DBM/SBMの3次インターセプトポイントを測定する(Jul 22-23, 2006)

オールウェーブ受信機の製作過程で実験的に幾つかのミキサを製作した。 一般的なダイオードリングDBMからFETリングによるDBM、またアナログSWによるDBMや伝説の真空管7360によるSBMなどがそれらに含まれる。
そのミキサを使って中波や短波AM放送やアマチュアバンドのSSBを聞き比べて楽しんでいたが、数がまとまって来ると其々が果たしてどの程度の実力があるのかに興味が移って行った。
幸か不幸か、手元には旧式のスペアナとせいぜい0dBm程度の出力しか出ないSGしかなく作業が行き詰っていた7月20日夜、知人のJR1PWZ清水氏から「測定申し出」のメールが入った。二つ返事でお願いする事になり翌朝21日には宅配業者に渡っていた。
そして22-23日、貴重な時間を割いて頂きデータ取得が行われた。
以下に各DBM(SBM)の測定結果をIP3を中心にスペアナ写真とデータを記した。こうした試みは余り例が無いので、ある意味で貴重なデータと言えるだろう。これから受信機や送信機を自作される方の参考になると思う。
なお7360については真空管デバイスであるため、Hi-Zであり取り扱いや50Ω正規化が難しく他デバイスとの直接的数値比較は困難。したがってここでのデータは参考程度に受け止めて頂きたい。
写真は清水氏の測定ベンチとテストされるDUT(DBM/SBM)群。


注 意
入力レベルの設定は各ミキサで同一規正しておりません。入力レベルを可変し測定し易い値にIM3(3rdI_MD)を-50〜60dB発生させ、そのときの出力Po(1st&2nd/dBm)とIM3(3rd/dB)のレベル及びG(利得/dB)から3次インターセプトポイントIIP3(3rd_Input_Intercept_Point/dBm)を算出します。
各パラメータとIIOP3及びOIP3(Output_Intercept_Point)と関係は以下の通りです。
IIP3 = Po + IM3/2 - G = OIP3 - G (dBm)
OIP3 = Po + IM3/2 (dBm)

なおDUTの特性の関係でスペアナのスキャン状況がDUTにより若干異なります。回路図・写真はクリックすると拡大します。
(1)74HC4066(アナログSW2組)・・・DBM
RF・・・ Freq:14MHz±20KHz, Level:-5dBm
Lo・・・ Freq:11MHz, Lo Level:5Vp-p(LogicLevel)
IF・・・ Freq:3MHz, Level:-11.4dBm・・・スペアナ表示
Gain:-6.4dB
IM3:-54dB・・・スペアナ表示
IIP3:22dBm・・・=-11.4+(54/2)-(-6.4)



(2)ADE-1(Mini-Circuits)・・・DBM
RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:-9dBm
Lo・・・Freq:11MHz, Level:10dBm・・・IP3最良値に調整
IF・・・Freq:3MHz, Level:-13.5dBm・・・スペアナ表示
Gain:-4.5dB
IM3:-51dB・・・スペアナ表示
IIP3:16.5dBm・・・=-13.5+(51/2)-(-4.5)



(3)CB3034M(TDK)・・・DBM
RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:-5dBm
Lo・・・Freq:11MHz, Level:17dBm・・・IP3最良値に調整
IF・・・Freq:3MHz, Level:-10.4dBm・・・スペアナ表示
Gain:-5.4dB
IM3:-56dB・・・スペアナ表示
IIP3:23dBm・・・=-10.4+(56/2)-(-5.4)



(4)SD-8901CY(Calogic)・・・DBM
RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:3dBm
Lo・・・Freq:14.455MHz, Level:26dBm・・・IP3最良値に調整
IF・・・Freq:455KHz, Level:-3.7dBm・・・スペアナ表示
Gain:-6.7dB
IM3:-72dB・・・スペアナ表示(3rd上下の平均、20回程度スキャンのAVG表示)
IIP3:39dBm・・・=-3.7+(72/2)-(-6.7)・・・SUBSTRATE端子未処理・BIAS=2.0V(利得最大)



(5)7360・・・SBM(Lo_Null/G1、RF/Def)・・・参考:単純比較は注意
RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:-8dBm・・・入力Def/1:16ステップアップ非同調100KΩ受け
Lo・・・ Freq:14.455MHz, Level:15dBm・・・G1ダイレクト供給100KΩ受け、IP3最良値に調整
IF・・・ Freq:455KHz同調, Level:-18dBm・・・64:1ステップダウン、スペアナ表示
Gain:-10dB
IM3:-50dB・・・スペアナ表示
IIP3:17dBm・・・=-18+(50/2)-(-10)



(6)SD-8901HD(Calogic)・・・DBM
RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:3dBm
Lo・・・Freq:14.455MHz, Level:23dBm・・・IP3最良値に調整
IF・・・Freq:455KHz, Level:-2dBm・・・スペアナ表示
Gain:-5dB
IM3:-58dB・・・スペアナ表示(3rd上下の平均)
IIP3:32dBm・・・=-2+(58/2)-(-5)・・・SUBSTRATE端子未処理・BIAS=2.16V(利得最大)

RF・・・Freq:14MHz±20KHz, Level:3dBm
Lo・・・Freq:11MHz, Level:25dBm・・・IP3最良値に調整
IF・・・Freq:3MHz, Level:-2dBm・・・スペアナ表示
Gain:-5dB
IM3:-76dB・・・スペアナ表示(3rd上下の平均)
IIP3:40.5dBm・・・=-2+(75/2)-(-5)・・・SUBSTRATE端子未処理・BIAS=2.16V(利得最大)



測定器環境
@SSG:8657D/J(HP)x2
Aスペクトラムアナライザ:MS612A(Anritsu)
BSG混合器:自作(JR1PWZ)
CLoドライブアンプ(2SC1971/NFB):自作(JR1PWZ)
D測定者:JR1PWZ

総 評
@4066・・・思いの他健闘、ドライブにロジックレベルが必要。とにかく超低コストなので実験するには好都合。
AADE-1・・・もう少し検討するかと思いきや、IP3はカタログ通りのスペックだった。ただLoレベルが低くても動作するのが魅力か。
BCB3034M・・・既にTDKのカタログからは姿を消しているが、これも予想以上の検討。LoレベルはADE-1より+7dB必要で骨が折れる。
CSD8901CY・・・やはりダントツのIP3。サブストレート端子を何も処理していないので、処理すれば40dBmを超えるだろうとは清水氏の弁。ただLoレベル+26dBmはこのクラスでは止むを得ないか・・・。
D7360・・・入力ステップアップ(1:16)非同調や出力455KHz同調&ステップダウン(64:1)で、そのまま他のデバイスとは比較できないので注意。RFはDef電極、LoはG1へ入力している。その理由はDef側はレンジが広く未知のRFに、レベル変化の無いLoはG1に適す。また、RFやIF各ポートにはHi-Qの共振に依存した利得改善が求められる。それが実現すればデータは大幅な改善が期待できる。
ESD8901HD・・・@〜Dのテスト以降に入手・製作。利得最大にBIASを設定。SD8901CYのハーフピッチ・フラットパッケージに比べCANタイプなので非常に取り扱いが楽。作りっ放し状態の3MHz出力で今までの最大IP3を示した。しかし455KHzにおいてはSD8901CYが勝っている。RFTは同じであるのでその原因に興味が及ぶ。またLoレベルもクリチカルであった。またSD8901CYも同じであるが455KHz出力ではIM5が目立ってくる。これはRFTのコア材や造りの問題か・・・。