Watkins Johnson HF-1000A修理日記(2011.11.26〜12.04)
10月末、大阪在住の後輩からWatkins JohnsonHF-1000Aを診て欲しいと電話連絡があった。二つ返事でOKするとしばらく経った11月8日、大きなダンボール箱が届いた。さぞかし重たかろうと力を入れて持ち上げるとカスカス。予想に反し重量は空とも思える重さで拍子抜けだった。フロントパネルの重厚さからはまったく想像がつかない。
依頼主からのメールには以下の内容が記してあった。
1.感度が低下していないか?
2.プリアンプONでRFのゲインが極端に低下する場合がある
3.アッテネータは10dB落の筈がもっと落ちている

早々に電源を入れ状況を確認すると・・・。
1.NORMALゲイン時では問題なく良好
2.極端なゲイン低下はみられなかったが、PreAmpで利得が上がる気配が無く、無入力時のホワイトノイズにバリバリ音が混入し異常
3.ATTの減衰量はSメーター表示で55dB程度あり異常

と言う事で依頼主からの症状とは若干の違いがあった。

2.については印加電圧は正常で発熱も無いためプリアンプTrのQ23(BFQ19)を疑い11月16日RS ONLINEへ発注。3.についてはダイオードスイッチのダイオードかATTの構成部品が悪いだろう位に考え、とりあえずTrの到着を待った。
11月24日Trが到着。どうやらUKからの発送のようだ。
翌25日の22時過ぎから深夜の交換作業が始まった。Trを交換するのだが相手はチップ部品、視力の低下や指先の振るえなどあり作業にかつてのスムーズさが無い。おまけに半田ゴテは通常サイズでシールド箱の基板面を上方から突っつく。狭いので指先を軽く火傷したり・・・。取り外し作業中に誤って半田が溶け切らない内にTrを動かしたら細いプリントパターンが切れた。苦肉の策でTrに細い単線を沿えて半田付けを行う。これで恐る恐る電源を入れしばらくするとスピーカーからホワイトノイズ。半ば祈りながらPREAMP/NORMAL/ATTスイッチを切替えるとホワイトノイズレベルが程よく低下していく・・・やったぁ!。続いてアンテナ(3.5/1.9MHzデュアルバンドInvVee)をつなぎJOPKを受信すると約30dBm振りSユニットだと9+40dB程だ。全く問題ない。このキカイはPREAMP/NORMAL/ATTを切替えてもSメーターの振れは変わらない仕様とここで初めて認識。
これに気を良くして3.のATTの様子を再確認。ダイオードスイッチ用のBIASがダイオードに掛かっている事を確認。にも関わらず減衰量が異常に高い。続いてワニ口リードをアンテナ代わりにしてATT前後のダイオードスイッチに当てる。この作業をミキサー側(ATTの出力側)からアンテナ方向に向かって行う。普通は何らかの信号を出力するがダイオードスイッチが不良(OFF)だとその前後で状況が大きく変わる。これによりATTの入力側のCR20(FDSO-1503)の動作不良を確認。生憎チップ部品のダイオードなど持ち合わせが無く、手持ちのガラス封入のスイッチングダイオード(1S953)をCR20に並列につなぎ凌ぐ事になった。

その後11月27日午後、一定の動作テストを経て依頼主のもとへ旅立った・・・と記したかったが、そうは問屋が卸さなかった。
その日、受け取った当初に確認されたバリバリノイズが再発。プリアンプTrか?と思い再びBFQ19を交換するが変化無し。
それも出たり出なかったりするため、依頼人の了解を得て暫く様子を診ることになった。
12月2日、調べるとANT端子(J1)に5.5V前後のDC電圧(開放)が発生している。
正確に記すと4.75V/PREAMP、5.62V/NORMAL、6.02V/ATT。
ダイオードスイッチのバイアス電圧が左図のLPFとDCブロックコンデンサ(C12-14:0.1μFx3)を経由してANT端子に出ていると思えば、まぁ0.3μFならこんなものかと納得する。
しかしバリバリノイズ発生時はそDCレベルがバリバリに同期しパルス状に大きく揺れる。これかぁ!と状況に納得。

さらにANTの負荷状態でそのレベルが変わるから、使うANTで様々な状況を誘発する。またオシロスコープ(1MΩ)でANT端子をあたると、DCにRFノイズが重畳しパルス状にあおられる様子が確認できた。
では一体原因は何・・・。C12-14のコンディション不良と思い基板上の当たりを確認したり、別Cでスルーしたりしているうちに落ち着いてしまった。
オシロスコープの波形もRFノイズとパルス状は無くなりDCレベルとサーマルノイズ成分のみとなった。音声出力もザーノイズのみで非常に良好。
推測だが、ANT端子へ外乱(誘導雷・筐体間電圧)印加があり、DC的にダイオードSWのロード回路経由で接地されるC12-14にストレスが加わり、クリチカルな状態になっていた可能性もある。
これでしばらく様子を見ることにする。

12月3日、終日通電テストを行ったが極めて良好。

12月4日、特に問題が無いと判断。午後大阪への便に乗った。

12月7日、未明に6日受領し良好に動作している旨依頼主から連絡でホッ。


写真上は到着したHF-1000Aの上蓋を取り外した状態で、3.571MHz/SSBのお馴染み局をタヌキワッチしている様子。
HamJournal-No.100号の表紙を飾った1995年頃は、一体どんな受信機なのだろうかと興味津々だったが、中を覗くとアマチュア的な作りで業務用の匂いを余り感じない。
写真中はシャックに置いてJOPKを聞きながら症状の確認している様子。純粋アナログ機のR-390Aや51S-1Bと聞き比べている。私的にはAMの受信音はR-390Aがダントツに好みだ。
写真右は交換したQ23(BFQ19)が中央下方に、CR20(FDSO-1503)に追加したガラス封入のスイッチングダイオードが右上に見える。
Trに添えた苦肉の策の電線が確認できる。半田はやや盛り過ぎた感があり後日もう一度コテを当て直す予定。真夜中の作業のアバウトさを暴露している様で依頼主には申し訳ない。
小振りな筈のダイオードが大きく見える程だから、基板上のチップ部品の小ささが分かるというもの。
下図はHF-1000AのPREAMP/NORMAL/ATTと1stMixer(U28/SD5400CY)等が記された回路。ちなみ同機は1stIF=40〜70MHz、2ndIF=455KHz、3rdIF=25KHz(DSP)。