NEC液晶ディスプレイ72VM-Rの修理に挑戦(Nov 8-Dec 27. 2008)
メーカーのサービスより「修理するより買った方が安い!」と返品コメントがついた標記ディスプレイNEC LCD72VM-Rの修理に挑戦する。
外観は大変綺麗で、手を入れて復活させたいとする気持ちと、最近のディスプレイはどうなっているのかとする好奇心を大いにくすぐってくれた。自分の技術とHPやBBSを通じたヒューマンリレーで何とかならないものかと復活に挑戦してみた。
状況確認
電源を投入すると約2秒映像が表示される。その後真暗になるが、白っぽい映像なら暗い所で見ると薄く表示されているのが分かる。

分解する
背面にある複数・3種類のビスを緩める。ひとつはスタンドを固定している4mmビス4本。次は上部左右の3mmビス2本、最後は下部左中右の3mmセルフタップビス3本。背面カバーは本体に噛み合わされた造りになっているので、マイナスドライバーなどで勘合面を開き取り外す。勘合がしっかりしているのでキズを付けない様に注意して外す。
写真は背面カバーとスタンドを外し、更に基板を覆っている金属カバーを取り外した様子。10年前のLCDに比べると随分と小型で整然とした印象だ。

点検する
もしかしたらバックライト?。バックライトの配線は4本。配線を外すと何をしても真暗。1系統にオシロを50V/Divで当てると、映像が出た時出力がありスケールアウト。インバーターMOS-FETにオシロをあてると映像が出ない時はデューティ比激小。周波数は50KHzでNG時と待機時はその半分になる。

電源基板の状況
電源基板のクローズアップ。右の制御基板との間をフラットケーブルでやり取り(制御基板への電源供給、電源制御など)している。また下方に見える黒いケーブルはオーディオ用。電源基板は部品が少ない印象だが、実は底面にインバータICやチップ部品等が山ほどへばり着いている。 右中央の黄色がインバーターの発振トランスで左の上下にある黒が高圧のステップアップトランスと思われる。最左の上下はバックライトへの給電コネクタが2個ずつ。左下はAC入力でその右がACラインフィルタや整流平滑回路。ここでは常時約DC139Vが造られている。ケミコンは450Vだから100Vと200V運用に対応できそうだが、その切替はどこでやっているのか?と余計な事が心配になる。上面はこんなものだが基板を取り外して底面をみると仰天(前述)。
対策
電源基板上のパワーMOSと思われるデバイス(PBNK802ZFP)の規格をネット上で探すが見つからなかった。足は3本なのでパワーMOSだと思うが・・・。このままだと先に進まないのでNECフィールディングへ基板単体の購入や回路図の開示等が可能か打診メールを送り現在返事待ちとなっている。

次なる作業
メールの返信がないので直接電話を入れると想像はしていたが全くの期待外れだった。メーカーさんの力は借りず自力で修理に挑む事にした。 前述のデバイスはパワーMOSで正解だった。試しに手持ちのパワーMOSに交換してみると同様な動作を示した。確認だけなので、早々に元のパワーMOSに戻す。それにしても何処から探してくるのか、聞いた事もないメーカー名やデバイス名で基板上は賑やかで、昔とは違うグローバル化を感じさせる。
このパワーMOSにより数十KHzでスイッチングされたDC139Vが、トランスの1次を駆動して2次巻線でDC5VとDC12V電源用出力を得ている。ここまでは基板の上面側でやっている感じだが、バックライト用高圧はどうやら基板下面で作っているようだ。それで下面でひときわ目立つICの名前をネット上で探してみた。それはOZT1060で用途はLCDのバックライト用インバータとあった。これだ!と思い資料をダウンロードしてきて標準回路なるものを見る。何て事は無い、ステップアップトランスの1次側の電流方向をパワーMOS-ICで切換える制御をこのICが担っている。そして電源は前述の12Vを使っているようだ。それからバックライトはCCFL(例陰極蛍光灯)で、ACを加えるだけで発光する事が分かった。これだけ分かればオシロやテスターで当たって行けば何とかなりそうな気がしてきた。写真は電源基板の背面。


