USB⇒AnalogAudio変換(DAC)キットの製作(Dec 3〜13, 2009)
最近のPCはUSBによる周辺機器のホットスワッピングが頻繁に行われる便利な時代になった。PCに限らず測定器や無線機までがUSBインターフェイスを設置している。大容量のUSBメモリは、あっという間にMOやCD、その他のリムーバルメディアを駆逐している。この先どうなるのだろうか・・・。などと難しい話で始まったが、PC全盛の時代にオーディオ加工や再生も随分PCに依存する時代になった。それで急にPCからアナログオーディオを取り出したい事がしばしば発生する。PCのレシーバー端子かサウンドカード出力から変換コードを使って取り出す事でお茶を濁していたが、時代の流れに乗りUSBから直接アナログオーディオに変換する装置を作ってみた。
実はこの制作、同僚K氏のサイトでこのVICS社のキットPCM2704を発見した事が発端になっている。

PCM2704Kitとは
写真は組み上げたKit。部品点数はそんなに多くないのだが抵抗やコンデンサが大分小型で、カラーコードや文字の読み取りにてこずり時間が掛かる。凡そ1時間で完了すると思われる。抵抗のカラーコードは色面積が非常に少ないため色識別が不十分でテスターを持ち出した。また積層セラミックは容量が文字で記されているのだが、小さくて角度を変えて見ても読み取れず止む無くLCメータの登場となった。
PC側は、WindowsXPならUSB接続すれば自動的に認識される。この時PC側のスピーカー系は切り離されるので注意。ステレオヘッドフォンを十分に鳴らす出力を得る事が出来る。こんなモノでよく変換できるものだと、苦労してDA変換を自作した世代には驚き以外の何物でもない。
アナログ出力はRCAやホーンジャックで取り出す。トランスやOPアンプで平衡変換しXLR-3コネクタで取り出せば汎用性はさらに上がるだろう。
回路図は付属しないのでシルク印刷やプリントパターンを見ながら読み換える必要がある。それにしてもDレンジ98dB…周辺回路が追い付けない。

PCM2704とは
写真は心臓部のDAC、バーブラウン・テキサスPCM2704のクローズアップ。肉眼では見えないのでデジカメで撮影後拡大し半田ブリッジ等を確認した。KitだがこのLSIだけプリント基板に半田付けされ出荷されている。半田付けに失敗する方が結構いる事を経験的に察しているVICSさんの親心とも言えそうだ。或いはそれによる苦情や調査依頼が殺到する事を事前に回避する目的なのか。いずれにせよこの対応は製作時間の短縮と完成度向上に一役買っているのは間違いない。
PCM2704のDA変換後は、シングル電源デュアルOPアンプのOPA2340がアナログバッファ出力する。このOPA2340シリーズは低電圧シングル電源で動作させるアンプには最適と謳われている。バイアス回路が内蔵されている模様で外付け部品も少なくて済む。5V電源でも32Ω程度のイヤホンを鳴らすと十分な音量がある。
Audioマニアにはキットのコンデンサを交換したり水晶発振子をTCXOに交換したりと難しい事に精を出す方がいらっしゃる。一体何が得られるのだろうかと疑問でならない。そこは既にエレクトロニクスではなく宗教的な匂が感じられ近寄り難い。エレクトロニクスやAudioはもっと易しいはずなのに…。

