IC-756で近傍スプリアス発生・・・その対策(Dec 13〜29. 2009)

icomのIC-756HFトランシーバーを使い出し既に15年近くなる。
ふと気が付くと時々受信音が歪っぽく聞こえる時がある。
振り返ってみると、そう言えば以前からあった様な気もする。
それは電源を入れ直すと直ってしまうので余り気にもしていなかった。
ところが最近、その程度が急に酷くなった事に気付いた。
SSBでAM放送を聴いた時、USBでもLSBでも良好に復調できた筈が低域のビートがあり音が濁っている。
そしてCWも同様で余計なビートを感じ、スーパーローカルがCWをたたくと、ダイアルを回した時に幾つものビートを感じるようになった。
もしや送信でも・・・と、スペアナで送信波形を観測すると予想は的中。紛れもない不要輻射だ。はっきり言って使えない。
恐らくPLLのロックが不良でジッタを起しているのではと直感するが、果たしてどうか。
修理に出す前に向学心も手伝い、カバーを外して中を覗いてみる事にした。
写真は調査と調整のために裏返し、PLL部のシールド板を外したIC-756。
メーカー機の内部を覗くと好奇心が沸き、アマチュアスピリッツを大いに刺激してくれる。


CW/出力100W時の状況(7MHz)
Span:5KHz、RBW:10Hz、シングルトーン。
-40dB程度だが、約300Hzおきに不要輻射が出ている。
とてもCWとは言えない波形だ。


SSB/出力70W時の状況(7MHz)
Span:5KHz、RBW:10Hz、ツートーン。
本当は見せたくないのだが、3rdIMDはPEPより-30dB程度。
問題の不要輻射がその間に所狭しと紛れ込んでいる。 3rdIMDよりは低いが、数で勝っているので何とかしたい。


MKR出力の状況
Span:5KHz、RBW:10Hz。
PLLユニットにあるMKR出力を観測。
やはり凡そ300Hzおきに不要輻射が見えるが、レベルは-70dB以下と低い。


1LOA出力の状況
Span:5KHz、RBW:10Hz。
PLLユニットにある1LOA出力を観測。
この信号が何なのか理解していないが、奇妙な状態になっている様に思える。

なおこれ以外のPLLユニットからの出力(2LO/3LO/4LO)には不要輻射は感じられなかった(1LOBは未チェック)。

PLL/VCOの調整
写真はPLLユニットのクローズアップ。
メーカーの調整情報によりVCOのロック電圧を確認していく。
調査ではVCO-Bのロック電圧が調整しきれないか動かない状況が発生。
恐らく回路動作が不良と思われる。
ここまで来ると基板上の部品のレベルになるので手が出し難い。
写真はPLLユニットのVCO-Bを調整している状況。
調整ドライバーはC228(ロック電圧アジャスト/29.99999MHz/USB)に当てているが、チェックポイントJ681の電圧が変わらない・・・可笑しい。
その右側のC258(ロック電圧ADJ/60.00000MHz/USB)も同様でJ681の電圧が変わらない。
ちなみに左側のC208(ロック電圧ADJ/14.99999MHz/USB)は可変は出来るが、J681で目的電圧の4.2Vに至らず3.88Vまでしか上がらない。以後周波数を変えても、C228/C258を調整してもJ681の電圧は3.88Vのまま。

VCO-Bと出力の因果関係は要調査だが、明らかに動作が可笑しい。
これから先は時間も必要と思われるため、早々にメーカー修理を決め込んだ。
アイコムさんへ状況を伝えると共に、IC-756は購入店である名古屋平丸ムセンへ12月14日朝旅立った。

その後
12月24日、原因が分かった旨の連絡が平丸ムセン経由で入る。
オプションの高安定水晶発信器が不良の模様。既に生産を完了しているオプションなので入手が難しい。通常品で良いかと打診があり承諾する。
なおこれだけかと思ったらATUモーターと、さらにFM-VCOに以上が見られると伝えられ、全て修理するようにお願いした。

修理完了
12月29日、平丸ムセンを訪ねIC-756を受領。icomのメモには・・・オプションの高安定水晶不具合のため。C/Nが悪化し、スプリアスが発生しており、また、受信のC/Nも悪化しておりました。お客様のご指示通り、水晶を純正品に戻させていただきました。その後スプリアスが全バンドで定格内である事を確認いたしました。他、CTRLユニット送受信切替回路のTr、ダイオード、抵抗不具合のため、若干感度低下しておりましたので交換しました。TUNERバリコン駆動モーター経年劣化のため交換しました。修理後、相当点検実施。」・・・とあった。
左はIC-756と一緒に戻ってきたNG部品。icomは昔から取り替えた部品をこの様にユーザーに返却してくれるので好感が持てる。ステッピングモーター2個とメタルカンの水晶発信器、チップ部品はTrとダイオードに抵抗、それに半固定VR。 経費は\17,745で、そのうち技術料が\11,700、ステッピングモーター2個が\4,800を占めた。
下は修理上がりの状況をCW/100Wで確認したものでスプリアスはノイズで確認できない。