RACAL TRA3755の不具合対策と改修(May 9〜, 2009)

RACALのトランシーバTRA3755/ADRが転り込んできた。このトランシーバは軍関係資料として有名なJane's年鑑にも記述がある一品。 マニュアルには、Frequency_Rangeは100HzとあるがTuningは10Hz_Resolutionとあり、その標記の仕方が面白い。当初は10Hzステップ仕様と100Hzステップ仕様の製品が有るのかと想像したが、どうもそうではないらしい。
TRA3755は20世紀末のDSP機でテクニカルマニュアルIssu 1の日付はOct '95とある。 マニュアル系統図によれば、IF=1.3625MHzをDSP処理している模様。中を覗くと無線機の象徴だったRF用L/CがPA基板以外では影を潜めている。昔よく見たVCやトリマー等も同様で、HF機なのに不思議な空間だと思うのは時代遅れだろうか…。
HF TRANSCEIVERと前面パネルにあるが、1.6〜30MHzまで受信はもとより送信まで出来てしまう。スプリアス対策フィルタはどの様に対処しているのか不思議でならない。なおBC帯のAM放送は問題なく受信できる。
PAはMRF422プッシュプルでSSB/AM/CW/FSKを125W/20W/2Wを切替対応(N)。また0.2W固定出力(BNC)もある。
取り急ぎだが、特殊Audio-Jackをアマチュア用メタル8Pに変更し、内部12V電源からRegって8Vを供給しicomのDTMFマイクを使える様にした。
如何程のモノかと期待を持って電源を入れるといきなりLCDパネルにFAULT。メニュー構造がさっぱり分からず、分厚い英文マニュアル2冊とユーザーハンドブックを片手に何とか操作を習熟。 ドツボにはまらないよう注意しながら突いているが、果たしてどうなる事やら…。

写真はTR3755の上にBIRD43と自作ストレートラジオ。AM放送を聞き比べると音の素直さはストレートラジオに軍配。しかし外部SPをつなぐとそれなりの改善があり聞き易い。これは軍用無線機マニアから見たら野暮な事なのかも知れないが…。

気が付いた点・・・(随時追加)

@VFO周波数飛び・・・ポンポン周波数が飛びチューニング操作が辛い。ロータリーエンコーダ不良か?。
AAGC動作・・・制御がAF出力依存動作でAM受信音不自然。
B内臓SP・・・明瞭度はあるが疲れる音。
Cキートップ・・・キーを弾くと反動でトップが飛ぶ。
DAudioコネクタ・・・特殊、アマチュアユーズの8Pメタルに変更(済み)。
E送信時に-TEST-…CONFIG MENUに入れず解除できない。MENUキーでOPERATE>BITE>CONFIGと遷移しない。
FMicレベル設定・・・どうもノイズゲート的な動作が感じられ、バックノイズのピークにスレッショルドを感じる。デジタルノイズか?。
G電源投入時のデフォルト・・・当初よりFREQ-04.86000/USB/RECEIVE/CH-03/FAULT/ANT-00と表示。周波数やモードは設定できないの?、CH-03はSTOREした内容と異なり別メモリ?。

・・・etcだが未だ色々と発見しそうだ。MENUのCONFIGは送信時に-TEST-側に倒れ通常送信が出来ない状態。
なお1.6MHz以下の中波AM放送も良好に受信出来ている。
以下これまでの対応状況