特性を確認してみた
ダイナミックレンジ98dBと謳われても、一般のアナログ測定器では測定限界を超え、評価など望むべくも無い。しかし経験的にどの程度のノイズレベルや歪みなのか興味があり手持ちの測定器で測定してみた。
デジタルの信号源はフリーソフトのWaveGeneratorでメニューにより1KHzを0dBを発生させる。この0dBがどういう値なのか良く分からないが・・・フルビットなのだろうか?。信号は16Bit/48KHzサンプリングとした。
この信号を発生させ本機の出力を見る。ShibasokuのAH979Gで10KΩ受けすると出力は0.5dBsでTHDは0.083%。なお負荷を600Ωにした場合の出力レベルは0.3dB程度の低下に留まり、THDの変化も殆ど感じられなかった。
WaveGeneratorの発振をメニューで停止させたときの残留ノイズは-67.5dBs。AH979Gへの接続をやめるとノイズは-80dBs以下になるので明らかに装置からのノイズである。但しAHA979Gの入力特性はフラットであるので高い成分を拾っているのかも知れない。
そこでスペアナにより50KHzスパンのノイズ状況を拾い出したのが左の写真(出力を1KΩの抵抗経由でスペアナに導いてた)。スペアナの保証は100Hz〜なので、ひょっとしたらそれ以下の低域成分の影響かも知れない。これらはL/Rとも同じ状況だった。

周波数特性に特異カーブ(内臓サウンドカードと比較)
WaveGeneratorを起動したついでにf特をとってみた。
WaveGeneratorは各周波数で0dBとしている。作業は自前のメインPC上で行っている。このPCは何故か出力レベルが低い。
フラットが当たり前と思っていたが、以外や以外1KHzを中心にHigh上がりのSカーブになっている。
結構早い段階でHigh側が+3.5dB、Low側が-4dBのカーブになっている。凡そ上下対称で、何かこれには意図的なモノを感じる。或いは何処かにフラットにするスイッチが有るのだろうか・・・PC本体の影響もあるのかも知れない。
そこでサブPCに接続を変更し同様のテストを試みたが、傾向は全く同じであった。
そう言えばヘッドフォンで聞くと確かにHigh上がりだ。
念のため測定したPC内臓のサウンドカードのヘッドフォン出力でf特は、Low側が50Hzで-6dB、20Hzで-13dB落ち、High側は20KHzで-0.7dB落ちで一般的特性だった。サウンドカードはIDT Audio・・・設定:ステレオスピーカー、EQフラット。
これらの数字をどう見たら良いのか迷う。ただ言える事はPCの音声f特って結構アバウトな管理だなぁと言う事だろうか・・・。

所 見
○何れにせよADCチップPCM7204の特性は周辺のアナログ回路により大きく影響されている。出力バッファアンプは、フィードバック抵抗比10K/4.7Kから利得は凡そ0.5かと思いきや、良く診ると非反転増幅のため10K+4.7K/10K=1.47倍。電源電圧が5Vのため、歪みから逃れられる最大の利得を持たせたとも考えられる。この辺りに設計者の苦労が伺えるが、OPアンプが仮にDC5Vをフルにスイング出来たとしても、AC換算すると5/2x√2=1.786V=7dBs。この値をフルビットに割付け98dBのダイナミックレンジを得ようとすると、最小信号レベルは7-98=-91dBs・・・うーんこりゃ普通のアナログ回路じゃとても実現できないのではと思われる。98dBはあくまでもビットレートで見た場合のADCの理論値と受け止める事にしよう。
○f特のS字カーブには興味があるが使用場所によっては注意が必要だろう。PCM2704に設定スイッチが有るのかもしれないので調査したい。どなたかこの件についてご存知の方がいらっしゃったらご教示願いたい。
○右はケースに収めた様子。ケースはTAKACHIのHA1593-PG。USBコネクタ側にタッピングビスの締め付け穴がある。基板の穴より若干間隔が狭いためヤスリで調整するとビス止めする事が出来る。AnalogAudioはRCA-JackとMini-Jackも取り付けた。

不可解な現象・課題
@オシロスコープやスペアナのGND端子(非接地)を基板のGNDにタッチさせた時、利得変化(PCM2704のAnalog出力で上昇)やハングアップが発生する・・・アース回路が弱く、基板を装置間のアースループ入れた瞬間にこの現象が発生する。利得調整Pinに影響を与えているのだろうか・・・。
APCのUSB端子に他のUSB機器を接続するとハングアップする・・・電源回路が弱く強力なLCフィルタで強化が必要か・・・。