OZT1060周辺の解析
基板を追うと色々な事が判ってくる。 OZT1060は発振回路と駆動回路に制御回路を持ち次段のMOS-FETをスイッチング駆動する。 MOS-FETには12Vが供給されステップアップトランスの1次側へ交互に電流を流す。 MOS-FETはNchとPchがペアで組み込まれたSP8M3で2個ずつ4個配置されている。 2個がペアで1つのステップアップトランスを駆動し、同じ回路が2系統設けられている。 CCFLは4個なので2個ずつステップアップの2次側出力に接続されている。ここでステップアップトランスはコンデンサを抱かせ、OZT1060の発振周波数に共振させ変換効率を上げている。 現象に戻るが、OZT1060の電源であるDピン(VDDA)に加わるべき5Vが、映像が真黒になるタイミングの3秒後にゼロになる。5Vラインから抵抗を介してプルアップしているBピン(ENABLE)も同様。これではOZT1060が動作しない!。5V電源の制御が何処かで誤動作していると思われる。それを追うのは後にして、強引に5Vを供給して様子を見ようと外部電源からダイオード注入した。しかし改善は見られない。ところが、制御入力コネクタ@ピンに注入すると一度消えたLCDが再点灯する…しかし点灯時間は変わらない。ガリガリと半断状態で注入すると点灯は継続する…て事は基板の何処かに保持回路が有りそれがNGか?。写真はOZT1060の周辺。SP8M3も左上に2個見える。それにしても細かい。

さて次の作業は
OZT1060の電源電圧がゼロになってしまう原因を探る。何しろ基板面が細かくICの名前も容易には読めない程に視力が低下していて情けない。デジタルカメラで撮影しPC画面で拡大して見るなどして回路を追っている。回路図は無いのだが、メーカーが何をやろうとしているのが調べていくうちに分かってくるから楽しい。今までの調査結果と新たに分かった事を総合すると…
@制御基板からの制御電圧は映像入力の有無で状態が変わる
A入力映像が無い場合・・・電源投入から5秒間(バックライトが2秒で消えその後3秒まで)5Vでその後ゼロになる
B入力映像がある場合・・・電源投入から5Vが連続して入力される
C上記ABはTrによるゲートを制御しOZT1060へ供給される5V電源の開閉を行なっている

…という事で、状況を整理すると何となく制御は問題なく、インバーター自信の特性劣化の可能性が見え隠れする。
ひょっとしたらOZT1060の発振アクティビティが低下しているのかも知れない・・・しかしこのICの入手は相当難しそうだ。
写真はOZT1060のクローズアップ。表面の標記はOZT1060GNとなっている。フラットな明かりだと文字が見えないのでやや片明りとしてみた。

ちょっとしたイタズラとOZT1060探し
今までのまとめはOZT1060の動作不良を唱えている。それでちょっとイタズラしてこのICのOVP(OverVoltageProtection)の電圧を意識的に操作してみる。何もしない状態でAピン(OVP)をオシロで当ると、バックライト点灯時は2.2Vを示し、消灯すると0Vになる。これを2.2Vは発振出力の一部をC結合で取り出し倍電圧整流した電圧である。OVPはこの電圧を見て出力電圧を制御しているらしい。それで試しにこの電圧を過負荷にしてICが過剰動作するか確かめてみた。OVP端子に抵抗を抱かせて電源を入れると予想通りICは出力を上げる。そして発振のアクティブティが上がりバックライトが通常より明るく点灯。2秒以上点灯し出した。ところが大変、何処かでチリチリと音が鳴り、オゾンの匂いが漂う。危ない!と電源を切る。CCFLに規格以上の電圧が掛かり規格以上の電流が流れたものと思われる。やっぱり正規の使い方をしないといけないと思いつつも、何となく状況が判ってきた。しかしこの場合HピンのFB(CurrentSenseFeedback)側は何も制御してくれないのだろうか…。
国内のサイトではOZT1060はヒットしないため、中国のディーラーにメールを送り少数の入手が可能か打診中。またその後発見した製造元であるO2Micro社のサイトで掲示されている国内ディーラーへ打診したが、取り扱い外商品で扱う場合は\100万単位の取引になる模様で話にならなかった。
OVPとFBの電圧を再確認
一部は前項でも調べているが再確認すると、OVP=2.2V。FB(CurrentSenseFeedback)はHピンでFB=0V、念のためIピンのCPM(VoltageControlLoopCompensation)=3.4V。これらは全てバックライトが点灯している時の電圧(オシロ/10MΩ受け)を見たもの。OVPはほぼ規定値であるが、FB=0は可笑しい!。OZT1060の内部ブロックを見ると、FBはCCFLに流れる電流を検知して得た電圧を受け反転AMPを経由し、ControlLogicを経てZVS_PhaseShiftDriverを制御(制限)している模様。したがってCCFLが点灯しておればここには何らかの電圧が発生していると思われる。なおOVPやEnableはFaultProtectionLogicへ入力されその後何処へも経路が無いので電源を制御しているものと思われる。CMPはFBの反転AMPの出力側にパラ接続されている。ウーンFB系統の外部回路が問題なのか、それともOZT1060そのものなのか・・・悩ましい。
毎日30分程度の調査では中々はかどらない。外は雪(11月19日)。中国のディーラーからの返事も無い・・・望み薄か。
基板を突く
色々と関係の皆様からの助言を頂戴すると、コントロールICであるOZT1060は問題ないだろうとする意見が多い。
何よりFB端子に返す電圧が電源投入からCCFLが発光して消えるまで殆どゼロである事がそれを物語っている。
・・・て事は出力でCCFLの電流を検出して、電圧に変換してFB端子に返すまでの段階で何らかの障害が発生していると考えられる。
それで先ずハンダ付けの不良やクラックを確認する作業を出力回路からFB端子までで行った。
テスターでIC-Pinと回路のパターンの抵抗値を確認するが問題は見当たらない。
念のため片っ端から再ハンダを試みた。これでも状況に変化が無い。次は実装してあるチップ部品のも問題か・・・。
写真は出力側の検出回路のクローズアップ。写真撮影して拡大すると大変見やすいが、目視ではボケボケで作業は楽ではない。
それにしてもデジカメの接写で容易にこのような写真が撮影できるのは素晴らしい。ディスプレイで拡大すると回路を追う時の強い味方にになってくれる。