@周波数飛び・・・100KHz桁、場合によってはMHz桁まで飛びチューニング操作に難。ダイアル回転開始時の周波数の動き出しが遅い。ロータリーエンコーダ出力の2相クロックは正常。エンコーダ出力とEX-OR経由出力が基板を出て行く。ダイアルを回さなければ飛びは発生しない。後段の調査を継続中。ロータリーエンコーダを国産類似品に交換し好結果・・・但しダイアル回転開始時のカウントが遅延、25P/Rなのでオリジナルの128P/Rへグレードアップ予定。128P/Rが見つからず100P/R(岩通アイセックEC202A100A/千石電商通販)に変更する。まずまずの状況だた、ダイアルをやや急に回すとステップが増えるのがやや気になる。アマチュア無線機の感覚だと50P/Rの方がベターかも知れない。
最終的にコパルのRES20D50-201-1(50P/R)を投入する。メインダイアルをバンド切替(HF内の移動)とSSB/CW同調に併用するには、50P/Rが最適と思われる。
AAGC動作・・・これはソフトウェアの問題で非対策(棚上げ)。
B内臓SP・・・通信用としてはベターなのだろうが、もう少しワイドレンジのSPに交換、10mm厚木板によるバッフル板と併用した(済み)。
Cキートップ・・・これは取り扱いを気をつける(運用面で逃げる)。
DAudioコネクタ・・・特殊コネクタを止め8Pメタルコンセントに変更(板金不要)、内部12V電源ラインから3端子Regで8Vを作り供給、DTMFマイク(icom)使用可とした(済み)。
E送信時に-TEST-…CONFIG MENUに入れず解除できない。これはマニュアルには無いが、一度FSKキーを押すとMENUキーでOPERATE>BITE>CONFIGと遷移する事を発見・・・これって隠しコマンド?。正式にCONFIGへ行くにはCPUボードのSW2-3をONにする旨をユーザーハンドブックで発見。ラック実装時には簡単にSW操作出来ないため、FSKキーに隠しコマンドを割り付けたのではないかと推測。
FMicレベル設定・・・試みにMIC AMP(OPアンプ2段)の利得60dB(10倍x100倍)を40dB(10倍x10倍)に変更して様子を見るが、スレッショルドがボイスレベル領域になるだけで傾向は同じ。DSP(コーデック)側のカーブを調整する必要が有りそうだ。
G電源投入時のデフォルト・・・FAULTはBITE MENUのSHOW FAULTを一度実行すると解除。その他は未解決。
内臓SP(スピーカー)を交換する

前述の通り長時間の聴取には難を感じるSPを交換してみた。その際バッフル板代りに木板に木工ホールソーで丸穴を開けて挟み込んでみた。 その効果はてきめんで、元に戻す気が起こらなくなる(物理的には即復元は可能)。
オリジナルに拘るのも良いが、これにより中波や短波のAM放送を生活の中で生かせるようになる。 軍用無線機マニアのOMには「何とアホな事を!」と映るかも知れないが・・・。

ロータリーエンコーダ・Audioコネクタと基板周り

写真はフロントパネルのロータリーエンコーダとマイクコネクタ、及びその接続先の基板の様子。
ロータリーエンコーダ出力のTUNE_AとTUNE_B信号はチューニングノブに連動して綺麗なパルスを出力している。
パルスはケーブル&コネクタで基板に導かれEX-OR(74HC7466)で排他的論理和がとられTUNE_INT信号としてTUNE_A/TUNE_B信号共々CONTROLボードのPLCC84(MICROPROCESSOR)へ送られる。
ロータリーエンコーダからのコネクタ上に見えるICが74HC7466。その左上はMIC_AMP用デュアルOPアンプ2904。右上はアナログマルチプレクサの4053B。
なおMIC_AMPは図面の定数によると10倍x100倍=1000倍(60dB)の高利得設定だが利得調整が見えない。写真を良く見ると、このOPアンプ周辺は随分とハンダゴテが当てられた痕が確認でき、歴代オーナーの苦闘を見る思いである。
ロータリーエンコーダの左は仮設した8Vの3端子Regとパスコンで、出力は右下の8Pマイクコンセントへ導かれている。
一番の課題である周波数飛びの原因はこのボードには無い模様である。
しかし次段がいきなりマイクロプロセッサとなるとチト厄介な雰囲気になってきた。パルスが正常に送られているにも関わらず@周波数が変わらない(カウントしない)場合と、A周波数がジャンプする・・・ウーン悩ましい。

