2006年4月22日

金曜日の朝、急遽、会社の同僚から、土曜(つまり、翌日)、一緒に舞台を観に行かないかと誘われた。
一緒に行くはずだった子が、出勤しなくてはならなくてはならなくなったらしい。

演目は世界のニナガワこと蜷川幸雄氏の「タイタス・アンドロニカス」。
会場はさいたま芸術劇場@与野本町。

この演目、シェイクスピアの作品の中でも、もっとも凄惨で残酷な復讐劇である。

■あらすじ■
パンフレットより引用

前皇帝の息子サターナイナスとバシエイナス兄弟が、帝位継承権をめぐり争っている不穏なローマ帝国。

あるとき、この国の武将、タイタス・アンドロニカスが、ゴート族との戦いに勝利し戻ってきた。タイタスはこの闘いで息子たちを失った。その弔いの儀式に生け贄が必要だ。捕虜として連れてきたゴート族・女王タモーラの長男の身体を、彼女の懇願を振り切って、切り刻み、燃やしてしまう。
むごたらしい復讐劇の幕開けだった。

戦の快挙から新皇帝に推薦されたタイタスだったが、皇帝はサターナイナスにと提言する。サターナイナスから感謝のしるしに、娘ラヴィニアを后に迎えたいと言われる。ところが彼女はバシエイナスを愛していることがわかり、怒ったサターナイナスに、タイタスは追放を言い渡される。一方タモーラは、サターナイナスに一目惚れされて結婚、ローマ帝国皇后となる。

タモーラの提案で、タイタスは追放を免れたものの、彼女が内心、タイタスへの復讐に燃えていたことを、その時彼は知る由もなかった。

タモーラのタイタス一族への報復が始まった。まずタモーラは愛人のムーア人エアロンに自分の息子たちをそそのかせ、バシエイナスを殺害、ラヴィニアを強姦させる。エアロンはタイタスの息子たちとサターナイナスを順におびき寄せ、タイタスの息子たちがバシエイナスを殺したとサターナイナスに思わせることに成功した。息子たちは死刑宣告および国外追放となる。

惨劇の場へ駆けつけたタイタスは、口封じに両腕と舌を切断されたラヴィニアの変わり果てた姿に驚愕する。タイタスは息子たちへの宣告を撤回してもらうおうと自分の片手を切りサターナイナスに献上するが、返ってきたのは息子たちの生首だった。

やがてタイタスは事件の真相を知り、タモーラに憎悪の炎を燃やす。それぞれ愛する子供たちを殺し殺されたタイタスとタモーラ。報復に報復を重ねていく。そして、最後に残ったものは……。

■感想■
一言で言って、重い!!
しかし、それと同時に、私はこの作品に内包されているメッセージを理解したいと思う。
根本のところになってしまうのだが、シェイクスピアは何故にかくも凄惨な作品をこの世に残したのだろうか。
そして、蜷川氏はなぜ、海外の情勢が不安定なこの時勢に、この作品を上演したのだろう。

憎しみは憎しみを生み、血で血を洗う争いは続く。

そういうことなんじゃないかと、私は理解している。
いや、足りない。
全然足りない。
もっと深いところにあることを理解したいが、追いつかないのがもどかしい。

舞台セットは真っ白である。
衣装も白を基調としたものを用いている。
悪の象徴かのようなエアロンは、一度も白いものを身につけてはないなかったが。
一見無機質な舞台で繰り広げられるその芝居は、生々しい描写があるわけではないが、逆にそれによって観る者の目には残酷さが増して見えるような気もする。
血は赤い糸で表現されており、それが白に映えて、鮮烈に残酷な有様を映し出しているように見えた。
特にラヴィニアが両腕と舌を切り落とされ、身を隠そうと森をさまようシーンは、「作られた」光景であるにも関わらず、見るも無残だった。

最後までわからなかったことがある。
エアロンは、何故そこまで悪にこだわっていたのだろう。
生まれながらの悪などないのではないかと思うので、何かがエアロンをそうさせているのだろうが、それが何なのか、そのバックボーンが知りたいと思った。

興味深いと思ったことがある。
会場に入ると、既に役者が舞台にいて、稽古か準備をしているような体で、蜷川氏やスタッフも舞台上にいたりするのだ。
そして、蜷川氏の「そろそろ始めようか。」という声で舞台始まった。
また、舞台で使う小道具や、衣装がロビーに置かれているのも興味深い。

思いついたままに書いたので、私の伝えたいことがうまく書けていないような気もするが、とにもかくにも、なんとも意義深い時間を過ごせたと思う。
普段、劇団四季のミュージカルを追っかけるのに精一杯なので、なかなか他の舞台に手を出すことは難しいのだが、こういう台詞劇もいいものだ。
今日の舞台ではガンマイク(舞台に前っ面にマイクが仕込んであることもあるのですよ。)がなかったので、役者は生の声を劇場の隅々にまで飛ばす必要がある。
そのせいか、今日の芝居は役者の気迫が伝わる舞台でした。

やっぱり世界のニナガワはすごい!!

■おまけ■
与野に行くのに、久方ぶりに武蔵野線に乗った。
・新座の駅の発車ベルが「鉄腕アトム」になっていた。
 新座のアトムは跳ねてるぞ。(高田馬場のアトムは跳ねてない)
・JRの在来線で一番長いトンネルと一番長い鉄橋を通った。