代替品を探し調査・・・予想外の展開
突っつき始めて凡そ1ヶ月を経過した。既に師走で何とかかたを着けなければと焦りが見えてきた。 それで手っ取り早く同じ製品のジャンクを探し電源を取り出す事を考えた。ところがネット検索してもジャンクや電源だけを取り扱ってくれる店など全くない。こういう時「秋葉って言いなぁ!」と呟いたりする。ネット上では、いわゆる中古製品しかアップされていない。メールでジャンク品の問い合わせしても良い返事は返ってこない。しかし検索をしている内に中古品の相場が分かってきた。それは今まで費やした労力や時間に比べると微々たるモノに思える数字だった。普通は間違いなくそう思うに違いない。何が技術的好奇心よ!と言われそうである。まぁ趣味の世界だからと我慢していたが、作業が捗らない事と年の瀬である事も手伝い、意を決して破格中古品をオークションでゲットした。実はこの種のオークションは無線機関係より入札者が少なく短期決戦が多い。
早々に分解して動作確認するがここで予想外の展開。電源を含む全てのユニットを入替えたが今まで突いていた電源基板は正常であった。て事は負荷側のCCFLが可笑しくなりプロテクションが働いているのか・・・。益々面白くなってきた。写真の左上は届いた72VM-Rで取り外した基板類が左下に見える。右下は不良品から外した電源基板と制御基板で動作する購入品。

ついにCCFLの交換・・・LCDパネルの分解とCCFLの発注
藁にもすがる思いで「CCFL交換」とネット検索。itmasterと称するサイトがヒット。スゴイ!各種CCFLや関連部品がリストされている。72VM-Rに合うCCFLを探すが現物を見ないと話が進まない。結局LCDパネルを分解する事態に。構造の理解も曖昧でCCFLの組み込み位置も分からないまま作業が進む。しかし新発見の連続だった。
@ドライブ回路金属蓋を半開きに・・・小ネジ3本を外す。蓋はドライブケーブル共々コーキング剤で固められている。無理して外すと復旧が面倒なので半開き状態で作業する。
A金枠を外す・・・周辺にある複数の引掛り部を押しながら外す。
B樹脂枠を取り外す・・・周辺に複数ある引っかかりを押しながら外す。
CLCD板・デフューザー3枚・厚アクリル板・背面シートを取り外す(写真)・・・作業をやり易くするため。
D樹脂枠からCCFLユニットを外す・・・樹脂枠上下にあるCCFLユニットを外す。各ユニットに2本のCCFLが組み込まれている。アルミテープや樹脂テープで固定されているが再利用を考慮し慎重に行う。
CCFLの直径はノギスで測ると2.6mm。長さはitmasterへ打診すると全長表示と判明。2.6mmX348mmの2本組みを2セット発注。