ロータリーエンコーダ交換・・・状況に変化

オリジナルのロータリーエンコーダはBOURNS社ENA1J-B28-L00128を使用している。1回転あたり128P/Rの物である。オシロスコープによる波形観測では回転に従ったパルスの確認は出来たが、振幅方向が中心で時間方向は回転速度の維持が難しく自信が無かった。回転速度に応じてメカニカルにパルス数を可変させる機能を持つエンコーダがかつてはあったらしいが、このエンコーダは普通の2相出力の模様である。当初はカウンタ側を疑っていたがもしやと思い、別のエンコーダを用意して状況の変化を確認する事にした。用意したエンコーダはコパルREC20D25-201-1秋月電子販売のEC16B
結果から述べると10Hzステップで良好なチューニングが出来るようになった。ただしダイアル回転の開始時は相変わらずカウントしないので、遅延動作となりやや使い辛い。しかし一度動き出せばスムーズなチューニングが出来る。また用意したエンコーダは25P/Rで、1回転あたりのパルス数がオリジナルの1/5以下のためこのような結果になっているのかもしれない・・・多量にパルスが出たらどうなるか?。近日中にBOURNS社のオリジナルか国産の128P/Rエンコーダで試してみたい。何しろ正常状態を知らないので、ダイアルを高速回転させたときのカウント桁の変化がどうなるのか情報を欲しい。まさか何時も10Hzステップとは思いたくないのだが・・・。 写真は、コパルのロータリーエンコーダの実装状況。手前左はオリジナルのBOURANS社製、同右は秋月電子の販売品。国産はシャフト径が6mmなので銅シールを巻いてサイズを合わせている。これをやらないとチューニングダイアルが偏芯する。コパル製はマルツ電波で購入。秋月のは手持ち品。

ロータリーエンコーダ勢揃い

関係したロータリーエンコーダを並べてみた。
中央がオリジナルのBOURNS社ENA1J-B28-L00128(128P/R・クリック無)。
左は秋葉原千石電商より購入の岩通アイセックEC202A100A(100P/R・クリック無)。
右上はマルツ電波から購入のコパルREC20D25-201-1(25P/R・クリック付)。
右下は自作受信機で使用中のコパルRES20-100-200(100P/R・クリック無)。
なお最初にテストした秋月電子EC16B(25P/R・クリック付)は除外した。
前述したが、アマチュアバンド内の運用はせいぜいKHzオーダーのチューニングが殆どであろう。128又は100P/Rのエンコーダでは、うっかり早くダイアルを回してしまうと10KHzや100KHzステップに自動的に切り替わってしまうので感覚が馴染めない。したがってアマチュア無線で使い場合は50P/R程度のエンコーダでも十分な気がしてきた。HFの任意の周波数を駆け巡るような使い方をする場合はこの限りではないが・・・。
ところで写真を良く見るとBOURNS社のは四角で幅が16mmと狭い。コパルは20mm、岩通は22mmあるので交換実装する場合、基板の切り欠きに納まらない場合がある。写真のコパル製は幸い高さが低いので問題ないが、岩通のは直径も高さもありそのままでは納まらない。それで後部のキャップを取り外して高さを押さえ、さらにTRA3755の基板を取り外してから先に実装した。これは保守性が非常に悪いのでコパルの直径20mmがお奨めだろう。また同じコネクタなのにコパルと岩通では電源極性が反対なので要注意・・・規格化されていない模様で残念だ。なお岩通のは黒くフレームやシャフトが樹脂製に見えるがアルミ製である。

50P/Rロータリーエンコーダ(RES20D50-201-1)実装

マルツ電波に発注中のRES20D50-201-1(クリック無)が到着。価格は\1680。店に置いてあるREC20D25-201-1は\2000なのに、1個の個別取り寄せの方が安いなんて信じられない。
4Pフラットコネクタを取り付け実装。予想通り今までで最高の操作感になった。HF内移動とSSB/CW同調を1個のノブで併用する場合はこの50P/Rが最適と見た。写真はコネクタ処理したRES20D50-201-1とチューニングノブ内部。

余談・・・スゴイいと思うこと

@MENUキーを押すとM1/M2/M3/M4キーとの組合せで色々なメニューが顔を出す。この中にUNIT TESTとかSELECT TESTとか言うメニューがあり自己診断できる機能がある。さらにその中に送信側のLPFの状況を診るメニューがあるのだが、これが運用周波数に応じて所定のスプリアス特性を満足すべくカチャカチャとリレーを制御。アマチュアの様に周波数が限られている場合は容易だが、1.6〜30MHzの任意の周波数で運用する場合のLFP設定って一体どうやっているのだろうかと考えさせられる。
ASSPA(写真)の周波数特性は1.6〜30MHzで、その広さと平坦さに正直なところ圧倒される。
B外部入出力部分にアナログAFアンプがあるが、その内側はDSPの世界で、正直なところ何をやっているのか分からず想像するしかない。自分の技術レベルの曖昧さが暴露される。
Cアマチュア無線機が求めている音質とは全く違う方向で、これは良い悪いの議論というより目的の違い(通信の確保)に思えてくる。
D豊富な周辺インターフェイスはさすが。データ通信や電話線とのインターフェイスや外部機器(KWリニアアンプなど)の集中制御などアマチュア機器とは発想が違う。
E機構部分の作りや頑丈さもさすが。フロントパネルやトップカバーを既に数十回も外しているが、完璧なビス受け処理が行われ、母材の磨耗が無く安心してメンテビス締めが出来る。


