4極真空管を考察する(Nov 22, 2007)

記述内容は随時修正手直ししますのでご了解願います。
誤りや説明不足、また追加情報などありましたたご連絡下さい。

1.管の特性を把握する
@プレート損失やグリッド損失、その他EpやEsgの最大定格、Eg-Ip特性だけで使途を判断しない。
AIcgが流れる前後(Ecgが−〜+領域へ変わる)からのIpやIsgの振る舞いを把握する。
B定電流特性(Ip定電流時のEc/Ep条件)を把握し、負荷線は直線範囲を逸脱しない。
C或いは直線範囲内の運用制限を行う(直線部しか表記のない管もあるので注意)。
D併せてIsgの状態も把握する。

2.Esg<Ep-ep条件の理解
@Esg:Sg直流電圧、Ep:P直流電圧、ep:P高周波電圧。4極管アンプを取り扱う上での必須条件。
Aepが負方向にスイングしたときの先端電圧Ep-epがEsgに近付くと、1次電子はSgに吸い寄せられる比率が上がる。Ep-epがEsgを割り込むと更にその傾向が強くなる。
BこのためEp-epがEsgを割り込まない設計や運用が必要になる。
CEimacの4CX1000A等の初期型セラミック管は、Esg<Ep-epの条件が満たされないと扱い難い状態に陥る(ダイナトロン現象)。
DCollinsの30S-1はその特性に着目し、Sg電源の上にP電源を積み重ねる方式を採用し、Sg(Sg電源とP電源の接続点)を直接地しSg電源のマイナス側を陰極に印加する巧妙な回路を考え出した。Sgの接地でより完全なRF(esg)バイパスが実現する事になった。

3.管内構造を理解する
@電極構造・Cg/Sgの目合わせと配置・工作精度の違いで「4極管」は千差万別一言では括れない。
A1次電子はCg/Sgの目合わせや配置によりIpとIsgの比率か決まってくる。
B2次電子はPからP-Sg間に放出されるが、こちらはIpに戻る場合やIsgになる場合、或いは空間電荷で漂う場合がある。その比率は電極構造やP-Sgの距離などで変わってくる。
C1次電子の大半はP方向に移動するが、空間電荷がK-Cg(Ecgに反発して)付近にも漂う。
DEp<Esgとなれば、陰極に近いSgに電子が引き寄せられるのは当然の成り行きである(前述)。
E電子は質量を持つので、Pに高速で衝突すると2次電子を発する。Epはあまり高くすると2次電子量の増加を招き直線性を損なう。

4.後期の4極管
@以上4極管の振る舞いの概要を記述したが、1960年台末期になると様相が変わる。グリッドは従来のワイヤー(モリブデン等)を手工作した籠型から、図の如き円筒を放電加工で打ち抜く高精度な工法に取って代わり、完璧な目合わせが可能になった。これによりEsg<Ep-epの条件が劇的に緩和される様になった。
A1970年以降に開発された国産4極管(7F71R)やロシア管(4CX800A/1600B)等は、初期の4極管に比べ非常に安定した動作をする。但しEsg<Ep-epを意識した設計をする事に越したことはない。

5.歪み要因を考える
@Igの流れ出しでIpが飽和し易い管とそうでない管が存在する。
AIsgが多い管は元々のIpを奪っている・・・SgはPではない。
B信号源のZが高い場合Igの流れ出しでCg-K間がダイオード負荷となり影響が出易くなる。
CBias電源のZが高いとドライブレベルによりBias電圧Ecがあおられる。
D陰極は十分な量の1次電子を放出しているか。
E無駄の無い電子移動のために最適な支援を各電極(構造・印加電圧含め)が行っているか。

6.その他情報
@Isg=0mA付近は管内の内部抵抗によるEp分圧とEsgとはバランスした状態で、Sg回路は高いZとなっている。この場合Sgに程良い値の抵抗でロードを掛けると動作が安定する。またEsg回路がオープンになりパスコンのみになると行き場を失った電荷が溜り突如としてIpが暴走する場合がある。
A4CX800AでBiasを浅くするかRFドライブを上げIpを増加すると、突如としてIpが暴走する報告が幾つかある。これはGGでもGKでも同様に発生する。Esgの供給路に抵抗を挿入すると解決する場合がある。原因考察中。
B4極管GGアンプの設計パラメータ例
C真空管は概要を把握していても、電荷(電子)レベルで見ると未だ解からない振る舞いが多い。

写真上・・・Eimac:4CX1000A/1500A/1500BとSvetlana:4CX800A/1600Bの定電流特性図にEimacのスケール(赤色)
写真下・・・NEC:7F71R(上)とSvetlana(ロシア):GU-84B/4CX2500A(左)と同社4CX1600B(右)。ロシア管はソケット装着。