電線を2.5m程度の架空に変更するとノイズは当初(タワー直下の発電機)の状態に戻ってしまった。
これにより、送電線がアンテナとして動作している事が明らかになった。また発電機と送電線が高周波的に結合しインバータノイズとして輻射していることも明らかになった。 試しに受信機(IC-7300)を電池駆動にして、発電機側の送電ケーブルを外すとノイズは見事に激減し問題無いレベルに低下する。 当面送電線への漏れを減衰させる対策を行い、その後発電機固有の輻射を抑える方向で対策を行うこととした。

B受電端のLPF(Panasonic)を発電機出力へ挿入
発電機アース端子を地線(キウイフルーツ棚に使用のオニヨリ線が地上に落ち地中に埋まったもの)に結ぶ。
LPFの挿入で余り変化がない。
後方は鎌田信号機の3KVAオートトランス。これで200Vに昇圧して送電。
接地によりインバータノイズがどの程度軽減されているかは未確認。山頂に斜面のヒノ木林に50〜70m四方に張られ、自然に大地に埋まったオニヨリ線は魅力で、タワーや無線設備もこれに接続されている。
下は、オニヨリ線へボルコン代わりにステンレス製ワイヤークリップを使いリード線をつないでいる様子。



C発電機出力へLPF(TDK)を追加挿入
Panasonic(EUL-NGB30Z)+TDK(ZCW2220-01)の2台体制。 若干の変化があるが、劇的ではない。
LPFのアースはCMFでフロート。両LPFの電気的特性は見確認。

D絶縁トランス挿入
Panasonic+TDK+絶縁トランスの体制。
一定の効果は確認できるが21と24がまだまだ不十分。


E発電機出力へLPF(COSEL/NBC-30-472)を追加挿入
Panasonic+TDK+COSELの3台体制。
一定の改善が確認できるが21と24がまだ不十分。
他のバンドは相当改善。
下はCOSELのNCB-30-47。1個でπ型2段構成で、ノーマルモード・コモンモードに対応する。



F発電機出力へLPF(COSEL)2個追加挿入
Panasonic+TDK+COSELx3の5台体制。 21MHzで確認できるが、全体に改善が認められる。
送電線へ漏れ出すノイズ成分の処理は既に限界にきている模様。


G発電機出力フィルタをCOSEL3段とする
PanasonicとTDKを撤去しても、変化が認められないのでCOSELの3台体制とした。
送電線へ流れ出して輻射するルートが抑え込めれられ、他の要件やルートによる輻射が支配的になってきている模様。


H非インバータ発電機(HONDA ET4500/3相200V/オープン型)をタワー直下で起動
非インバータ発電機を使ったらどうなるか興味がありテスト。
結果は大変良好で、非インバータ発電機ならタワー直下でも使えることを確認。
出力LPF、受電LPF無しの直給電。ウォーターフォール画像はEG-2600とET4500を比較しています。クリックで拡大します。



IEG-2600を導電クロスで覆う
実は調査の序盤で、トタン箱を被せたことがある。その時は全体にノイズフロアが高く明確な変化が確認できなかった。
現在は相応の改善が行われており、異なるスタイルでの対策として導電クロスをEG-2600に密着して被せてみた。吸排気面は解放、底面は半解放、他はすべて遮蔽されている。クロスはEG-2600アース端子へつないでいる。
ダメ元行ったテストだが、思いのほか効果があり、発電機出力へ挿入するLPFの増加では改善が見られない状況が突破できている。
更に慎重に、可能な限りの面を包み込めば更なる改善が望めるのでは…。ウォーターフォールはクリックで拡大します。



J絶縁トランスをスルーする
絶縁トランスの効果(結合容量約400PF)について定量的なデータがなかったので試に外してみた。
画像は最後まで悩ませた21MHz帯の様子を事前・事後でキャプチャしたもの。10月2日13時過ぎ、IC-7300をローカル操作してディスプレイ画像を撮ったもの。画像クリックで拡大します。
上が撤去前で下が撤去後。PreAmpはフルゲインの2を選択、アンテナはHexBeam南向き。20KHz毎のインバータノイズは何れも確認できず、両者間に違いは認められない。
これにより絶縁トランスはこのまま撤去することにした。
下は同日14時頃、RS-BA1のバンドスコープでキャプチャしたマルチバンドの様子。良く見ると、18/25MHz辺りで20KHz毎のノイズが薄く感じられる。これトランススルーの影響か?。



KHの結果から、EG-2600を再びタワー直下に置いたらどうなるか
前項の結果から、遠ざけていたEG-2600を今のフィルタ群でタワー直下で使ったらどうなるか興味が沸いた。
45mの送電は、燃料の搬送や送電ロスで課題があり、タワー直下ならクリアできるからだ。
また、LFP〜オートトランス間に挿入した絶縁トランスの効果についても確認し、変化が無ければ撤去したい。


最大利得(PreAmp2)でのデータ
図はRS-BA1でIC-7300(PreAmp2、フルゲイン)をリモートした時のバンドスコープとウォーターフォール画像をキャプチャしたもの。
10秒毎にバンドを切り替え、ウォーターフォールを1.9MHz〜50MHzまでの10バンドを一つの画面で表示している。
フルゲインにしても20KHz毎に発生していたノイズの筋は殆ど分からない。

最大利得での各バンド画像

1.9MHz


3.5MHz


7MHz


10MHz


14MHz


18MHz


21MHz


24MHz


28MHz


50MHz



今後の方向
EG-2600はドリームリンクが国内販売する中華製発電機である。始動性が改善され、無線によるリモート制御も可能で、インバータノイズはあるものの使いやすい発電機と言える。ただ容量的には2.6KVAで、出力1KW無線局を安定に維持するにチョッと荷が重い。待機燃料を抑えるためにエコモードで運用しているが、いきなり1KW出力の送信(CWやFM)をすると、発電機が低回転から高回転に変わるが発生電力が追いつかない場合がある。また負荷不整合等で過大な電力が必要なときオーバーロードアラームが発生することがある。マニュアルでは2.6KVA(実力は2.8KVA)とあるが、他社製品と比べてどうなのか興味がある。
燃料消費を気にせずに安定な1KW局を維持するには、感覚的に3.5KVA以上の出力容量が欲しい。また非インバータのガソリン発電機か、究極はディーゼル発電機が理想だろう。ただ、そこまで経費を掛けるのなら、多少の出費は覚悟の上で最初から電力会社へ配電を依頼し耐雷トランス受けした方が、長期的に見たら安上がりかも知れない。
アマチュア無線の場合は経費だけの文化ではなく、無線と実験をはじめとする自己研究や自己研鑽の文化もあるので、どちらが良いかとする判断は難しい。根っからのアマチュア無線家なので…。
写真は、一時視野に入れていたKIPOR社のディーゼル発電機KDE3.3E。60Hzで100V/3.3KVAの出力を誇り、始動はセルまたはリコイル。国内ではパワーテック社が取り扱っている模様で、総合カタログを見ることができる。オープン型だが、容量的にはこれ位で良いと思っている。ノイズと軽油によるランニングコスト低減が期待できる。