CCFLの交換の準備・・・不良CCFLの取り外し等
CCFLが到着するまでに準備作業を行う。CCFLユニットからCCFLを撤去し取り付け環境を整えておく。
ユニットの両端は専用の部品でゴム支持がなされている。ゴム支持は給電腺側と反対側では構造がやや異なる。CCFL自身のリード線は僅かで高圧リード線2本がゴム支持部経由で配線されCCFLにハンダ付けされ熱収縮チューブ処理されている。反対側も似ているが給電は給電腺側からユニット筐体に添わせた2回路のリード線で行われている。
ゴム支持部は筐体の爪を曲げれば容易に取り出す事が出来るが、反対側の状況も考慮して行わないとCCFLにストレスが掛かる。ゴム支持部へリード線を押し込みながらCCFLをダマシダマシ引く。分解修理など前提としていない様で力を入れるとゴムが破断するので慎重に行う。
写真はCCFLユニットとCCFLを取り除いた給電腺側のゴム支持(左)と反対側のゴム支持(右)。奥はCCFL撤去前の状況で筐体に納まったゴム支持とCCLFの関係や配線の様子、それに冷陰極部の黒化が分かる。実は全て冷陰極部が黒化状態で内1ヵ所は管が断状態だった。これが原因で保護回路が働いたのかと直感。CCFLの配線色は理由は分からないが上下で逆になっている。ここまで準備しておくとCCFL到着時の作業が容易である。

CCFLの交換・・・全面復旧(資料写真参照)
CCFLのリード線に高圧リード線を巻きつけてハンダ付けする。両リードは予めハンダメッキを施しておく。CCFLのリードは必要最小限の長さにし(ハンダ付けした後で切断しても良い)、それに対し高圧リードが90℃になる様にハンダ付けする。熱でガラス封入部を痛めない様に作業は素早く行う。ハンダ付けが終わったらリードをゴム支持部から引き出しながらCCFLを押し込む。本来なら程よきサイズの伸縮チューブを通した方がベターだが、ゴム支持部の肉厚が十分あり今回は何も処理していない。ゴム支持部の構造はユニットの左右で構造が違う(前項)ので作業もそれに合わせて順番に行う。この作業を2ユニット分4ヶ所で行う。最後にゴム支持部と筐体の位置関係を調整してCCFL交換は終了。次に最後の組み立てが控えている。分解した作業を逆に辿り組み上げていく。心配な部分は写真やメモを取り組み立て時の参考資料にする。ビスが1本余ったとかコネクタの差し間違いなど初歩的な誤り招かないように配慮する。
写真は復旧したLCD72VM-R左と、調査のために購入した同型機。CCFLは2本セットで\1.8Kで4本だと\3.6Kである。中古の同型機がネットオークションでその倍額程度で取引されている現実を見るとやや複雑な思いがするが、技術的好奇心や向学心を大いにくすぐってくれたと言える。

資料写真

  左:フレームと取り出したLCDパネル。パネル内は複数の部材で構成されている。フレームの裏側に電源基板と制御基板が見える。
  右:取り出したCCFLユニット2個。1ユニットに2本のCCFLが実装され、内側は白色に塗られた反射板で超小型蛍光灯を構成している。


  左:CCFLユニットの給電線部とCCFL陰極部のクローズアップ。CCFLの陰極部は真っ黒である。CCFLは水銀を含むので破損には注意する。
  右:ゴム支持部からCCFLを引っ張り出した様子。徐々にやらないとゴムが痛むので注意。高圧リード線が黒チューブを被って見える。

参考資料I・O DATA LCD-AD202GB液晶ディスプレイの修理

まとめ
紆余曲折があったが本件の原因は「CCFL冷陰極黒化→管断」でCCFL電流(負荷状態)の変化によりCCFL電源の保護回路が働いたものと推測する。見える様になったディスプレイの明るさ設定を見ると最大(100%)になっており、この事がCCFLの寿命を縮めたとも言えそうだ。参考までに運用は24時間通電と言う事で、これも拍車をかけていたと思われる。
初めてのLCDディスプレイの修理であったが多くの発見があり勉強になった。Web公開やBBSでの案内も手伝いその道の専門の方からも助言を頂き感謝にたえない。
自称エンジニアを謳っていても知らない事が如何に多いかと改めて気付く次第である。物好き!と笑われそうだが、こうした手を煩わすスタンスをライフワークにして行きたい。