グラビア・・・その他のスナップ

本体からフロントパネルを外してポーズ。やや右手から差し込む窓のソフトな明かりが印象的だ。
フロントパネルは前面からの6本の鍋ビス(4mm)と、上から1本と下から2本の皿ビス(3mm)を外せば取り出せる。
ビスピッチが特殊ではと心配していたが何とISOネジがピッタリ合った!。 本体とは2本のフラットケーブル(コネクタ)とスピーカーコード(ファストン端子)で接続されている。これを外せばフロントパネルを完全に取り外すことが出来、裏面のメンテナンスがやり易くなる。
手を抜いてケーブルを付けたまま無理な体勢でやると、短絡や塗装の剥離を招くので注意したい。
MIC入力を辿って行くとOPアンプのMICアンプ2段の後はコーデックに放り込まれるが、どのような処理をしているのか良く分からない。
受信についても突如としてDSPからアナログ音声が出てくるのであっけにとられる。
外部とのやり取りで介在するアナログアンプが気休め材料になっている。



シャシ底面のアルミカバーを外した様子。写真のフレーム外だが容積の1/3はスピーカー背面の空間(Verにより電源が搭載される)が占めている。
上がDSP関係の基板、下がRF出力LPFと思われる。
上側のDSP基板には、右端にTexasInstrumentのDSP/TMS340C31PQLと記されたLSIが搭載されたサブ基板、中央上にROCKWELLと記されたLSIが見え興味を引く。
ROCKWELL社とRACAL社は技術提携や技術供与関係にあったのか?などと、裏舞台の想像を掻き立ててくれる。
それ以外に電源基板、メモリ基板が搭載されている。
白っぽい単三電池大のモノは3.6Vのリチウム電池で、電圧は3.67Vあり極めて良好だった。
左側がリアパネルでAUDIO/DATA/CTRL/PHONE/RFの各端子・コネクタの配線が行われている。
AUDIOコネクタ(Dsub25P)のアナログ端子番号が分らないため、周辺でアナログICを探したところC9P5534-9Nと言う聞きなれないICからそれらしきパターン配線が出ている。これかぁ。
下側はRF出力LPFと思われ8つのバンドをリレーで切り替えている模様。出力端には小型のトロイダルコアを2段に重ねたCMカプラが配置されている。BITでカチャカチャ言っていたのはこれかぁと振り返る。
右側がフロントパネルで内側に基板、下方に交換したマイクコンセントが見える。

前項の底面をフロントパネル側から覗いたフルショット。
LPFとリレーは実に整然と並んでいる。CMカプラ側がアンテナやPA側の本線であるから、ハイフレ用LPFが最寄の奥側の配置となりローフレは経路の長い手前側に配置されている。LPFは各バンド毎に3個のコイルが配置されているが、その使途は想像の域を脱しない。
アマチュアバンドの様に周波数が限られている場合は想像がつくが、任意の周波数で不要輻射-60B(ハーモニックス)と-55dB(ノーハーモニックス)を確保するとなると想像がつかない。
この角度の写真は中々お目にかかれないのでは・・・。
ところでアナログMicアンプ系にVRなる物が存在せず60dBもの利得をOPアンプ(2段:10倍x100倍)持たせている。
ハンドマイクで普通ではない大声で「がなる」とOPアンプ電源は12V片電源である事もあり飽和が始る。
それでRF出力はどんなモノかとオシロでエンベロープを診るとこれが程ほどにレベル・コントロールされていて驚く。一体どうやっているのだろうかと・・・。
騒音(バックノイズ)によりスレッショルドを跨ぐ時のミスデジット状のノイズでS/Nが悪いが、ボイス入力時は良好なS/Nとなり運用上は問題ない。これって短波通信における英国流の割り切りなのだろうか。アマチュアは理解に苦しむが、元々短波はフェージングやノイズのフィールドだからと言う事か。