回路図が無いので比較法で不良箇所発見
発売から四半世紀も過ぎるとまともな回路図が入手できない。しかしアナログの回路なら信号を追って行けば何とかなるものである。おまけに横には正常なLch基板があるので最大の指南書を手にしていると言って良い。
それで次に電源を落としケミコン類のチャージを完全に放電させてから、各部品をテスターで当たって行く。この作業を行って感じた事は抵抗値の大幅な変化、値下がり・値上がりの存在である。普通はケミコンを始めとするコンデンサの容量抜けが圧倒的に障害の原因として多いが、このアンプはむしろ抵抗値の変動の方が気になる。調査の結果オープン(抵抗値=無限大)になった抵抗を3本も発見する事になった。外見だけでは全く異常は認められない。動作しているLchの基板においても、カラーコードを大きく外れた抵抗が幾つもあった。しかし今回は、先ず音を出す事が主たる目的なので、細かい追求や特性追求は別途とした。初期の性能を回復するのであればCR類の全数交換が必要と思われる。
写真はオープンになった抵抗にワニ口リードをつなぎ、外部に正常値の抵抗を接続する事で動作確認をしている様子。写真では2個の抵抗を対象にしているが、実はこの後抵抗を交換して基板を実装したが動作しない。可笑しいと思い再び抵抗値を確認していったところ再び1本オープンとなった抵抗を発見する事になった。結局3本を交換する事で無事回復に至った。
写真はNGだった抵抗3本のうちの2本で、大きさから見て1/4W型に見える。これらは全て同じタイプであった。NGヶ所の番号はR15・R17・R53で、全てオープン(抵抗値無限大)だった。テスターで当たる場合はくれぐれも放電させた状態で、テスターリードを双方向に当てて確認する。周辺回路の状態で真の値を示さない場合が殆どなので、その分を加味してテスターを読む。但し無限大と言うのは明らかに可笑しいので直ぐ判断できる。
他項でも触れているが、このタイプの抵抗は非常に定数変動が多く見られる。カラーコードを読み取って代替の抵抗を用意しても、現在動作している抵抗値とは全く違う場合が多い事が分かった。折をみて全数を所定の抵抗値に交換した方が懸命に思う。何故このような抵抗を選択したか設計者に聞いてみたいところである。四半世紀という長い時間は、物質に様々な変化をもたらすんだと言う事をあらためて認識している。
出力DCオフセットの調整
抵抗を変えた為だと思うが、出力に数VのDC出力が発生していた。オフセット調整VRで約1mV程度に追い込んだ。当然温度特性があるので、一定時間の通電を行い大きな変動が無い事を確認する。
最終テスト・まとめ
最後にプログラムソースを供給し、長時間スピーカーを鳴らし異常が無い事を確認する。
基本的に良く出来たアンプで取り扱いやメンテナンスもやり易い。しかし部品の選定には前述の通り疑問を感じる。特に抵抗については、何かの間違いかと思う程に値がずれている。それも小型の1/4W程度の抵抗にその傾向が多い。まさか抵抗が…という印象が正直なところで、障害箇所の特定に時間を費やしてしまった。普通はコンデンサか半導体デバイスを先ず疑うからだ。
部品についての考え方は、やはり民生器で止むを得ないのだろうか…或いはメーカーさんは最初から知っていたが、まさかこんなに長く使われるとは思っていなかったのだろうか?。色々と想像を巡らすのも面白い。
しかし基本的な作りはしっかりしているので、前述のようにCR類の全数交換を行えば初期の特性を回復させる事が可能と思われる。ただし聞いた感じではその違いは良く分からないが…依頼人は恐らくこれで満足するだろうか。
写真はRch側の基板を取り外した様子。この状態にするには、半田ゴテは不要でドライバー1本で可能であるため、非常に分解作業や部品交換がやり易い。
修理は自分の作ったものではないので、製作者の考え方を研究するには格好の材料だと思う。また謎解き風でゲーム感覚的なところがあり、やり出すと面白い。しかし他人が作った物であっても、原因が分かり音が出た瞬間の感激は、自作した時と何ら変わる事は無い。全くラジオ少年の、あの最初のラジオを鳴らした時の感激である。